第14話 何で俺も依頼を受けないといけないの!?
とある墓地。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! こっち来んなこの化け物があああああああ!! ひっぃぃぃ!? どうして俺だけ狙われるのさぁぁぁ!!」
「そ、それはわたしにもわかりませぇぇぇん! でも私もこのモンスター嫌いですぅぅぅぅ!」
俺とシンシア様は全速力で広い墓地を逃げていた。
それはもう人生で何度も出せないほどの超本気で。
そしてそんな俺たちを追いかけているのが……
「ア"ァ"ァ"ァ"ヴゥ"ァ"……!」
腐った肉を纏わせた不死のモンスター、アンデッドのゾンビである。
正直言ってめちゃくちゃグロい。
だって目ん玉飛び出てたり頭から脳みそが腐っているのか見えるんだよ?
無理無理あんなグロいのに触りたくもないし同じ空気を吸いたくないわけで……
「ぎやぁあああああ! 来るな来るな来るな! 《ウィンドカッター》《ファイアランス》ッッ!! ダメだ! 燃えても切っても何でか動く! それにそうなった方がより気持ち悪くなるんですけどおおお!!」
「わ、私は攻撃すらできません!! 向こうを向きたくないんです!!」
そう言って涙目で逃げるシンシア様。
なら俺もこの情けない騎士団長様にひとつ言っても良いのだろうか?
「じゃあ何でこの依頼受けたのよおおお!!」
「そんなの私に聞かないでくださいよっ! 全部上の人が決めるんですから! そこに私の感情は入らないのですよ!」
「がああああ!? この国の上層部も基本ブラックだな!? やっぱりニート最高! もうニートしか勝たんッッ!」
「やめて下さい、それを今言うのは! 私も少し羨ましいと思ってしまうじゃないですか!」
「おいそんなこと言っちゃいけません! フィリアさんに聞かれたら怒られるぞ!」
「レオンさんはいいのに私はダメなのですか!?」
「当たり前だ。俺はいいんだよ。たけどシンシア様はもうダメなんだ。1度就職したらもうお終いなんだよ」
「初めて騎士団に入ったのを後悔しました! そしてフィリアさんは一体どこに行ったのですか!? このためについてきてもらったのに!」
「ああ、それならあそこにいるよ」
俺は走りながらフィリアさんの方を指差す。
其方に目を向けた涙目のシンシア様が、突如驚いたように目を見開いた。
あれ? なんか俺が思っていた反応と違うんですけど……。
俺的には安心させようとしたんだけど……。
俺もシンシア様と同じくフィリアさんの方を向くとそこには……
「あはははははは!! さぁ消滅してしまいなさい! この聖女様が全部浄化して差し上げますよっ! 《不死浄化》ッッ!!」
物凄い清々しい笑みを浮かべて迫り来るゾンビを消滅させまくっているフィリアさんがいた。
その姿は半分狂っているように見えてとても聖女様には見えない。
「フィリアさんフィリアさん猫被って! 目の前に何も知らないシンシア様が居ますよ!! シンシア様が混乱しています!」
「あはははは……——え?」
フィリアさんはピタッと動きを止めるとぎこちなく此方を向き、額に手を当てて溜息を吐く俺と唖然としたように目を見開いたシンシア様を見て、いきなり目が縦横無尽に泳ぎ出した。
あ、この人マジで俺たちの存在忘れてたな。
そう言えば昔聞いたことあったな……。
『この街の聖女様はアンデッドを前にすると、アンデッドよりも不気味になる』って。
確かにこれを見たら不気味だな。
と言うか不気味を通り越して最早怖い。
だってめちゃくちゃ嬉しそうに笑いながら浄化してるもん。
もう俺には快楽殺人者にしか見えないよ。
そんなこと絶対思っちゃいけないんだろうけどさ。
「す、すいませんと、取り乱しました……」
今更ながらに取り繕うフィリアさん。
俺はこの後に及んで自分のキャラを偽ろうとするそんな姿に感服を受けますよ。
シンシア様は少し引いているようですけど。
「はぁ……一体どうしてこうなったのか……」
これはほんの数時間前にした自分達の判断が原因であることは明白だ。
俺はシンシア様と逃げながら思い出していた。
<><><>
数時間前。
「それでどんな依頼をシンシアさんは受けたのですか?」
猫被り似非聖女がそう聞く。
しかし俺も気になる。
だってシンシア様ってめちゃくちゃ強いんだよ?
それもブラウンが絶対に勝てないって言うくらいの。
因みにブラウンの強さは俺の除けば間違いなく王国最強だった。
まぁ俺はあっさり……ではないが普通に勝ったけど。
ま、まぁ俺はこう見えてめちゃくちゃ強いので?
この国に俺の相手をできる人なんて———目の前のシンシア様しか居ないんだよね。
武力だけでは。
勿論それ以外なら俺よりも強い人は沢山いるよ?
