第3話 冒険者になろう
宿は、幸い空きがあったので3日間取り合えず確保。
一人部屋で、1泊銀貨3枚とのこと。結構お高いのね。
お金の心配は、いまのところ全くないので、さっさと支払い、カウンターに他に客もいなかったので、宿屋の兄ちゃんにいろいろと尋ねる。
街で仕事をするには、いろいろお金がかかるらしい。
職について、人頭税を年に1回、銀貨2枚払えば、市民証が貰えて、それを持っていれば、門の内外に自由に出入りできるようになるそうだ。
それ商売を始める場合、
権利の金額は、最低でも金貨10枚、実入りのいい商売は権利を売ってさえくれないそうだ。
金はあるから、どうにかなるだろうけど、同業者と仲良く付き合うとか柄じゃないし、面倒くさい。
だいたいゲーム会社やめてから、一人親方でやってたんだ、今更慣れ合えるかよ。
後は、商人や職人のもとで修行することもできるが、安い賃金でこき使われるとのことだ。
彼も休みなしで住込み、人頭税は払って貰えるが、賃金は月大銅貨5枚とのことだ。
俺の一泊銀貨3枚なのに、そこで働いている奴は、いくら衣食住を保証してるとは言え、一ヵ月働いて、その1/6しか貰えないなんておかしくね?
こんな世界に来てまでこき使われて、働きたくねーよ。
最後に誰でも出来て、手っ取り早いのが冒険者とのこと。冒険者ギルドなら、登録費用も掛からなければ、登録さえすれば、その日から仕事を始められる。
まぁ、日雇い斡旋業みたいなものだな。
まぁ、そこに登録だけして、茶を濁して働くと言うのもありか。明日、そこに話だけでも聞きに行くか。
俺のゲームじゃ、序盤の金策組織てだけだったし、依頼も基本常設だけ、後はプレーヤー同士で生産等に必要なアイテムとかのやり取りをするぐらいだったしな。
しかし、ゲームと違って、色々な人間が暮らしているんだから、金をあっちこっちから貪り取られるというのは仕方ないとはいえ、この世界も厳しい世の中だねぇ。
その他にもいろいろと話を聞き、明日の行動も決めたので、部屋で寛いでから、夕食を取ることにした。
本当は下着を買いに行きたかったんだが、普通の店は、昼の四時には閉まってしまうそうで、それ以降営業できるのは、店を持った飲食店、宿屋、夜のお仕事のお店だけらしい。
俺が宿で話し込んでいる間に四時を過ぎてしまった、こんなことなら街に入ってすぐに、下着買っときゃよかったよ。畜生。
宿の食事は、美味しゅうございました。
高級宿だけあるね。食事に大銅貨3枚かかったがな。
あのパン屋、少し高くてもと言ったのに、この街の最高級宿紹介しやがって、店の給仕と話してたら、それが発覚したよ。
まぁまぁのグレードの宿屋なら銀貨1枚で泊まれるらしいよ。
しかも、この宿の客層、大店の商人や貴族様らしく、自分が場違いに感じたし、自分だけローブの下はすっぽんぽんで、下着を履いてないと思うと、むっちゃ、恥ずかしかったよ。
まぁ、そんな訳で、翌朝、朝一で下着を買い、それを履いて、冒険者ギルドへと向かった。
装備スロットに空きがないとか言われて、装備できないとかなくて、良かったぜ。
そして、予め場所を聞いておいた、冒険者ギルドの前に辿り着く。
緊張をしながら、扉を開ける。
厳つい男達がこちらを睨んでくるかと身構えたが、受付周りに人がいるだけで、後はガランとしていた。
少し肩透かしを食ったが、俺も受付へと向かう。
丁度空いた、受付窓口を見つけ、そこにいる女性に声を掛ける。
「すまないが、冒険者になろうか検討しているのだが、その前に色々聞きたいのだがいいかな?」
「はい、本日担当させていただきます。私、レジーナが承ります。」
「俺は、ギリーと言う。よろしく。それで早速だが、……。」
俺はギルドで受けられる仕事、その報酬、その他にもギルドに直接関係ないことまで聞いた。
