第10話 遠征で習得しよう
一時間ほど戦闘をして現在休んでいるところである。
それなりに戦っての感想を話している。
「しかし、飛んでいる敵でもなんとかなる物ですね。」
「ああ。大きいからか、飛べても頭くらいの高さまでなので、そんな脅威にはならないな。」
「でも、激昂蝶の名のとおり、時々突進してくるのがやっかいですね。」
「だよな。あんなでっかい見た目が虫の魔物が、目の前に飛んで来るのは気持ち悪りぃよな。」
「ですよね。私なんか、短剣しか持ってないから、防ぐのが大変ですよ。突進さえしてこなければ、倒すのは楽ですけど。」
「あとは、一回だけ戦った、あの剣や刀を持っている魔物、少しやっかいでありません?」
「そうか?武器を持ったやつと本気で戦えるなんていい経験だと思うけどな。」
「なるほど、そう考えればいい経験になりますか。」
「私はあれに近づくのは怖いので、魔法で戦っちゃいましたけどね。」
「ミサは、魔法使いなんだから、それでいいと思うぞ。」
「よし、剣や刀がドロップしたから、あれも狩っていくぞ。」
「えー、でもドロップの剣や刀はなまくらなんだよな。あれがもう少し良い物ならな積極的に狩ってもいいけどな。」
「それは贅沢でしょう。」
まぁ、リア達は、役立たない剣や刀のドロップで文句を言っているが、あれが出たことで目的物も出る可能性があると分かったのは収穫だ。
その後も狩りを続け、初日は移動に半日費やしたこともあり、休憩を挟みながら、あと二度ほど狩りをしてその日は終了になった。
剣や刀を持った魔物とも二度ほどまた戦闘をしたが、残念ながら1回目は魔石のみ、2回目は魔石と剣のドロップだけだった。
夕食は、街で買い込んだ干し肉やパンだけで済ませるつもりだったが、鞄に食料も入っていたのを思い出し、甘い焼き菓子のアップルパイを振る舞うことにした。
野営など、干し肉とパン、塩味のスープだけのメニューのはずが、鞄からか俺がそんなものを取りだしたものだから、一同喜んでくれたが、約一名、ディートだけは何とも複雑な表情でこちらを見ていた。
リアに至っては、他にもないかと詰め寄って来たが、鞄に入っている食料は20品目いくら個数が一点あたり最高で999個あるとはいえ、一回に5個消費され、補充も効かないとなればそんなにおいそれとも出せないので、1個だけで納得して貰った。
明日からも毎日出せとか言われないよな。
女性2人1組、俺は一人で夜の警戒と火の番を交代ですることにして、今日は休む事にした。寝る時は、馬車を出してその中で女性陣は休んでもらうことにして、俺は外で休む事にした。
俺は、御者台で横になると、あー、これは荷台に敷くマットのようなものも用意しておくべきだったな。
そんな感想を漏らす。
翌朝は、軽く食事を済ませ、昨日と同じ要領で魔物を倒して行く。
多少の怪我は負うが、俺の魔法で治せる程度で済んでいるため、順調に戦い続けている。
時々現れる武器持ちの魔物も慣れて来たのと連携がうまく取れるようになったこともあり、さほど苦戦せずに倒せている。ただ得られるのは相変わらず、魔石となまくらな武器だけったが。
夜は流石に鞄の中の料理は遠慮してねだられなかった。
遠征中はこんな感じで戦闘が繰り返され、5日目が終了した時点で、ディートとパルマはレベル2の習得が終わり、俺達はレベル3の習得が1マス終わった。
そして取り合えずあと1日ここで習得をして、換金と休憩のため一度街に戻ることにした。
なので、最後の夜は、再び鞄から食事を出す事にした。リアは、甘い物を期待していたようだが、甘い物ばかり偏って消費したくないし、我慢して貰い、今度はスープの替わりにビーフシチューを出した。これもディート達でさえ、食べたことがなかったようで、大変好評だった。
習得は順当に行なえているな。でも、やっぱり時間もかかるよな、これ。
最終日もいつもどおり狩りを行う。昼ちょっと前、武器持ちの魔物を見つけたので、これを倒して帰ることにしたのだが、最後についに目的の物がドロップした。しかも2種類も。やったね。
