生け贄

 部屋で寝ていたはずだが、目を覚ますと気づけば見知らぬ部屋の中。グワングワン、とゆっくり揺れており気持ち悪さが体を巡る。霞む目を擦りながら周囲を見渡すと部屋と言うよりはバックヤードと言った方がいいのだろう。倉庫のようだった。含め男女含めた六人。錆び付いた牢に一人ずつ閉じ込められていた。皆、歳は近く二十代ぐらいだろう。


「なによ、ここ!!」


 一人の女性が騒ぎ出すと皆揃って「ここは何処だ」「何が起きている」「これは夢かと」自問自答を始める。俺は「煩い、少しは静かに出来ないのか」とカッコつけではないが声を荒らげるも少しだけ船酔いをしていた。

 すると、六人のうち一人の牢が勝手に開く。開いたのは「何よ、ここ!!」と騒いでいたワガママそうな女性だった。牢から出るや周囲を見渡し、同じ女性である二人を助けようと南京錠を掴むも硬く、周囲には鍵もないのか「何なの!! もう」と怒ってばかりだ。


「待ってて鍵探してくるから」


 と、女性は重たそうな扉に手を当て押し開け姿が消えるとガシャン、カランカランッと物が倒れたような激しい音に静寂が支配する。


 キィ……


 と、次は痩せ細った男性の牢が開く。


「えっ」


 痩せ細った男は四つん這いになりながら恐る恐る牢を出て、ドアへ向かうと――「うわぁぁ」と声を上げ、言葉を失い顔を色を悪くして戻ってきた。


“さっきの女が死んでいる”


 その言葉に俺含め一同は「えっ!?」と声を揃える。牢から出ることが出来ないため状況把握が出来ない。だが、男の真っ青な顔は嘘をついてなかった。気持ち悪くなったのか、背を向け吐く。ビシャビシャと床を汚し、咳き込み、荒い呼吸を整えようと深呼吸。何を見た、までとは言えないが“見慣れないモノ”なのだろう。


「嫌だ、死にたくない……」


 男はその場に座り込む。この場に居た方が安全だ、謎の安心感があるのか居座っていたが――俺が居眠りしている間に「嫌だ、助けてくれ、死にたくない!! 嫌だ、嫌だ、イヤダァァァァ――」と何者かに連れ去られたのか声を遠退き、そして聞こえなくなった。



 また、牢が開く。



 拐われた男の場に一枚の紙が落ちていたのかひ弱そうな女性が拾い、震えた声で読み上げる。


「この女も彼女の代わりにはなれなかった。顔と体だけが似ている不要になったモノを処分する。幾度も代わりを作ったが、やはり彼女の代わりなど居ない事をようやく悟った。だけど、諦めない――彼女じゃないと意味がない。これ、どういう意味なんだろ」


 不思議そうに首を傾げ、その場に置こうとする姿に「それ頂戴。一応、何かのヒントになるかもしれないから持っておく」と今にも泣きそうな女性に牢から手を出す。


「え、あ、じゃあ……はい」


 初めて交わした会話。その他の人は興味がないのか「早く開けて」と騒ぐばかり。だが、その中の一人は男が連れ去られた瞬間を見ていたのか「黒い影があの人を連れていった。此処には化け物がいるんじゃないか?」とふざけたことを言う。


「やめなさいよ、そう言う気分じゃないわ」


 上品で高貴な女性が見下すようなことを言うも「俺は見たんだ!!」と一点張り。弱そうな男と高貴な女がぶつかる。

 それをよそにひ弱そうな女性は俺をじっと見て「助けてください」と訴えるも「わるい、出られなくちゃ何も出来ない。怖いと思うがどんな場所で何が起きてるのか探ってくれるか?」と震えている手を優しく握り落ち着かせる。


「名前は」


「アカリです」


「じゃあ、アカリさん。少しだけドアから覗いて何が見えるか言ってくれるかな」


「は、はい。頑張ります」


 アカリは恐る恐る俺から離れドアに手を当てる。軽く押し「ヒッ」と小さな悲鳴を上げ、口に手を当てながら必死に叫ぶのを堪えているのがすぐに分かった。


「ろ、廊下です。お店のバックヤードみたいな倉庫みたいな感じの所で……そこにもあります」


「ん、何体?」


「皆、壁に刺さってて……腐敗して落ちてるものもあるんですが。皆、左目や頭を撃ち抜かれてるみたいです。矢、みたいの見えます」

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