第15話 誰が俺がお前より弱いと言った?
俺とシンシア様は体を縮こませてフィリアさんの後ろに隠れる。
そして俺たちを庇ってくれているフィリアさんに声援を送る。
「よろしくお願いしますフィリアさん!」
「や、やっちゃって下さい! 私はフィリアさんを応援します!」
「よっかっこいいですよ! ……シンシア様、次はこう言うのです…………」
「……ふむふむそう言えばいいのですね。……コホンッ。——最高です! 私は一生フィリアさんに着いて行きます!」
「その声援五月蝿いですよ! 後レオン君はシンシアさんに余計な事を言わせようとしないでください! と言うか王国最強の2人がどうしてそこまで強くない私の後ろに隠れているのてすか……」
「「勿論ゾンビが怖いから(です)」」
「王国最強の名が泣きますねっ!」
そう言って文句を言いながらも着々とゾンビを浄化させていくフィリアさん。
その姿は顔が見えていなければ物凄く頼りになる背中に見えた。
そう、顔さえ見えていなければ。
「(レオンさん、フィリアさんの顔がやっぱりとても不気味ですっ! 私夢に出てくるかもしれませんっ)」
そう言って少し震えるシンシア様。
少し瞳も潤んでいる。
えっ……めちゃくちゃ可愛いんですけど。
美少女が怯えているのって言っちゃいけないと思うけど可愛いよね。
男としては頼られるのが大好きだからかな?
俺がシンシア様にときめきを覚えていると、ふと気になる気配に気付いた。
気配自体は人間なのだが、とても悍ましい感じの気配を身に纏っている。
その気配を感じたのは俺だけではなくシンシア様も同じだったようで、何度か深呼吸をしてからすぐにキリッとした表情に変わり、立ち上がった。
「フィリアさん。ゾンビはお任せしてもよろしいでしょうか?」
「え? 別にいいですけど……って変わり身早くないですか!? ついさっきまで私の後ろでビクビクしていたのに!?」
「そ、それは言わないでください!」
「そうですよフィリアさん。墓地の奥の方から何か悍ましい気配がしたので俺達で見に行こうと言うわけです。なのでここはよろしくお願いしますよ。(似非聖女じゃなくて今は本当の聖女に見えます)」
「…………ほんと?」
「……マジです。めちゃくちゃカッコいいです。一瞬本当に聖女に見えたので拝もうかと思ってしまいました」
「よし、ここは私に任せてください! お二人はその気配のある方へ存分に意識を向けてもらって大丈夫です!」
更に浄化速度が上がったフィリアさん。
多分初めてアンデッド退治で誉められたんだろうね……普段から誉められ慣れてるフィリアさんがあんなに喜ぶわけないし。
「それではレオンさん行きましょう」
「まぁ面倒だけど一応ついていこう。もし戦闘になったらシンシア様が守ってくれると嬉しいな?」
「あはは……出来る限り頑張りますけど、なるべく自分の身は自分で守ってください」
うーん、これを拒否せずに笑ってすませるシンシア様はマジの聖女様だな。
俺堂々と足手纏い宣言したはずなんだけどね。
「じゃ、そう言うことだからよろしくお願いしますよ聖女様!」
「レオン君にそう言われるのは新鮮ですね。いいでしょう! 巷で聖女と名高いこの私が本気を出してあげましょう! 【我が信愛なる神よ。どうかこの者達に祝福を】《女神の祝福》」
そう言った瞬間に夜空から光の柱がフィリアさんを中心に半径50mほどに発生し、その光に照らされたゾンビ達はさらさらとチリになって消えていく。
それを見ながら俺とシンシア様は少し驚く。
「ははっ……あれって上級神聖魔法じゃないか……。あの似非聖女は本当に強かったんだな」
いや本当にビックリだよ。
聖女って言うのも噂が独り歩きしたのかと思っていたけどそうじゃなさそうだ。
「まっ、あそこは大丈夫そうだから先行くか。それじゃあ前はシンシア様に譲るよ」
「いやそこは…………まぁいいですけど。それでは行きます」
シンシア様はグッと屈むと勢いよく足のバネを使って走り出す。
そのスピードは俺の親友達よりも速い。
「いや、ちょっ、まっ、速すぎでしょ!? ちょ、ちょっと待ってくれよ~!」
俺は全身に魔力を流して身体強化しながら全速力で彼女を追いかけた。
<><><>
何とか俺がシンシア様に追いついた時には既に相手と睨み合っていた。
「……あ、あのぉ……ど、どう言った状況でしょうか?」
その張り詰めた空気に少し気圧された俺は思わず敬語で話してしまった。
いやだって俺がついた時にはよく分からん黒いローブを着た性別不明な人間がいるし、そんな奴に殺意増し増しの瞳で睨みつけているシンシア様が腰の剣に手を置いているんだよ?