「あの、これ剣と太刀の中級の武芸の書ですよね?」
ディートが、手にしたドロップを見て、俺に疑問をぶつけて来た。
俺は、素直に肯定した。それ以外できないよね。うん。
「ああ、そうだな。」
「何で魔物がこんな物持っているのですか?」
どうしてだろうね。本当に疑問だよね。この世界じゃ、冒険者がまず手に入れることができない物だしね。
ゲームでは、国ごとの特色をだすため、武器や魔法の得手、不得手が設定されていたため、所属する国によってはプレイヤーは初級の習得しかできない職業があった。そこで、その救済策として、ドロップアイテムで習得が出来るようにしていたのだ。
今回は、そのドロップ対象の魔物に近い外見の魔物が、ここに出没していると聞いたので、習得がてら試しに狩りに来ていたのだった。
もちろん、そんなことは話せないので適当に誤魔化す。
「俺達のように習得でもしてたとか?」
「そんなわけないでしょう。」
「まぁ、でも折角手に入ったんだ。リアさんとディートさんがそれぞれ持っておけ。」
納得できないといった表情で睨んでいるディートから、俺は剣の中級の武芸書を取り上げ、リアに渡す。
リアの方は喜びながらも、戸惑いつつこう聞いて来た。
「こんなの貰っていいのか?」
「そんなもん売る訳にも行かないし、この中で使えるのはお前だけだし、持っていろ。」
「おう。判った。」
そう言うと、リアは素直に嬉しそうにしていた。ディートも深く考えないで欲しいな。
でも、ここに連れて来て、面倒な武器持ちの魔物も狩ろうと言ったのも俺だし、俺が判っていたのではと、邪推もするよね。
まぁ、期待して狩りには来ていたのは、そのとおりなのだけどね。
さて、目的の習得の書は手に入っちゃたから、どうしよう?あとは最低でも、パルマの中級の武芸の書と、ミサの中級の魔法の書は見つけておきたいけど、街に戻ったら、もう少し聞き込みしてみるかな。
でも、それでまた、お目当ての書が見つかっちゃうと、ディートにますます怪しまれるよね。どうしたものか。
帰り道の御者の指導は、帰りながら行うと実地が人の行き来が多い街の近くになるので危ないため、、街に帰るのに少し早かったのもあり、出発前にパルマがリアと復習の為とミサに事前にレクチャーを行い、リアとミサが分岐まで交代で御者を務めることになった。
という訳で、帰りは分岐まで、俺とディート、パルマが馬車の荷台という事になった。
うん、非常に居ずらい。洗いざらい話して楽になりたいが、こんな荒唐無稽の話を果たして信じてくれるだろうか?
下手したら異端者扱いされてしまうかもしれない。
よし、沈黙は金だ。
しかし、その沈黙は、ディートによって破られた。だが、聞かれた内容は思っていたのと少し違った。
「ねぇ、この習得の書の事、ギルドに話して、公にしますの?」
「いや、それはまずいだろう。少なくても俺は話す気はない。」
俺は、少し考えそう言った。だって、国が冒険者に渡していない物が、魔物から手に入るなんて知れたら大変だよね。多分、国や貴族が、俺達やそれを知った人間の口封じをしようと動くよね。
「それを聞いて安心しました。あと、浮かれている御者台の二人にも口止めするよう話しておいてくださいね。」
「あー、そうだな。特にリアは危ないな。」
俺も、彼女ら、特にリアが何も考えず、嬉しさから話してしまわないか心配になり、口止めをさせることを約束した。
「でも、今回は剣と刀でしたが、他にも探せばあるのでしょうか?」
パルマが、俺とディートの話が一段落したのを待って、そう疑問を口にした。
そうだよね。当然疑問に思うよね。
「たぶん、あるんじゃないか?これだけと言うのは逆に不自然だろ。」
「ですよね。ない方が不自然でしょうね。問題はどこにあるかですが。」
「こればかりは、わからないな。ただ今回剣と刀を持った敵からドロップした。他のも同じような敵から出ると考えられないか?」
どうだろ?自然にヒントを出したつもりだけど、怪しまれないか?
