第13話 教会で似非聖女様とお姫様と

 教会の中は外見より更に豪華で、見るからに高そうな女神の絵画や黄金の聖杯が無数に飾ってあった。

 更には教会の祭壇には大きな女神像が置いてある。


 うっわっ………本当に一体どんだけ信者の金を巻き上げたんだよ……女神教エゲツないな……。

 俺なら即こんなぼったくり宗教抜けるね。

 まぁどうせこの魔女が自身の見た目を使って、悲しげな表情作って少し前屈みになって自慢の大きなお胸を強調させて巻き上げたんだろうけど。

 普通の女性なら嫌だろうが、この人は極度な守銭奴だしそれくらいなら平気でやりそうなんだよな。


「———だから巻き上げてなどいないと言っているでしょう? 皆のぜ・ん・い・です!」

「嘘つけ猫被り魔女め」

「ぶっ潰しますよ?」

「出来るもんならやってみやがれ。俺はこれでも大分強いからな!」

「ならレオン君のお父様に言うだけです」

「それは卑怯だぞ似非聖女! 女神の信徒の風上にも置けない奴め!」

「似非聖女似非聖女、魔女魔女五月蝿いのです! ———マジで潰すぞああん?」

「———…………何でもないっす……はい……」


 一瞬だけ後ろに死神が見えた気がしなくもないが、きっと俺の見間違いだろう。

 うん、そう思っておくことにしよう。


 はぁ……何処かフィリアさんとのやりとりを早速ストレスに感じている俺がいる。

 だって俺がなにか言うたびに必ず弱みをちらつかされるんだもん。

 こんなんじゃ碌に会話もできないよ。


 何よりフィリアさんは母さんに似ているから苦手というのもある。

 きっと怒らせたら怖いと思う。

 と言うかさっきめちゃくちゃ怖かった。

 …………何でストレスを解消しに来たのにストレス感じているんだか。

 もう早く《状態異常回復》掛けてもらって帰ろ。

 

「それでいつ俺に《状態異常回復》を掛けてくれるのですか?」

「そんなに焦らないで下さい。分かりましたから———それでは始めましょうか。《状態異常回復》」


 俺の体が淡い光に包まれ、心の疲れやその他諸々が浄化させていくのを感じる。

 ただ1つ気になることもあるが。


「……おい、詠唱しろよ」

「いいじゃないですか。ちゃんと発動したのですから」


 まぁ確かにそうだけどさ……効果落ちるんじゃないのか?


「まぁこの魔法は何千回と使っているので殆ど効果は落ちていませんよ」


 いや殆どってことは多少は落ちているのかよ……。

 俺だからって詠唱省くな。

 それと俺の心をナチュラルに読むな。

 

 因みに本来神聖魔法は神に祈りをする過程で詠唱が必要になってくる。

 その方が成功率も効果も上がるかららしい。

 ただこの似非聖女様は面倒がって詠唱しやがらなかった。

 俺以外には猫かぶって手を合わせて祈りまでする癖にさ。

 

