第5.5話 閑話 リアの視点

本日2回目の投稿になります。

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 あたい達は、今日の狩の成果がいつも以上あっただけでなく、薬も使わずに済んだという事もあって、お礼にギリーを食事に誘った。

 だけど、彼が、私達がしっかり話し合って、返事が出来るようにと、今日の誘いを辞退してくれた。


 確かに、彼と食事をしたら、すぐに宿に戻るようだし、宿に戻れば、このギリギリの生活を抜け出そうとしている仲間達がいる。

 そんなところで、こんな話をできない。

 そんな提案を受けたと知れたら、羨望ややっかみが待っているだろう。それに、断ったとしても、あたい達だけそんな提案があったことを知ってしまえば、やはり、一緒に寝泊まりしている彼女らとの関係がギクシャクしてしまっただろう。

 あたいは、自分の浅慮に肩を落とし、彼の気配りに感謝した。


 「ミサ、今日は、話し合いをするから、酒場で食事をするよ。」


 「はい。」


 あたいとミサは、稼ぎがあった時や大事な決めごとをするときに使う酒場に足を延ばした。

 黒パンと羊の内臓の煮込み、野菜と香草のオイルグラタンにワインを頼んだ。


 「おや、今日はいい事でもあったのかい?」


 給仕の女性が私達の注文を聞いて、そう声を掛ける。煮込みもグラタンもこの店じゃちょっと高いメニューになるからだ。


 「ああ、ちょっといい稼ぎができたんでよ。それで奮発しようってわけよ。」


 あたいが笑顔でそう答えると、向こうも笑顔で「そりゃよかったね。」と返してくれた。

 メニューが一通り揃うと、給仕は注文聞きに忙殺され、私達を見ることもなくなり、周囲も酒の勢いもあって喧噪に包まれ、私達の会話は周囲に聞こえなくなる。

 

 「で、どう思う?ミサ。」


 「私は、受けても行かな。」


 「ちょっと本気かよ?初めて会ったあたい達にお金を貸そうってんだぞ。しかも金貨だよ。金貨。絶対なんか騙されていないか。」


 「んー、でも声を掛けたのが私達だし、リアが食事に誘った時だって、断ってくれたじゃない。そんな悪い人には見えないけどな。」


 「そうだけど、あたい達2人分、金貨2枚を簡単に出すなんておかしくない?」


 「だけもど、彼、今日冒険者登録をしたばかりと言っていたけど、装備全部新品だったわよ。装備だけじゃなく服も。だから、それだけ余裕があるということでないかしら?どっかの商人のお坊ちゃんとか?」


 「それでも、そこまで世間知らずじゃないでしょ?絶対何か企んでそうよ。」


 「考え過ぎよ。それに折角の料理、温かいうちに食べましょうよ。ほら。」


 ミサは、そう言って料理を取り分ける。

 確かに、ミサの言うとおり、いきなり、パーティーに誘ったのはこっちだし、彼は、ちょっと身形が良くて、いきなりお金を貸すと言って来たこと以外、怪しいところはない。

 だけどよ、こんな幸運が、何のリスクもなしに起こることが信じ難い。

 その一点を持っても、今日の出来事には裏があると考えてしまうのだった。


 結局、いろいろと話し合ったが、相手が金貸しギルドに所属していないなら、商売としての金貸しはできないから、これで身を沈められるようなことはないし、本当に何かあったら、逃げても政庁舎に訴えれば、こっちが勝てるはずなので、この話を引き受けようということになった。

 ミサは、最初は、いい人だから平気とか説明していたが、あたいがそれで納得しないと感じ取って、途中からは、上記の理詰めの説明をしてきて、あたいも、彼の提案を受けることに同意してしまった。

 まぁ、ミサなりにチャンスは最大限に生かそうと考えてだとは思うけど、ちょっと危なっかしいのよね。それにうまく反論できずに、流されてしまったあたいもあたいだけどよ。




 翌朝、待ち合わせの場所に行くと、既に彼は待っていた。

 お互い挨拶を済ませると、彼はいきなり昨日の返事を聞いて来た。

 ちょっと、もう少しあたい達を安心させるように会話を弾ませてから、聞いてこないの?

 この切羽詰まり方、あまり慣れて居なそうね。やっぱり、ミサの言うとおり、善意からだったのかしら?でも、詐欺師が初心者を装ってだましたり、初心者を餌に自分達は周りに潜んでいたりするかもしれない。

 そう思い、辺りを窺ったが、怪しそうな人影は見つけられなかった。


 まぁ、昨日話し合って、覚悟を決めたんだ。彼の問いに了承の旨の返事をした。

 それからは、本当にあっという間に、スキル習得の手続きが済んで、なんとその上、ミサの魔法の習得にまでお金を貸してくれた。

 嘘でしょ。全部で金貨5枚分よ。殆ど見ず知らずの私達に、どういった金銭感覚なのよ。

 それから彼が、借用書を交わそうと言って来たので身構えたが、その借用書自体も金貸しギルドの印章もないし、語句がいまいち不明の表現もあり、とても正規の物と思えない物だった。

 そして、彼もお互いの安心を買うための形式的な物だと言っていたので、やっぱり、あたいが警戒しすぎたのかなぁ。これで、なにか言いがかりをつけられても、この借用書を持って訴えれば、そんな言いがかり無効に出来るよな。


 そんなこんなで、スキルも取得し、借用書も作ったので、少し遅くなったが、今日の狩りに3人で向かった。

 途中の道中であたい達と彼の身の上を話したが、彼が冒険者の夫婦の息子で、両親の話を聞いて冒険者を志したという話を聞いた。なるほど、成功した冒険者の息子さんだから、お金にいまいち無頓着なのかな。それなら、この話も納得だけど、話自体は嘘じゃなさそうだけど、途中言い淀んだりして怪しいのよね。




 その後の狩りも無事終わった。相変わらず彼の回復魔法は凄く、今日も持ってきた薬を使用しなくて済んだ。これが一番お金が掛かる原因なので、薬を使わなくて済み、しかも今まで以上の金額を稼げているので、とても助かっている。

 これなら以外と借金も速く返せそうだな。


 それと最後の方で剣の振りが楽になったと話したら、ミサも同じような感覚があったと言ってきた。

 彼は、それが武芸書の習得によるものだと話してくれた。そう言えば、確かに最初のスキルは、『斧素養・序』と書かれていたな。その効果は、剣が扱いやすくなり、威力がわずかに上がるようなことが説明で書かれていたな。

 さらに彼は、ミサに魔法の効率的な習得方法をレクチャーしてくれた。

 彼の色々な武芸や魔法の知識を聞いていると、冒険者の子供と言う話はやはり本当のようだ。


 帰り道、ミサは、嬉しそうに『光源(ライト)』を行使しながら歩いていた。彼も何か考えながら歩いていたため、私が自然と周辺に気を配りながら歩くこととなった。

 2人が、そんな感じで歩いていたため、自然と歩みが遅くなり、街に着く頃にはミサの魔法が歩くのに役立つような薄暮になっていた。

 彼は行きに話したとおり、本当に今日の宿を押さえていなかったようで、慌てて門を潜ると、明日の約束だけして、私達にギルドでの換金を頼み。

 急いで、宿場街のほうに走って行った。


 本当に不用心すぎない?あたい達が、これを持ち逃げしたら、今日の稼ぎも、貸した金貨も戻ってこないのよ?

 これが彼の素ということ?なら、これからはあたい達が、しっかり締めるところは締めて上げないと大変なことになりそう。


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