「なるほど、確かにそうですね。お嬢様、街に戻ったらそれとなく情報を集めてみます。」
「ええ、お願いするわ。」
よし、これで俺が話を聞いて、そこに行こうと誘っても怪しまれないし、ディート達が情報を得て、逆に提案してくる可能性もある。いいぞ。
「そうだな。俺も聞き込みをしてみよう。上手くいけばパーティーの強化になるからな。」
「そうですね。お願いします。」
「ええ、お嬢様と共に歩むためにも見つけましょう。」
パルマも、ディートが太刀の中級の書を所持したことを気にして、そう言った。
うん、わかるよその気持ち。
その後、街道に出ると再びパルマが御者台に行き、リアとミサが戻って来たので、習得の書のことを口止めした。
二人も俺の話を聞いて、これはヤバイ物だと理解してくれたみたいで、盛んに頷いてくれた。うん、よしよし。
後、ついでに宿のことも聞いてみよう。
「ところで、みんなは宿はどうするんだ?街で二日くらい過ごしたら、また習得に出かけることになるが?」
「私達は、どこかに宿を取ります。本当は家に帰って節約したいのですが、あまり親に甘えるのも良くありませんので。」
「うーん、あたし達ももう今までの所は、他の子で埋まっているだろうから、二日だけだから二人で少しいい所に泊まるつもりだけど。」
「なら、宿代は俺が出す、同じ宿に泊まらないか?食事の時に打ち合わせとかできるし、便利になる。どうだ?」
「えーと、泊まる宿って部屋も一緒とかじゃねぇよな。」
「当然だ、ただ、部屋の空き具合によっては、リアさんとミサさん、ディートさんとパルマさんは同室とかになるかもだがな。」
「それなら構わないよな。ミサ?」
「ええ、いいですよ。」
「ディートさんはどうだ?」
「ええ、女性だけなら4人部屋でもいいですよ。でも、宿は決まっていますの?」
「ああ、食事をした宿があったろ。あそこにするつもりだ。もちろん、そこでの食事代も出すぞ。」
「あそこ高いだろ。いいのかよ。」
リアは、そう伏し目がちに聞いて来たので、俺は、即答する。
「もちろん、いいとも。」
「お前の金銭感覚どうなってんだよ。まったく。」
「あら、リアは、パーティーに誘われた時見たく、熟考しないで決めちゃっていいの?」
「もう、諦めたし、こいつ一人にして、目を離した方が危なそうだし。」
「でも、パーティーの仲間は本来、対等であるべきだと言って、魔物mの報酬は等分にしていたのに、よろしいのです?」
ディートが、俺が以前言ったパーティーの大原則を乱していいのかと聞いて来た。
「まぁ、そうなんだが。俺は快適さを求める。これは譲れないので、それを強要する詫び賃だと思って貰えればいい。」
人間、一度豊かな生活に慣れてしまうと質を落とせない。まして俺は、家電に囲まれた世界から来たんだ。
今更、風呂なし、ベットは寝藁なんてところに泊まりたくない。
なので、ここはそこに目を瞑って俺の我儘に付き合って貰うしかないので、そう答えた。
「随分、気前の良い詫び賃ですこと、ギリーさんの言い分は、わかりました。一緒にいた方が何かと都合がよろしいのも確かでしょうからお受けします。」
「我儘に付き合って貰い悪いな。」
「こっちは、いい宿に泊まれるんだ。謝ることでもねぇだろ。」
こうして初遠征は無事に終わったのだった。
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