「五月蝿いですよ。どうせレオン君は私の本当の性格を知っているからいいのです」

「まぁフィリアさんが俺の前で猫被ってやってたら思いっ切り笑ってしまうかもしれませんけど」

「貴方も大概性格悪いですね」

「それは勿論貴女も入っているのですよね似非聖女様?」

「——それは喧嘩を売っているのですか? ん? この巷では聖女様と神の次に崇められている私に? いいですよ、受けてあげましょう。ボッコボコにして差し上げます」

「おう上等だよコラ! 俺がニートの人権を認められるように喧嘩売ってやるよ。ついでに今までの俺がアンタにやられてきた仕返しも兼ねてな!」

「そんな事絶対に無理ですよ。そしてニートに人権がないのはしょうが無いことです。働かない人間は害悪なだけです」

「おっ、それは働いていない子供に向かって言えるんですかぁ? 言えないですよね? だって巷で人気の聖女様ですもんね?」

「このガキが……」

「それならフィリアさんはおばさんだな。可哀想に……もう多額の献金貰えなくなりますね?」


 売り言葉に買い言葉でお互いに睨み合う。

 そんな所に1人の女性の声が聞こえてきた。


「すみませーん、フィリアさんは居ますか?」

「はーい、もちろん居ますよー。今から開けますねー」


 一瞬で俺から見れば気持ち悪い笑顔に戻って、ついでに声のトーンも1つ上げるフィリアさん。

 俺は思わず物凄く遺憾ながら感心してしまった。


「流石似非聖女。変わり身の速さが段違いだなぁ……」

「五月蝿いですよ。いい加減にしないと神の天罰を食らわせますからね! 永遠に仕事が舞い込んでくる罰を」

「———もう2度と言いません!!」

 

 俺がそう言って腰を90度に曲げたのに気を良くしたフィリアさんは、再び聖女バージョンになると教会の扉を開ける。

 

「こんにちはフィリアさん! 依頼でこの街に来たので寄り———」

「フィリアさん、誰が来たん———」


 俺と来訪者はお互いの顔を見て固まる。

 そして同時にお互いを指さして言う。


「「な、何で此処に……!!」」

「——シンシア様!?」

「——レオンハルトさん!?」


 そう、来訪者はつい先日あったばかりのシンシア様だったのだ。

 腰には相変わらず剣を帯刀しているが、前見た如何にも身軽そうで居て強そうな鎧は着ていなかった。


「ど、どうしてここに居るんだ?」

「そ、それはこちらの台詞ですよ! どうして目立つこんな街にいるのですか!? 折角私は黙っているのに!」


 あっ、シンシア様は律儀に守ってくれているようだ。

 本当にどこかの性悪女とは違うな。


 そんなことを思っていたらいつの間にか思いっきり睨まれていた。


「…………何ですかフィリアさん」

「……何でもありませんよ。ええ、何でも。ふふっ……」


 そう言って黒い笑みを浮かべるフィリアさん。

 

 あんたそんなことしてたらシンシア様にバレるぞ。

 と言うか———


「フィリアさんじゃなくてシンシア様が聖女って呼ばれてるなら納得すんだけどなぁ……。ねぇシンシア様神官やってみません?」

「ふぇ?」

「あら、私じゃ何か不満があるのですか? あるのなら言ってみてください」

「…………」

「ほら、早く言ってみてくださいよ~。言ってくださったら直せるかもしれませんし」


 そう言うのは直さない奴が使う常套句なんだよ。

 まぁどうせ似非聖女様は直さないだろうからお似合いか……って———


「———さっきから痛いんですけど!? やめて下さいませんかフィリアさん?」

「何を言っているのですか? 私は何もしていませんよ? 幻覚ではなくて? もう1状態異常回復を掛けましょうか?」


 嘘つけ、めちゃくちゃ俺の脇腹抓ってただろうが。

 それに幻覚は見てないわ。

 でももう1状態異常回復は掛けてもらおうかな?


「じゃあ《状態異常回復》掛けてください」

「分かりました。——コホンッ! 【女神様のそのお心でその者に慰めを与え給え】《状態異常回復》」


 そう言って手を組んでちゃんと詠唱までする似非聖女様。

 今だけ聖女にちゃんと見える。

 本当に猫被るのと神聖魔法は上手いなぁ……。


「ふぅ……それではシンシア様は何の御用で御座いましょうか?」


 俺に掛け終えたフィリアさんがシンシア様の方を向いてそう訊く。

 するとシンシア様は少し険しい顔になって頼む。


「お願いします……どうか私と共に依頼を受けていただけませんでしょうか?」


 そんなシンシア様の言葉に珍しくフィリアさんは意表を突かれたような顔を晒していた。

 

 ふっ、言い様だ。


 その後脇腹を抓られたのは言うまでもない。


 ほんと暴力的な聖女様だ。

 俺は溜息を吐いてシンシア様の詳しい事情を特に俺は関係ないのだが、横から聞くことにした。


―――――――――――――――――――――――――

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