うん、まだ、他のギルドに所属するよりは、自由度もあるのがいいか。
ただ、深淵から遠いのとこの付近にダンジョンも存在しないから、この辺は強い魔物がいないと言うのは気になるな。でも、管理者さんに深淵にかかわらないよう言われているし、あまり近くに行くのは望ましくないだろう。
ただ、ダンジョンも、一人で入るのは危険そうだし、かといってこの街に来るまでに会ったような筋肉野郎に囲まれてダンジョンに潜るのもなんかヤダしな。
まぁ、俺も向こうの世界じゃ、おっさんだったというかもうお爺さんに片足突っ込んでたから、あまりそう言う事は言いたくないけどよ。でも、見た目怖いの嫌だし、でも女の子に囲まれてと言うのも、なんか人間関係で面倒そうだよな。どうしよ。
それに、このキャラ、ゲームに参加する時間が開発側だったので圧倒的にないから、装備に金が掛からない回復職を選択した。だから、戦闘は正直得意でない。つまりパーティー加入が必須なんだよな。
さて、そんな訳で安全に暮らすためにももう少し強くなっておこう。
取り合えず、地に足がついた生活のための第一歩として、冒険者ギルドに加入の手続きを行う。
「では、冒険者ギルドに加入させて貰おう。」
「ありがとうございます。では、こちらに必要事項の記入をお願いします。代筆が必要ならお申し出ください。」
そう言って、受付のレジーナさんは、羊皮紙を一枚差し出してきた。
門や宿では、紙だったが、羊皮紙か。そう思いながら、こう答えながら、それを受け取った。
「いや、結構だ。自分で書ける。」
うん、紙と違って書きにくいな。多少苦戦はしたが、なんとか必要事項を記入し提出した。
「羊皮紙にあまり慣れてなさそうでしたが、字はお上手ですね。」
レジーナさんは、俺から羊皮紙を受け取ると内容を確認しながら、そう言って来た。
「そうなのか?」
「ええ、字を習い終えたばかりだとミミズの這ったような字で読めませんからね。内容の方はこれで大丈夫です。では、加入証を渡しますので、少々お待ちください。」
そう言うと、後ろに下がって行った。奥から打突音がして、暫くするとレジーナさんが戻って来た。
「これが、加入証と冒険者標識になります。これで貴方のイオナの街の冒険者の一員です。これからもよろしくお願いしますね。」
「ああ、よろしく。」
「あと、加入証は先程も説明しましたが、政庁舎での市民権を得るための人頭税の支払いに必要になります、標識は街中での身分照会、門を出る時の通行税の免除等に使われますのでなくさないようにお願いします。」
「ありがとう。」
俺は、礼を言い、それを受け取ると標識を首にかけ、加入証を鞄にしまった。
「最後に、これも先程もお話ししましたが、依頼は右側の壁に貼ってあるのでご確認して、受注するのであればこちらまでお持ちください。依頼内容に不明な点があれば、遠慮なく職員にお尋ねください。説明は以上になります。本日はありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございます。いろいろ教えて貰い助かりました。」
「うふふ、ギリーさんは変わってますね。冒険者の方でそこまで丁寧にお礼を言ってくださった方は初めてですよ。」
しまった。つい、向こうが丁寧な応対だから、つい合わせてしまった。
でも、なぁ。あまり品位を落とすのも、それはそれで別のトラブルを抱えそうだし、難しいなぁ。
俺は、レジーナさんに、愛想笑いを浮かべそのまま出て行った。
とりあえず、依頼の受注は後回しだ。まずは、お役所に市民登録をしに行こう。
向こうの世界で、引っ越した時、住民票写すの忘れて、確定申告するのに手間取ったのを思い出したので、市民権を得るために早めに向かうことにしたのだ。
政庁舎の方は、昔も今も場所も世界も違えど変わらないようで、物静かで、余計か話をできる雰囲気でなかったので、手続きをさっさと済ませて、出て来た。
