第二話
夜通しで歩いたせいか疲れた。まだまだ相馬藩の中にいる。この先は伊達藩の領地である。海側の関所を通らずこっそりと山道を抜けていく。関所破りだった。見つかれば殺される。山の中に小さな祠があった。安心しきったのか、二人ともぐっすり眠った。そのまま夜になっても眠り続けた。朝になって起きて歩く。もう何も食べてない。山を下りると牧場に出た。チャタテはこの光景を見るやいなや大喜びした。
「じゃあ、また何も見ないで」
とチャタテは言った。
「また!? 今度は何?」
「牛だよ。牛を殺すのさ」
そう言うとチャタテの爪が槍のように伸びる。チャタテは手刀を牛に差し込んだ。
牛が暴れだす。さらに首に手刀を突き刺す。牛は物言わぬものとなった。そのまま臓器を引きちぎり口に運ぶチャタテ。うまそうに血肉を啜るその姿はまさに鬼そのものであった。やっぱり瓜子姫はまたしてもその光景を一部始終見届けてしまった。瓜子姫が大声を上げたところチャタテがあわてて爪を引っ込めて口をふさぐ。瓜子姫の口は血だらけになった。
「百姓に見つかっちまうだろ!!」
「ごめん!!」
あまりに喉が渇いていたのか思わず瓜子姫は牛の血を舐めた。
「お前喉が渇いているのか。ごめんな。強行軍だもんな」
申し訳なさそうに言う。
「じゃあ今夜は川を見つけるか」
そして、思い出したように言う。
「お次は袋だ」
そういうとチャタテは牛の皮をはぎ、牛の皮を袋にして牛の臓器を入れていく。なんて器用なんだ、この鬼は……。
「さ、農家にばれないうちにとんずらするかね? 焼くとうめえぞ~」
「食べたくありません!!」
と、いいながら夜は瓜子姫も牛肉をほおばっていた。空腹に耐えられなかったのだ。
「うまい……」
「命を奪った以上、鬼族はその命に感謝するためにその命を自分のものにするんだよ。もちろん人間もね。残酷に見えるかい? 牛肉だって、同じさ」
瓜子姫は答えられない。
「同種はさすがに食えないってのはよくわかるけどさ……。さすがに僕が人間食うところは見ないでね」
「当たり前です!!」
「実はさ、俺たち天邪鬼は人間の皮をはいで人間に成り済ますこともできる。『被りの術』という。もちろんその人間の血肉も食う。皮を剥いだ人間の血肉と同化することによって成り済ます」
「え?」
「だけど模倣の術みたいに声とかまではそっくり真似出来ない。だから声が違うから一発でばれるだろうね。しかも水を被っただけで最悪被った皮が溶けて本体が見えてしまう。文字通り『化けの皮が剥がれる』のさ。結局ね、成り済ましってのは互いの『信頼』がなければ出来ないんだよ。被りの術に抜けてるのは『信頼』なのさ。だから被りの術を使う時は最終手段だ」
(信頼……)
「そうならないためにも安全に行こうぜ」
瓜子姫はこの時鬼に畏怖を覚えた。
次の日盆地に出た。ここは奥州街道だ。そこで着物を売って初めて金銭を手に入れた。その金銭で服を買った。
二人は知らなかった。この時面妖な集団が近所の宿場町にいたことを。だが気がついた者がいた。
「これはこれは長者様ご一行ではないですか」
「「ひっ! みつかった!!」」
「しっ!」
「あなた方を城主の元に返すつもりは毛頭ございません。それよりもあなた方を陥れた瓜子姫と天邪鬼に復讐したくはありませんか?」
「誰だお前は!」
「私の名は長門」
長門の姿は僧侶の姿であった。
「私たちの秘密部隊に入ればそんな生活をしなくてもすみますしね。選択の余地はないようにも思えますが。」
元長者の全員が顔をそろえた。
◇◆◇◆
チャタテらは地図も買った。
「よし、山に戻ろう。食糧も豊富にある。水もあるし、敵に見つかりにくい。なるべく祠か神社に泊まるよ」
「いざとなればチャタテの呪文で炎も作れるしね。たき火もできるしね」
「だけどこれは許して」
「今度は何?」
「農家の物を盗みながら南下する」
瓜子姫は沈黙した。呆れてるようだ。
「んで、どこまで行くの?」
「岩城藩の北側の山。でもその前に鍾乳洞に行く」
「なんで?」
「新しい結界を作るためだ」
「あ……」
「違う石で結界作れば奴らは入れない。そこに村の生き残りを集める。だから遠出もできないんだ」
――それとね
「辛かったらいつものようにおぶってやるさ」
「ごめんね」
「いいんだよ。姫にはつらい旅なんだし」
「だんだん慣れてきました」
「無理しなくていいから」
こうして二人は再び奥州街道を離れ富岡街道に入り、さらに山奥へ入った。川俣を経て南下するのだ。このまま奥州街道を南下するのは危険であった。二本松があったからだ。二本松は城下町である。当然札が立っていることだろう。
二人は
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