決戦
開戦から数分でソビエト連邦軍を二人殺した。
人を殺すということは、言葉や法律よりも軽いものだった。
すれ違った人の顔を数秒後には忘れてしまうほど、無関心で呆気ないものだった。
耳栓をしていない方から、射撃音に混じった呻き声が聞こえる。
隣にいた仲間を見て、急いで仰向けにする。
本来左目がある位置に空洞が広がり、鮮血とピンク色の液体と固体が混じったものが流れ出ていた。
ほどなくして仲間は死亡した。
私は肩を掴み揺すった。
「起きろ!」
私の声に気が付いた少年兵がこちらを振り返る。
私の手の先にある遺体を見て数秒、事態を理解し、息を荒らげ、嘔吐した。
私は鮮血に染まった震える手を見る。
すると、私の視界からだんだんと赤の彩度が下がり、冷静さを取り戻す。
これは大きなネズミの死体だ。
今まで何度も目にしたネズミの死体が大きくなった。
たったそれだけのことで、気にするほどのことではない。
私は銃を構え、スコープを覗いた。
後方部隊の兵士が肩を叩く。
「昼食を持ってきた。」
「ありがとうございます。」
少し年上の少年兵が食事を運んできた。
私は礼を言い、受け取る。
ライ麦パンにソーセージ、ポテト、紅茶、チョコレート、紙巻タバコ等が支給された。
ソーセージとポテトをパンで挟み、かぶりつく。
隣にいた少年兵が、蒼白い顔で言った。
「お前、死体を見てよくソーセージ食えるな。」
私は紅茶を飲み、一息ついて答えた。
「その内、嫌でも慣れるさ。私は少し早かっただけだ。」
「やるよ。」
俯きながら、私に昼食の一部を差し出した。
私は受け取り、胃に入れた。
隣にいた少年兵は、タバコを咥えていた。
なんとなく私もタバコに火を付けて、息を吸ってみる。
少し苦い味がした。
息を吐き空を見上げると、辛いことから逃げられた。
そんな気がしていただけかもしれない。
残酷な現実を目の当たりにした少年兵達に同情した。
日が沈み、辺りは目を凝らしてやっと木の輪郭が見えるほどの暗さになった。
それでも撃ち合いは続く。
月光の反射や発砲時の明かりを頼りに、一人、また一人と狙いを定め撃っていく。
川のせせらぎが心の泥を洗い流していった。
パンッパンッと乾いた音で、目が覚める。
空は青く晴れ渡り、木々は風に揺られていた。
どうやら寝ていたようだ。
タバコを咥えて、リー・エンフィールドの引き金を引いた。
ソビエト連邦軍は数が多く、撃てども減る気配がなかった。
幸い今のところは、こちらの被害は少なかった。
足音と共に聞き慣れない言語が聞こえた。
同じ年くらいの少年達が朝食を持ち、近付いてくる。
軍服と言葉からフランス軍であることが分かる。
「やあ。前線にレディがいるとは思わなかったよ。」
「少ないが他にもいるぞ。」
差し出された朝食を受け取る。
この少年兵もとい、アルノーは少し英語が喋れるようだった。
それからアルノーとは一緒に飯を食べるようになった。
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