生け贄4

『彼女が死んでしまった。

 今でも受け止められない。

 あらゆる古代術もやったが効果無し。

 可能性があるのは突然目の前に落ちてきた分厚い書物。頭と契約する本。

 怪しい奴だが“約束”すると言った。

 必要なものは揃えた、罠も張った。準備は整っているのに何故出来ない。いつも最後の一人が祭壇に来ない。今回は順番が違う。俺が欲しいのは男じゃない。奴は嘘つきか?』


 紙を声に出し読む。


「さい、だん? 何処かに魔方陣でもあるのか?」


「分からない。罠だらけで探せる余裕なんてないわ。それに、たまにだけどよく分からない男が見てるのよね」


 高貴な女性は、気持ち悪い、と言いたげに右手を左腕に添える。


「こんな死体だらけの場所に居たら頭おかしくなりそう」


「でも、それがヒントなんだろ?」


 俺の言葉に溜め息混じり微笑む。


「そうだ、バール見つけたの。貴方の牢こじ開けられないかしら?」


 高貴な女性はそう言うとバールを差し込みテコの原理で開けようとする。たまたまなのか、錆びていたこともあり簡単に開いた牢。罠じゃないか、片方が死ぬんじゃないかと俺の中で様々な考えが交差するも「一人よりも二人の方がいいわ」と座り込む俺に高貴な女性は手を差し出した。


 牢の外は地獄だった。

 いや、船自体が地獄。

 墓場のようなモノだ。


 ドアを押し開け広がる光景は血だらけの壁と床。血飛沫広がる天井。転がる死体に壁に刺さった死体。どれもそれらは何処かが欠損しており、酷いものは腐敗、骨と化していた。正式な人数は分からないが何十と言えば良いだろうか。かなりある。


「こんな状態だったのか……」


「バックヤードはマシよ。最悪なのは、その外。広いから死体がごろごろ転がってる。積み重なってる此処とは少し違うわ」


 死体を踏まないよう足元を気をつけながら出口付近に積み重なる死体に目を向ける。どの死体も頭や目を貫かれ、右手に顔を向けると倉庫か。微かに押戸が空いている。屈みながら手で押し開くとそこにはタレット。人為的に計算され、配置されたモノだった。


「マジか、こんなのゲームとかで見るやつ」


 あまりの驚きに声を出すと「バカじゃないの。何感動してるのよ」と棘ある言葉に思わず笑う。


「俺らの所じゃこんなの持ってたら銃刀法で捕まる。なのに、此処は……」


「警察の目に届かないからやってるんでしょ」


 やれやれ、と呆れたの高貴な女性に「ロマンがくすぐられるんだよ」と俺が返すと「バッカみたい」と背を向ける。

 歩き出す彼女を追いかけ、バックヤードから出ると――彼女が言うように“残酷な光景”がつづいていた。


 散らばる四肢。

 頭のない血だらけのマネキン。

 バラバラにされた死体。

 広がる赤い絨毯。


 異常なな光景に船酔いから吐き気へと変わり「失礼」とバックヤードに戻るや近くに張った袋。死体が入れられた袋に吐瀉物を吐き出す。「うぇ……うぅ……」と俺の苦しい声に「大丈夫?」と高貴な女性に背中を擦られ恥ずかしさと男としてのプライドが強まるが――目に焼き付く残酷な光景に俺は勝てなかった。

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