第12話 腕のいい神官さんでも俺の性根は治せないようです

 シンシアとブラウンが山賊達を連れて行っていることなどつゆ知らず、俺は山賊を倒したそのままの足で俺の家があるドラゴンロード領の隣に位置する、エウレカ領に行っていた。

 エウレカ領には大きな教会があるため、今からそこで《状態異常回復》の魔法を掛けてもらおうと思っている。

 気持ち悪いし最近思考がクズくなっている気がするから浄化してもらおうってわけだ。


「久しぶりのエウレカ領だなぁ……半年は引き籠もっていたから外にも出てなかったし」


 俺は検問に並びながらそう呟く。


 この領は兎に角信徒が多いんだよな……。

 イコール俺の敵がわんさかいると言うわけで、なるべく行きたくないんだよ。

 あの宗教は全引きこもりにとっては神じゃなくて悪魔だからな。


 真面目に働けとか強制するなよな。

 それに真面目に働けば神が救ってくれるとかさ。

 まるでニートに人権がないみたいじゃないか。

 まぁ親父にも学園の教師にもそう言われたけど。

 くッ……女神教め……全大人を洗脳しやがって……。

 いつか必ず抗議してやるからな……!

 ついでにニートの人権も取り戻してやる。


 そんな事を考えていると、ふとあることに気付いた。

 俺の街は出禁になるほど知れ渡っていたけど、この街にはまだ何も知られていないのか?

 それとももしかしてもう既に此処にいるのか……親父の手先が……?

 でもそれにしては検問は前と変わらないもんな。

 でもこの街にも親父の手先がいるかも知れないし、気をつけておこう。

 俺が少し警戒心を上げていると、とうとう俺の番になった。

 俺は社交界で習得した作り笑顔で少しキャラも変えて対応する。


「次!」

「はい、ハルトです! これが冒険者ライセンスです」

「ん? …………よしこれなら大丈夫だろう。それにしてもその歳でB級とは凄いな。頑張れよ」

「はい! ありがとうございました!」

 

 俺は柔かな笑顔を絶やさず門を通る。

 そしてその瞬間に笑顔を引っ込める。


「はぁ……この笑顔もう2度と使わんと思っていたが意外なところで役に立ったな。これも全部母さんのお陰せいだな」


 まだ俺が10にも満たない頃は散々社交界で浮かないようにこう言ったものを叩き込まれたからな。

 

 あの時からそう言えば鬼の兆候を持っていたな母さん……。

 俺や妹が疲れて笑顔を絶やしたら、物凄い不気味な笑顔を浮かべてこう言うのだ。


『あら? 2人ともお顔が崩れているわよ? やらないと言うなら跡形が無くなるまで崩してあげましょうか?』


 ってね。

 もう怖すぎだよ。

 だから俺と妹は2人で抱き合いながら恐怖の笑みを浮かべるんだ。

 あの時は妹がいたから良かったけど、居なかったらちびってたかも。

 学園時代に何度もモンスターとやり合ってきたけどあれほど怖かったことなど未だかつて一度もない。

 ついこの前倒した黒竜は第5位くらいかな?

 1番から3番は全部母さんだ。

 多分この順序は妹も同じのはず。


 弟は俺と違ってめちゃくちゃいい子だから、母さんに怒られたことないんだよな。

 あ、勿論妹もめちゃくちゃ可愛くていい子だよ?

 ただ俺を慕い過ぎて俺と同じことするから怒られるんだけど。

 俺なんて自分で言うのも何だが穀潰しなんだけどな。


 俺が昔のことを懐かしく思いながら大勢の人混みの中を歩いていく。

 この街は——いや都市と言えるかもしれない——は俺たちの領よりも土地面積は2回りほど小さいものの、人口は1.5倍以上いる。

 何故かと言うと……


「へいらっしゃい! おお、イケメンのにいちゃん! ウチの串焼き食わねぇか!? ウチの串焼きはこの街でも随一の味だぞ!」

「いらっしゃいませぇ~! そこのカッコいいお兄さん~私たちの店でお洒落にならない~?」


 このように商業が盛んなのだ。

 ここには大陸のほぼ全てのものが手に入ると言われるほどである。


 まぁ俺はこの、人がごった返す感じが大嫌いで殆ど行ったことないけどな。

 だって人が多いと居るだけで気持ち悪くなるし嫌じゃない?

 あと人が多いとよく擦られるし。


 まぁ取り敢えず今は置いておこう。

 ちょうど教会が見えてきたところだからな。

 相変わらず教会は——城みたいにデカい。

 いや流石に王都の城ほどではないにしろ、ウチの家より断然デカい。

 俺の家は貴族の中でも最大級の大きさなんだけどな。

 多分100部屋くらいあると思うぞ。

 それよりも大きいとなると、どれだけデカいかがよく分かる。


「む、無駄に金かけてるなぁ……。これが全部献金で賄われているって化け物だなぁ……」

「あら、化け物なんて酷いじゃないですかレオン君」


 俺がボソッと独り言のつもりで呟いた言葉に謎の女が反応するではないか。

 しかも俺の名前まで知っている。

 こんなの俺が知っている中で1人しかいない。


「急に耳元で囁かないで下さいよ、フィリアさん」


 俺は後ろを振り向きながらそう言う。

 そこにはシスター服を着た1人の美女がいた。


「あら、なら先程のような言葉は言ってはいけませんよ? 信者の皆さんの信仰心の象徴なのですからね?」

「…………」


 よく言うよなこの魔女。

 この街の信者の大半はあんたに気に入られるためだと俺は知っているんだからな。

 

「私は魔女ではありませんよ? 巷では聖女様と呼ばれているのですよ?」

「うわっ……猫被りが激しいですねフィリアさん」

「五月蝿いですよ。そんなこと言うなら貴方のお父様に報告しますよ? レオン君がエウリカ領の教会にいますってね?」

「ごめんなさいどうか言わないで下さい。取り消しますフィリア様はこの世で最高の慈愛の聖女様です」


 俺は速攻謝る。

 最近誤ってばかりな気がするが、弱みを握られている以上しょうがないのだ。


「ふふっ、分かってくれたのならいいです。それで——家出をしたレオン君が一体何をしにきたのですか?」


 まさしく聖女の様な慈愛に溢れた笑顔でそう問うてくるフィリアさん。

 これが純粋な本当に慈愛に溢れた笑顔ならよかったんだけどな。


 俺がそんなことを思った瞬間笑顔の質が変わって氷点下の笑顔に変わった。


「今———何と考えていましたか?」 

「いやいや何でもないですよ!? 今回はフィリアさんに———でもなくていいので《状態異常回復》を掛けて貰いにきました」


 俺がそう言うとフィリアさんは不思議そうに首を傾げる。

 そして何か思い付いたのか、『ああ』とポンと手を打つと、全くの的外れな事をズバッと言いやがった。


「貴方の性根は《状態異常回復》でも治りませんよ? 私は騎士団入団をお薦めします。そうすればその引き篭もり癖も嫌でも治るでしょう」

「いやそれじゃないですよ!? 最近ストレスが溜まっているので心を落ち着かせて貰いにきただけです! あと騎士団は絶対に嫌です!」


 やっぱり酷いなこの似非聖女。

 それに俺の性根は正常なんですぅ!

 あんた達がおかしいんですぅ!

 騎士団はどいつもこいつもムキムキばかりらしいから絶対に行きたくない。


「……何だそう言うことでしたか。なら早くきてください。とっとと掛けて終わりますので」


 猫被ることなど全く忘れたかのような口調でそう言うと、教会の中に入っていくフィリアさん。

 俺はそんな彼女の後ろ姿を見ながら判断する。


 ———この人と結婚は無理だな———と。


 中々結婚相手が見つからないなぁ……と虚しくなりながら、フィリアさんの後を追って境界に入った。



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