第9話 遠征しよう
翌朝は、馬車が出入りできるイオナの街の南の正門に集まり、幌付き馬車の確認を行い馬車を受け取る。
昨日、俺たちは他の買い物もあったため、馬を確認していないので、そのまま馬車を売ってくれた店の人と一緒に門を出て馬を馴致している牧場に馬を見に行く。
今、俺たちの馬車を牽いているのは昨日見たトカゲ君だ。見かけは速いだけでパワーがなさそうだが、意外と力強く、荷物と女性陣を乗せた状態で引っ張っている。
牧場に着くと何頭か居る2歳馬から良さそうなのをパルマに見繕って貰い、そのまま遠征へと向かった。
「馬車って快適ね。私があの街に来たときは、重い荷物背負って歩いてきたけど、大変だったもの。」
リアは、荷台に毛布を敷き、そこに仰向けになって、そう言った。
「そうよね。リアったら、冬の間にこっちでの生活の足しにと内職頑張ったから、沢山荷物を持って歩くのも大変そうだったものね。」
「おかげで、色々買い揃えられたんだし、いいでしょ。」
「リアさん、馬車でも、本来ならここまで快適ではありませんよ。試しにフローティングボードの魔法を切ってみましょうか。」
ディートはそう言って、魔法を停止させた。
次の瞬間、馬車の振動がダイレクトに伝わり、横になっていたリアの体が跳ね上がるように動いた。
「うぉぁ、なんだこれ、うぁ、頭打つよ。この揺れ。ちょっとやめて。」
「ごめんなさいね。フローティングボードを荷台に設置してなければ、あのような感じなのですよ。」
そう言って、ディートは、魔法を再び発動させた。
「うーん、あれだけ揺れると横になって寝るとか無理だなぁ。」
「ですね。この辺は、これでもまだ道が踏みならされていますからいいですけど、村にいたときは、悪路ばかりで、御者台にいるより馬を牽いて歩いたほうがマシと思いましたよ。」
「そうなんだ。快適なのはギリーが金を出してくれたからか。」
「まぁ、そうなるよね。」
ミサの言葉を聞いて、リアは起き上がると、御者台の方へ顔を出してきた。
「ありがとうな、ギリー。」
「どうした?急に顔を出したと思ったら、ずいぶん軽い礼を言ってきて?」
馬の馬蹄の響き、嘶き、馬車の車輪の回る音など騒音が多く、また幌に覆われていることもあり、幌の中の声は御者台に聞こえないため、リアの言動が理解できなかった。
俺は、なのでリアに急に礼を言われ、戸惑ってそう尋ねた。
「ニシー。荷台がいかに快適になっているか教えて貰ったので、そのお礼だよ。」
「なるほど。」
中は、快適なようで何よりだ。
「そっちは、馬の扱い大丈夫そうか?」
俺は、パルマから必死に馬の扱いや、馬車同士のすれ違い時のマナーを教えて貰い。それを必死に覚えているところだ。
「ああ、一通り教えて貰ったので、街道を外れてから試しに替わって貰う予定だ。」
「そうか。頑張れよ。帰りはあたいが習うんだから、それまでにしっかり覚えておくんだぞ。」
そう言って、リアは幌の中に顔を引っ込ませた。
「なんだったんだ。あいつは。」
「揺れのない荷台でゆっくりできるのですから、はしゃぎたくもなるでしょう。」
「パルマさんもそうなるのか?」
「いえ、私は、お嬢様を守る立場にありますので、そのようなことは。」
「町中やこう言った場所でならそれもいいが、冒険者として振る舞うときは、ディートさんも同じ仲間として扱って欲しいな。」
「パーティーリーダーとしてのお言葉でしょうか?」
「うーん。そうとも、違うとも?まぁ、お互い遠慮があるとうまく行くことも行かなくなることがあると言うことだ。」
「うふふ。わかりました。仲間からの忠告として気を付けます。では、あそこが街道と目的地の分岐になりますので、脇に逸れましたら替わりましょう。」
そうして、脇に入ってから、御者を替わったが、俺の緊張が手綱から伝わるのか、スピードを緩めようと指示を出したが、なかなか伝わらずに進むなど、なかなか思い通りには行かなかったが、なんとか無事に目的地に辿り着けた。
「馬車と馬はどうするのです?まさかこんな所に置いておく気じゃないですよね。」
馬車を降りると、馬を馬車から外す方法を習っている俺にディートが尋ねてきた。
「もちろん、そんな不用心なこと、馬は、とりあえず襲われないような狩り場の近くに繋いでおこう。馬車は俺が仕舞っておくさ。」
俺は、そう答えると、鞄に馬車を収納した。
試していなかったから、不安だったがちゃんと収納されたな。一つのデータとして、無事に収納されたことに満足していると、それを見たディートが驚いて叫んだ。
「な、なんでそんな大きい物が鞄に入るのです。」
そりゃ、驚くか。パルマも驚きで固まってるしな。誤魔化せねぇよな、よし、開き直ろう。
「うん、そう言う仕様だ。」
「いくらでも収納できるだけでなく、馬車のような物まで収納できるなんて、そんな夢のような鞄、すべて商人、いや貴族だって欲しがりますよ。」
ディートがあきれたような口調でそう言った。
まぁ、そうだろうな。
これがあれば商人は余計な輸送コストを削れるし、貴族は麦を集める徴税のための人員が減って楽になるわ、戦争の際の足枷になる兵糧輸送を考えないでよくなるのだからな。
でも、いくらでもは間違いだぞ、データは200個から220個が上限、1スタック当たり999個が上限だ。それでも荷車なら220台、小麦袋なら20万袋詰められるのを考えれば、こんなの持ってると権力者に知られたら絶対にまずいな。
「あれ?馬車がなくなってるぞ。」
「本当ですね。どうしたのでしょう。」
リア達が、周辺警戒という名の下の用足しから戻ってくると、馬車がないのに気付いて、声を上げていた。
「馬車はどうしたんだ?」
俺に向けて、リアが尋ねる。
俺が答えようとしたところに、ディートが先に口を開いてきた。
「ギリーさんが、鞄に入れてしまったのですよ。」
「ははっは。ディートさんでも冗談言うんだな。それで馬車は?」
「いや、冗談じゃないぞ。ほら。」
俺は、そう言って馬車を鞄から取り出す。
「えっ、えっ、どうなってんの凄いな。」
「そんな驚くことか?魔法で火が出てきたりするんだ、それと同じだ。」
リア達が驚くのを見て、満足した俺は、適当にそう言って、馬車を再び鞄に入れる。
「そうなのか?」
リアはそう言って、ミサの方を見たが、ミサも、それが本当なのかもわからないのでどう答えていいかわからず、困り果てていた。
まぁ、いつもでもグダグダやってても仕様がないので、ディートとパルマが周辺警戒をした後、目的地に向かうことにした。
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