魔導士イシダヒロトの章
第6話 良い人と思われている魔導士
魔王との戦いなんて俺にとってはどうでもいいことなのだ。
この見知らぬ世界に転生して俺が手に入れた素晴らしい魔法の力があれば平和なんてどうでもいい。少なくとも、俺は自分で自分の身を守ることが出来るようになったのだ。
最初は自分の力がどれくらい強いのか恐る恐る確かめていたのだが、ある時に俺は自分の力に気付いてしまったのだ。なんてことは無い基礎的な魔法でも俺の魔力で扱うと最上位魔法と同等の威力になってしまうのだ。基礎魔法なので俺自身には全く負担はないのだが、周りのやつらはそんな事を知る由もなく俺は最上位魔法をぶっぱなしまくる頭のおかしなやつと思われているようだ。
そんな事もどうでもいい。俺はこの世界で力と富を手に入れた。名声なんて一円の価値も無いものは俺には必要ない。何なら、今から手あたり次第に魔王でも倒して名声を得ることだってできるのだ。俺がやる気になればいつだって魔王を倒すことが出来るのだ。
それにしても、俺の中に溜まっている魔力が外へ出たいと暴れているような気がするんだよな。三日に一辺くらいは魔法を使わないと俺の中のありえない程の魔力が外へかってに出ようとするのだ。俺としてはどこかで気軽に魔法を使えればいいのだが、街中での魔法は緊急時を除いて使用を禁止されているのでわざわざ外まで出ていかなければいけないのだ。外に出るからには魔法をぶつける相手が欲しいものなのだが、この町に近付く魔物もめっきり少なくなってしまったのでわざわざ遠出をする必要もあったりするのだ。
俺が一人で歩いていても魔物に避けられるだけなのは分かっているので、今では初心者を連れてちょっと遠くまで行くことが増えていた。俺にとっては魔物をおびき寄せる餌として連れているのだが、奴らにとっては俺みたいな強い男と一緒にいられることで学ぶことも多いらしく、無償でも俺と一緒に行動したいというやつが多くなってきたのだ。
「一番うまい酒と飯を頼む。それと、明日の昼過ぎから東の森へ行こうと思うんだが、誰かついてくるやつはいるか?」
「何人でもいますよ。今だってイシダさんと一緒に行きたいってやつらが順番待ちしてるくらいですからね。どんなのをお好みですか?」
「好みなんてねえよ。荷物をもってくれるやつなら誰でもいいからな」
「相変わらず条件が緩いですね。で、今回もついていくのは無料だけど手に入れた宝物はイシダさんの総取りって事ですよね?」
「ああ、それが嫌なら一人で行くだけだからな」
「嫌だなんて言う人はいませんよ。イシダさんの戦いを間近で見られるって事に金を払う人はいると思いますけど、タダって言われて文句を言う人なんていないでしょう」
「俺が戦ってる姿なんて別に珍しくも無いと思うけどな」
「そんな事ないですよ。いろんな魔法使いを見てきましたけど、イシダさんみたいに強い魔法使いなんて数えるほどしか見た事ないですからね」
「その話し、詳しく聞かせてもらおうか」
俺は運ばれてきた料理と酒を堪能しつつマスターの話を聞いていた。俺と同じくらい強い魔法使いは三人見たことがあるらしく、一人は確殺の魔法を使う女でもう一人は反撃の隙を与えないくらい魔法の連続使用を行うことが出来るという事だ。もう一人は大魔王を倒したモエカという魔法使いなのだが、さすがに俺もモエカという魔法使いの噂は聞いたことがある。なんでも、今まで封印して時間を稼ぐことしか出来なかった大魔王を完全に倒したという事らしいのだが、俺がこの世界にもう少し早く来ていればその立場に俺が立っていたはずなのだ。
「その、モエカって魔法使いは俺より強いのか?」
「どうでしょうね。私は魔法が使えないので詳しいことは分かりませんが、モエカさんはどんな魔法も対処できるみたいなので魔法使い同士の戦いでは分が悪いかもしれませんね。イシダさんの魔法を無効化出来るかは知りませんが、あんまりいい結果にはならないんじゃないかと思いますけどね」
「魔法使い同士の戦いは相手の魔法を封じることが出来れば終わりだからな。今の俺には相手の魔法を封じることなんて出来ないからな。マスターの言う話が本当だとしたら、俺に勝ち目はないのかもしれないな。だが、対処される前に俺が銭湯不能にしてやるって可能性もあるわけなんだよな」
「そうかもしれませんが、その可能性もあんまり高くないと思いますよ。世界を恐怖の渦に陥れていた大魔王ですらモエカさん相手に一度も優位に立つことが出来なかったんですからね。王国に行けばその時の様子を見ることが出来ると思うんですけど、王国に行くのは色々と大変ですからね」
「大変って、勝手に行ったらダメなのか?」
「ダメってことは無いですけど、今の王国に行っても良い事ないですからね。帝国と連邦を相手にまだ戦争をしているようですからね」
「そう言えばそうだったな。魔王が極端に減った地域は人間同士で争うことになるんだもんな。でも、なんで帝国と連邦を相手にしてるんだろうな」
「さあ、本当かどうかは分かりませんがね、連邦と帝国が同盟を組んで王国からモエカさんを奪おうとしているみたいなんですよ。ただ、モエカさん自身は人間同士の争いに全く興味が無いそうなんですよ。一応王国内の戦闘員に魔法の訓練はしてるみたいなんですけど、直接戦争に介入することは無いみたいですね」
「一つ気になるんだが、大魔王が討伐されたのってもう二百年以上前の話だよな。そんなに昔からいる魔法使いがまだ存命なのってちょっと面白いな」
「私も本当の事なのか割りませんが、モエカさんは不老少女と呼ばれていますからね。年を取らないんじゃないですかね」
「不老不死ではなく不老ってのが気になるよな。俺もその力を手に入れたら今よりも強くなれるのかもしれないな」
「その力が無くてもイシダさんは強すぎる力を持っていると思いますよ」
俺はマスターに勧められた酒を飲み切ったので今日は帰ることにした。魔法使いモエカの噂は何度も聞いていたのだが、相変わらず実態がなにも掴めない女だ。不老不死ではなく不老というところが前から引っかかっていたのだが、不死ではないなら俺が殺すことも出来るのだろうと思ってみたりもした。ただ、俺は人を殺してみたいと思ったことは無いので純粋に自分の力を試してみたいという思いがあるのかもしれない。
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