門で貰った木の棒は返却し、代わりに市民証と書かれた紙切れを貰った。これは、特に携帯する必要はないそうだ。
このあとは、そうだ、服や装備を買おう。
朝は下着のことで頭がいっぱいで思いつかなかったが、いつまでもイベントアイテムを着てることもないよな。
ところがである。どこに行っても回復職専用の防具が売っていない。それどころかゲームで設定した防具類が売ってない。
なぜだ?俺は、普通に装備してたし、袋の中にも予備は入ってた。
防具とかは、文化的風習とかあって、地域ごとに衣装が変わったりするから、設定として反映されていないのか。俺の体はゲームキャラを使ったから、その辺の装備が反映されてた。
まぁ、あり得る話だな。
とすると、とりあえず、普通のシャツ数枚と革ズボンを数着と、革のブーツ、革手袋、革鎧あたりを買っておこう。武器は、職種による装備不可とかも、武器を握った感じ反映されてなかったようだ、杖じゃ火力も少ないし、壊れやすそうだし、丈夫そうな柄が長めの両手持ちもできそう片手斧にしておくか。
初期、中期装備は見た目より、壊れにくさよ。とすると、武器縛りが無いなら、武器スキル、斧術も取得したいなー。連撃とか使えるようになるしね。
武器や防具は、性能を見ると、みな微妙に違うのになぜか値段は一緒だった。あれ?これじゃ、性能が良いのから売れちまわないか?
店の親父さんにそれとなく聞いてみるか。
「なぁ、ここの武器や防具値段みんな一緒だがいいのか?」
「あ、好きにいじって手に馴染んだもん買ってくれればいいよ。目利きも冒険者には大事なもんだろ。」
「なるほど、わかった。見させて貰う。」
うん?ゲームのように細かな性能までは、他の人は見る事が出来ないのか?俺は見られるのに?
ゲームじゃないから、それが当たり前だろと言われれば、それまでだが、まぁ、選び放題と言うことで、性能の良さそうなのを選んで行く。これで良しと。
後は、武器に応じたスキルが欲しいんだけど、どこで買えるとか、貰えるとか、そういった知識は記憶にもなかった。
ゲームの中では、武器や魔法のスキルは、そのスキルを持った魔物や盗賊を倒すと、一定レベルのスキルの書が手に入って習得することができたり、初期レベルのスキルは店で買うことができる。
なので、武器屋の親父に聞いてみることにする。
「親父、スキルの書って売っているのかい?」
「はぁ?何言ってんだい。」
あれ、この辺もゲームと違うのか、違う点はあらかじめ教えておけよ。管理者さんよ。
「あれ、違いましたか?」
「まぁ、違わねぇかも知れないが、そんな風に言うもんじゃねぇよ。」
え?違わないの?違うのどっちなんだよ?
「すみません。」
「まぁ、この街だと、政庁近くにある兵士の鍛錬所がある練習生として入れば、月に金貨1枚で初級の武術書が貰えるよ。あとは、練習に出るも出ないも自由だから、大抵みんな最初に払ってお終いだけどな。」
月に金貨1枚だって。ぼったくりだろ。まぁ、俺には、全く問題ない金額だけどな。
でも、それ以上の書を貰うには、金貨1枚払い続ける必要があるとかか?
「あの?中級の武芸書とかは?」
「おめぇ、変なこと言う割に詳しいな。その辺は、騎士団にでも入らなきゃ、貰えないな。」
「はぁ。」
金でなく、就職か。騎士団なんて、給料は良さそうだが、厳しそうだしパスだな。武芸の書は、ドロップでもあるかも知れないし、今後どうにかするとしよう。
とりあえず、今日はもう遅いし、また政庁舎がある方に向かうのも面倒だ、仕方ない明日にでも初級の斧術の書を貰うか。
そんなやり取りの後、防具と武具に金を払って、今日は宿屋に戻った。
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