例えば母さんとかね。
母さんには俺の本能が逆らうなと警鐘を鳴らしているから基本は逆らわない。
今回のことはしょうがないことだ。
兎に角、そんなこの国でも1番強いシンシア様が依頼を手伝って欲しいと言うのだ。
きっと物凄く難しい依頼なんだろう———
「———ゾンビの討伐です」
「「…………はい?」」
なんて言った?
ゾンビ狩り?
この人ゾンビ狩りって言った?
あの女神教専用クエストみたいなアレ?
「えっと……どう言うことですか? その依頼は基本私達女神教の者達が請け負うもののはずですが……」
珍しくフィリアさんも困惑の表情を浮かべてイマイチ状況を掴めないでいる様だ。
まぁ勿論それは俺もなのだが。
だってアンデッドには普通の魔法なんて効かず、勿論物理ダメージも大して効果がない。
まぁ完全に消滅できるほどの威力を持った魔法か剣技があれば別だけど。
ただそうすると体力と魔力だけ持って行かれてすぐにバテてしまう。
そんな非効率なこと誰もしたがらないよ。
無限に体力や魔力があるなら知らんけど。
しかしそんなほぼ無敵なアンデッドでも、神聖魔法にはめっぽう弱い。
どんなに弱い神聖魔法でもダメージを与えられるし、《不死浄化》なんかは一撃で何体ものアンデッドを消滅させることも可能だ。
だから基本は女神教団がする。
その方が効率もいいし、何より安全だからね。
そのはずなんだけど……
「どう言うわけか分からないのですが、私の騎士団にこの依頼が回ってしてしまい……。一応他の人にも聞いてみたのですが、どの人もやりたくないらしくて……」
そう言って悲しそうに顔を俯かせるシンシア様。
それには少し可哀想に思うが……。
「でもねシンシア様……それは俺もきっとそこに居たらやりたくないと言うと思うな。だってアンデッドなんて騎士団の天敵じゃん。だから皆にこう言われたんじゃない? 『自分を連れて行くなら女神教の神官連れてって下さい』ってね」
「よ、よく分かりましたねレオンさん! そうなんです! だからこうしてここに来たわけです」
なるほどねぇ……まぁその選択は間違ってないな。
「それで行くんでしょ、フィリアさん?」
「勿論です。アンデッドなんて言う邪悪な者どもは私が即浄化して差し上げます!」
いつになく興奮したご様子で食い気味に即答するフィリアさん。
やっぱり神官さんってアンデッドが嫌いなんだなー。
まぁフィリアさんにしては珍しくやる気があるからいいけど。
俺がそんな呑気なことを考えていると、ぐるんとフィリアさんがこちらを向くとニンマリと笑う。
うわっ……めちゃくちゃ嫌な予感がする……。
またまたその予感は的中した。
「ここで一緒に聞いていたレオン君も連れていきましょう? こう見えてめちゃくちゃ強いんだから」
「俺は嫌ですよフィリアさん! 自分だけ行くのが面倒だからって俺も巻き込まないでください!」
ほらな。
やっぱりそうくると思ったよ。
俺に働かせようってか?
ふざけるんじゃねぇよ似非聖女が。
俺はゾンビなんて倒したくないわ!
と言うかゾンビ自体見たことないんだけど。
俺はフィリアさんを『何で俺を巻き込むんだこの性格悪い魔女が』と言った感じで思いっ切り睨むが、どこ吹く風で微笑を浮かべている。
その顔めちゃくちゃ腹立つな。
俺がフィリアさんに少し殺意を覚えていると、シンシア様が『れ、レオンさん!』と話しかけてきたので其方を向く。
「レオンさんが強いのは勿論知っていますが……レオンさんは嫌ですよね……?」
そう言って俺に問いかけるシンシア様。
その瞳は俺を純粋に心配しており、自分のことに巻き込んだことを申し訳なさそうに眉は下がっている。
いけない。
非常にその顔はいけない。
男はそう言った庇護欲を掻き立てる顔をされたら拒否できないの。
「あら、こんなに可愛い女の子にあんな顔させてまで行かないつもり?」
この似非聖女が……痛いところを突きやがって……。
チラッともう1度シンシア様を見ると、先ほどと同じく俯いて申し訳なさそうにしている。
その姿は確かにずっとやらせてはいけない気がするけど……ああ分かったよ!
やればいいんでしょ! やれば!
「…………はぁ……分かった、俺も行こう。どうせフィリアさんに言い包められて無理やり行かされそうだしな」
「あ、ありがとうございます!! レオンさんがいれば百人力ですっ!」
俺が行くと言った途端に花のように綺麗な笑顔を浮かべるシンシア様は、天然の男殺しだと思う。
なんて恐ろしい子……!
まぁそう分かっていても断れないのが男ってもんなんだけどな。
俺は頭をかきながら嬉しそうに、そしてどこかホッとしたように前を歩くシンシア様と、俺に『ざまぁ』とでも言ってそうな顔を向けてくる似非聖女を追いかけて墓地へと向かった。
後にこの判断に物凄く後悔するなど知る由もなかった。
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