生け贄3
その言葉を最後に男は帰ってこなかった。断末魔も聞こえない。だが、数時間経っても開かない牢が“男の生存”を意味していた。
「ねえ、そこのアンタ」
「ん?」
「つまらないから話さない?」
「あぁ、いいよ」
向かい合うよう配置されている牢。俺は高貴そうな女性に体を向け、気まずそうに顔を向けると「いい男ね」の褒め言葉に笑う。
「残念。こう見えても振られてる身でね。誰にでも優しくするから腹立つんだと。お人好しっていうのか知らんが……異性からするとそう見えるらしい」
「そうね。確かに……優しかったわね」
話は弾まず静寂。
「にしても、遅いわね。あの男」
「……牢が開かないのなら生きてるが、あまりこう言うことは言いたくないが」
と、俺が口を開いた瞬間――高貴な女性の牢が開く。
「私の番ね。とりあえず軽く見渡して帰ってくるわ」
「頼む」
高貴な女性がドアを押し開け姿を消すと聞いたこともない声が響く。
「アァ、ツマラナイ。モウスコシ、タノシマセテクレルヤツハイナイノカ」
声は中性で低くはないが片言のような言葉使い。気配はあるが周囲を見渡すも姿はなく、「アァ……ニンゲンハ、モロイナ」と侮辱する言葉に「誰だ!!」と俺は声を荒らげる。
返事はない。
反響しただけだが――。
「なんだ、煩い」
ビジネススーツに身を包んだ血だらけの男が中に入ってきた。見たことない。しかし、靴は見覚えがある。アカリが撮った写真の靴を男が履いていたのだ。
「“生け贄”は静かにしてろ。もうそろそろで俺の願いが叶う――」
フハハハッと男は狂ったように笑い出すと俺を見て「オレはお前の此処が欲しい」と殺害予告か胸を指差す。
「胸?」
と、聞き返すと「そとに興味はない。中だ」の言葉に“心臓”だと悟った。
「ふざけるな!!」
「ふざけてない」
「こんなの馬鹿げてる!!」
「なんだと……お前ら人間が悪いんだ」
「はぁ?」
「さっさとお前も死ね。お前ら見てると吐きそうだ。あーあー全人類殺してくれないかなぁ。なぁ、悪魔」
俺の怒りの声に男は煽るように言葉を返す。俺から視線を外し、牢の上を見ては“悪魔”と呼ぶ。
「あ、くま……?」
思わず上を向くも鉄の天井。
「クッハハッまぁ、いい。死ぬのを待つといい」
男の言葉に俺は睨むと「じゃあな、生け贄」と男は出ていった。
しばらく静寂が続く――。
そして、ドアが開くと血だらけで傷だらけの高貴な女性だった。息を切らし辛そうに俺の元へ来るとひび割れたタブレット。
「あの、バカ男。海に飛び込んで鮫に喰われたらしいわ。服があったのよ」
なんて笑えないジョーク。
続けて。
「一人で逃げようとして助けもしないで。鮫に喰われてバカじゃないの。ホント、だらしない男よね」
力有りそうでない言葉。
「大丈夫か?」
優しく高貴な女性に話しかけると静かに頷く。
「死体を目印に進めばどうにかデッキには出られるわ。死体の死に方をよく見るの。何が傷ついてかけてるか。それで分かるから覚えておきなさい」
「なるほど。観察力が試されるのか、ここ」
「あと、アカリの死体はなかったわ。何故かしら? それと、これ」
渡されたのは血だらけの紙だった。
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