捕虜
開戦から二週間が経過し、ソビエト連邦軍の質が低下してきた。
ナチスドイツのポーランド侵攻により、多くの兵が投入され減少したからだろう。
最低限の訓練をして駆り出された兵隊と、ラーゲリ送りにされた人々が前線に立たされていた。
照準を合わせていると、アルノーが話しかけてきた。
「スターリンは気に食わなければ、同士でもラーゲリ送りにするらしいぜ。」
「子どもが花束の代わりにトマトを持って、顔に投げつけたらどうなるかな。」
下らない会話をしながらまた一人、また一人と殺していった。
射撃の腕は上々で、アルノーと眉間を撃ち抜けるか夕食を賭けたこともあった。
三ヶ月が経過する頃には、ソビエト連邦軍が後退した。
多少の被害を被ったが、ソビエト連邦軍の塹壕まで進軍した。
とても大きな一歩だった。
それから少しずつ進軍し、ポーランド中部まで前線を後退させることに成功。
開戦から約一年のことだった。
ソビエト連邦軍はかなり弱体化し、戦闘に慣れた私達にとって赤子の手をひねるようなことだった。
「いつ終わるんだろうな。」
「赤い連中が消耗しきって、泣きついてくる頃だな。今回の戦争の目的は占領することではない。」
アルノーの独り言に私は答えた。
アルノーと夕食を食べていると、コーヒーを持った少年が話しかけてきた。
「君達いつも一緒にいるよね。」
「こいつがナンパしてきたんだよ。」
「でたらめ言うな!」
私が嫌味な顔をして言うと、アルノーが頭突きを食らわせてきた。
少年は私が紅茶を飲んでいることに気付き、コーヒーを勧めてきた。
「泥水なんか誰が飲むんだよ。」
「うっせぇ、葉っぱの絞り汁。」
アルノーが腹を抱え笑ったのを見て、私も少年も大声で笑った。
翌日、酔っぱらいのような声と止むことのない足音に起こされる。
目を開けると、どんよりとした空が広がっていた。
後頭部から聞こえる足音を確認しようと振り返ったが、その必要は無かった。
私の眉間にカラシニコフが突き付けられる。
目線を上に上げると、スコープ越しに見ていた軍服が見えた。
手を頭の横に移動させる。
目を覚ましたアルノーが何か叫ぼうとしていたが、銃口を向けられ押し黙る。
塹壕から出るように指示され、仲間達と整列させられる。
皆小刻みに震え、涙を流す者もいた。
私は死を覚悟した。
死ぬことは大して怖くなかったが、痛め付けられることを恐れていた。
私達は2時間ほど歩かされ、ポーランド北東部のラーゲリに収容された。
ほとんどが前線で戦闘していた少年兵で、四千人ほどだった。
1946年10月 私達は捕虜になった。
大きな一階建てのレンガ造りの建物に、質の悪い長机と椅子が並べられているだけだった。
昼過ぎには近くの森へ連れて行かされ、木を伐採することになった。
斧を触ったことのない少年兵達にとって、伐採はあまりにも危険だった。
倒木を避けられず足を折る者、斧で指を切る者、自害する者もいた。
一週間で五十人ほどが、負傷または死亡した。
食事は少量で、質素で、劣悪なものであった。
パン一切れに金臭い水のみだった。
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