誰だって思わず敬語になるわっ!
「……それであんたはどちらさん?」
俺がそう聞くがローブで身を隠した人間は何も返さない。
俺へ視線を向けると同時にその姿がかき消え、気配がいつの間にか俺の後ろに現れる。
そして奴は背後から俺に短剣を刺そうとしてきた。
しかしそれは『ガキンッ!』と言う音と共にシンシア様の剣で阻まれた。
「いきなり事情も知らないレオンさんを攻撃するなんて……なんて卑怯なひとなのですかっ!!」
「…………チッ……」
シンシア様がそう言って怒ってくれるが、奴は俺に憎らしげな目を向けていており、聞いている様子はない。
おいおい、そんな目を向けないでくれよ……怖いじゃないか。
「危ないなぁ……やめてよね、俺を攻撃するの。俺は戦闘は嫌いなの! それに俺が受けようとしたらどうなるか分からないんだからねっ!」
俺はローブの人間に『めっ』と指をバツにして言う。
その瞬間に場の空気が固まった気がしたが気にしない。
気にしないもんね……グスッ……。
それにほんと、俺が止めようとしたら色々と危ないんだよな。
それにしてもこのローブの人間強いな。
俺がこいつの動きを
「それで、まだやるのか? 俺的にはもう大人しく投降して欲しいんだけど……」
「…………チッ、誰が投降するか……ッ!」
そう言った声は思っていたよりも高く、てっきり男かと思っていた俺たちは少し狼狽する。
おいおい、こいつ……もしかして女子か?
それはやめてくれよ。
本当に俺、女を殴れねぇんだよ。
母さんにそう躾けられたからやろうとすると体が震えるんだ。
その少女がボソボソと何かを呟くと、少し遅れて地面に黒い魔法陣が現れると同時に、大量のゾンビが出てきた。
いやコイツ死霊魔法師なのかよ!?
じゃあなんであんなに近接格闘が出鱈目に強いんだよ!
てか、めちゃくちゃこえぇぇぇぇぇ!!
俺とシンシア様は敵の前だと言うのを忘れて叫ぶ。
「キャアアアアアア!?」
「うわっ!? 無理無理キモいグロい!」
俺達はゾンビの出現で一瞬意識が完全にローブの少女から離れてしまった。
そんな隙を逃すわけもなく……
「———死ねッッ!!」
一瞬で懐に忍び込まれ短剣を胸に突き刺された。
「レオンさんッッ!!」
シンシア様が悲鳴をあげるが、すぐに目を見開いて驚く。
勿論俺を攻撃した張本人であるローブの少女も。
「——バカな……ッ!? 確かに私は突き刺したはず……」
「そんなに驚くなよな。俺は1度もお前より弱いなんて言ってないぞ? それにこんな何処にでもある短剣で俺達ドラゴンロードを倒せると思わないことだな。——あとごめんなさい母さん! 今回限りお許しください!」
俺は母さんに懺悔した後、素早く相手の胴に膝蹴りを放つ。
「——そうらッ、ちょっと痛いが我慢してくれよッ!!」
「———グハッ!?」
蹴りをモロに喰らった少女は、一瞬だけ 地面から浮き上がる。
俺はその瞬間に少女を脇に抱えて跳躍。
地面から30mほど浮き上がると少女を空中で離して踵落としで地面へ落とす。
風切り音の後に響く衝撃音。
それと同時に大量の砂埃が発生する。
俺はその中に飛び込み、素早く少女を見つけると、少女に巻き付き関節技をキメる。
これで下手な真似は出来ないはずだ。
「レオンさん大丈夫ですか!?」
「勿論だ。俺の嫁探しはこんな奴に邪魔させてはいけないんだよ。絶対に手に入れるのさ。誰にも邪魔されないヒモ生活をな!」
そのためにこんな所でくたばるわけにはいかない。
さて、それじゃあ色々と教えてもらおうかな。
俺は少女のローブに手を伸ばした。
―――――――――――――――――――――――――
読者の皆様へ
この作品が面白かった、続きが気になると思ってくださった方は、☆☆☆→★★★にしてくださると嬉しいです。
それとフォローもよろしくお願いします。
今後人気が出れば更新を続けようと思っています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます