第11話 山賊倒して神官さんに会いに行こう

 数十分掛けて何とか山賊の元にたどり着いた俺だが、この時には既に体力の限界が訪れていた。


「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……ゴホッゴホッ!! ……もう無理死ぬ……ペース間違えた……ゴホッゴホッ!!」


 冗談じゃなくて真面目に死にそう。

 主に酸素不足と精神的に。

 それとめっちゃ気持ち悪い……うっぷ……吐きそう……。


 俺は山賊を視界に捉えながらも山賊たちには見えない位置にある木陰で一旦休む。

 この暗さだったらバレないかもしれないけど念の為だ。

 流石に今の俺の状態でバレたら普通にマズイ。

 今この状態で戦ったら、雑魚相手でも開始2秒で負ける自信がある。

 

 だってさっきから一歩歩く度に胃から逆流してきそうなんだもん。

 ただ少しでいいから弁明させて欲しい。


 いや平地だったらこんな事になってないんだよ?

 この森は中心部に行くに連れて標高が上がる、この国には珍しい、森が山にあるタイプなんだ。

 だからそれで体力削られるし、更に木が邪魔でジグザグに進まないといけないから余計に疲れるんだよね。

 俺は既に半年間引きこもっていた身。

 最近俺としては不服だが運動することが増えているけど、そんなもんじゃ半年間の体力低下は未だマイナスのままなんだ。


 そんな時に全力で山登り?

 無理無理頭おかしいんじゃないのって俺なら思うね。

 まぁそう思っている俺が全力で山登りしたんだけど。

 ……うん、俺バカだな。

 物凄く悲しいが、親父が言うバカ息子もあながち間違ってない気がしてきた。

 

 俺は自分が思っている以上に馬鹿だと言うことに気付いてる軽く落ち込んでいると、とうとう山賊に動きがあった。

 山賊どもが2、3人を除いて全員何処かに出て行ってしまったのだ。

 多分また馬車を襲うのだろう。

 

「よし……今がチャンスだ!」


 俺はこれから襲われるであろう馬車に心の中で謝りながら、空間探知で山賊の殆どが離れたことを確認すると勢いよく飛び出す。

 入り口に警護が2人、そして中に1人なのを把握したので、取り敢えず門番的な外の2人を対処すると同時に中の奴もおびき寄せよう。


「おら! お前達の人生の幕引きをお手伝いする正義……ではないか。えっと……一般人の登場だ! さぁ有金全部寄越しな! そして俺がお前達を憲兵に突き出してやるぜ!」


 俺はそう意気揚々と叫びながら、中にいるもう1人を誘い出して3人に飛びかかった。







<><><>







「ふぅ……危なかったぜ……まさかただの山賊があんなに強いとは……」


 俺はおでこの汗を拭いながらそう呟く。

 俺の周りには全部で15人の山賊が気絶して倒れている。


 いや当初は3人で終わる予定だったんだよ?

 でも誰か残っていた3人の中の1人が通信魔道具持ってたらしくて、先ほど出て行ったばかりの全ての山賊が合流してしまったんだよね。

 いやぁそれなりにキツかったな。

 ただでさえ気持ち悪かったのにまぁまぁ強い15人が相手だよ?

 自分でもよく勝てたなって思うよ。

 もう何ヶ月かは戦闘なんかしたくないね。


 それにこの山賊のねぐらを壊さないように戦うのには流石に骨が折れた。 

 まぁもしこのまま誰も戻ってこなかったら、俺が馬車が襲われている間にお金を取ることになるので罪悪感が半端なかったからよかったとも言えるけど。


 俺は気絶している山賊共をまとめて一つに縛ってそこら辺に転がしておく。

 今山賊共を縛っている縄は、俺が昔モンスターを縛るために買った特注のミスリル製の縄で、コイツら程度では絶対に切れないし外せないだろう。

 まぁ特注ということもあって高かったが、結婚さえすれば必要なくなるので特に問題ないだろう……多分。

 これが売れたらどんなに楽だったことか……。


 俺はミスリル製縄を見ながらため息を吐く。

 そして後は見つけた誰かに任せるとして俺はねぐらという名の洞窟へと足を運んだ。


 中はの光源は松明のみのため少々暗いが、気になるほどではなかった。

 ただ俺の洞窟に比べて圧倒的に汚いし臭い。

 まぁ俺がめちゃくちゃ綺麗にしすぎただけで、此処も十分綺麗なんだろうけどな。

 ただ温室育ちの俺には此処はちょっと厳しい。

 更に戦闘したことで余計気分が悪くなっているのであまり長居するとうっかりゲロ吐きそう。

 

 俺は口元を手で抑えながら松明の明かりを頼りにどんどん奥へと進んでいく。

 奥に行くに連れて洞窟が広くなっていき、生活感が感じられるようになった。

 まぁその分酒臭かったりするが、入口付近よりはマシだと思う。

 俺は酒大好きだからな。

 

 ……そういえば最近はめっきり酒飲んでないなぁ……。

 まぁお金もないし別に中毒というほど好きなわけでもないから別にいいんだけどね。

 というか今飲んだらマジで酒にドハマリしそうで怖いから飲めない。


 酒が心の支えになるなんて笑えないぜ……お金もないのに。

 それやっちゃったら俺完全に犯罪者一直線だよ。

 俺は一生追われ続ける生活なんて絶対やだからね!

 それに結婚も出来なくなるから働かないといけなくなるし。

 ……俺もう金輪際酒飲むのやめようかな……。


 俺は視界に入る酒類から目を逸らして、お金がある所を探す。

 見た感じ洞窟の壁をくり抜いた後もないし何処かの箱に入れて有りそうだけど。


 なぁんて思っていた時に俺はそれを見つけた。


「―――……まさか本当に宝箱に入れているとは……しかも蓋開いてるし……彼奴等不用心すぎない?」

 

 中にはざっくり言うと貴族が使う1年分位のお金が入っていた。


 俺が家から 持ち出したお金の10倍くらいあるんだけど。

 それにしては本当に不用心だな。

 誰にも襲われないとか思ってたのか?

 まぁだけど探す手間が省けたし俺的にはメリットしかないからいっか。

 哀れな山賊たちよ……お前たちが必死こいて集めたお金はこの俺が頂くぜ。

 残念だったな、俺の近くに居たことが1番の敗因だ……。

 ふっふっふ……それじゃあいただきます!!


 俺は箱ごと空間魔法で収納する。

 これで俺の目的は完了した。

 後はあの山賊たちをどうするかなのだが……


「――まぁあのままでいいか。自業自得ということで誰かが見つけるのを祈っててもらおう……と言うのは流石にどうかと思うし……森の入口にでも捨てていくか」


 俺は全員まとめて人目につきそうな森の入口に捨てておくことにした。


 け、決して面倒だからとかじゃないよ?

 えっと……そ、そう!

 俺が突き出しに言ったら俺も一緒に憲兵に捕まりそうだから仕方なくな!

 うん、気持ち悪すぎて早く戻って寝たいとかそんな事は思ってないからな!


 俺は心の中で誰にも聞かれることのない言い訳をしながら山賊共を森の入口へと連れて行った。







「………………これ誰の仕業だと思いますか?」

「…………十中八九レオンでしょうな」

「やはりそうですよね……はぁ……また先を越されてしまいました……」


 又もや依頼を先にこなされてしまったとある二人組は深く深くため息を吐く。

 そしてただひたすらに泣き喚いている山賊を街へと連れて行った。


―――――――――――――――――――――――――

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