第7話 最終手段、その名は———土下座だっ!(改)
森の中で1人の情けない男が、ゴツいイケメン男と華奢な女の子に土下座していた。
「お願いします! どうかこのことは他言無用でよろしくお願いできないでしょうか!? 俺はあんな所に―――とは言っちゃいけないか……あの地獄の場所に戻りたくないのですぅぅぅ!!」
「結局自分の家を貶しているじゃないか……」
土下座する情けない男―――レオンハルトは、そう言って再び顔を地面に擦り付ける。
それを見ていた男――ブラウン――の方は、レオンハルトに侮蔑の目向けていた。
「お前にはプライドがないのか……上級貴族としての――」
「そんなものある訳ないだろうがぁぁぁぁ!! とっくにそこら辺のドブに捨ててきたわ!! だってそんなものあったって俺の役に1ミリも立たんからな!! ―――あっ……ご、ごめんなさいねぇ……え、えっと……見逃してくださぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!」
自分が頼んでいる方なのに突っかかってしまったレオンハルトは気まずそうに目を縦横無尽に動かすと、再び綺麗な土下座へと移った。
そしてそれを見てブラウンはため息を吐き、自身の横にいて、先程からクスクスと笑っている女の子――シンシア――に問う。
「どうしますか、この暑苦しい一応貴族の端くれ君は」
「随分ひどい言い草だなお―――はい! 俺は貴族の雑草……いや貴族の塵芥ですッッ!! 話に割り込んですいませんでした!!」
「…………でどうしますか、シンシア嬢」
レオンハルトは反論しようとするが、『お前また突っかかって来るのか? あ?』みたいな目をブラウンに向けられて土下座を再開して自虐までしだした。
これにはブラウンはもう疲れたとばかりにレオンハルトの方を一切向かずにシンシアに言う。
シンシアは何とか笑いを収める。
しかし顔は笑顔のままで悪戯するような表情に変化した。
その表情を下から見たレオンハルトは嫌な予感をビンビンに感じていた。
そして遂にシンシアが口を開く。
「……どうしましょうか? 私的には突き出した方が面白そうなのでそうしてみたいのですが……」
「はい、嫌な予感的中! それにねぇ……お姫様の態度が思ってたのと違うんですけどおおおおお!!」
レオンハルトの悲痛の叫び声が響き渡った。
何故こうなったかは、30分前に遡る。
<><><>
俺は火を起こすための乾燥した枝や葉が洞窟の近くに中々無いため、洞窟から少し離れて森の奥へと向かっていた。
まぁ勿論めちゃくちゃいやいやだが。
だって森だから虫に噛まれたりするし。
そのため俺は隠密の意味合いも兼ねて――と言うか大部分はそうなのだが――常時フードを被っている。
これで少しは頭を虫から守れるだろうしね。
まぁ他のところは全くの無防備で、現時点で何箇所も蚊に噛まれているが。
「……何で森なのに洞窟の近くに落ちてないのさ……。どう考えてもおかしいだろ……まさかまた親父の仕業か!? ―――んなわけ無いか。もし俺の居場所を知ってたなら連れ戻しに来そうだし。……ヤバいぞ……メンタルがおかしくなったのかも知れん。今度神官さんに《状態異常回復》をかけてもらおうかなぁ……」
神官さんは、この大陸に根付いている女神教の司教たちのことで、高度な神聖魔法を使うことが出来る。
ん、俺?
勿論使えないよ?
だって神聖魔法って何かしらの神を信仰していないと使えないもん。
俺は神は信じてないし。
だってこの世界の神様は『真面目に働いて、出会う人皆に優しくしていればいい事おきるよ~』的なことを掲げているからな。
そんなの守ってたまるかっての。
何で真面目に働かないといけないんだよ。
俺は楽して生きたいの!
それに誰も彼もに優しくなんて、そんな非効率で面倒なこと俺がするわけないじゃないか。
あ、後将来の俺の奥さん。
「まぁいつ見つかるかわからんがな。あっはっはっ……はぁ……早く神官さんのところ行こ……」
俺は枝を拾いながらそんな事を思う。
どうやらストレスでマジでおかしくなってしまったようだ。
おい、普段からおかしいとか言うなよ。
俺がおかしいんじゃない、他の皆がおかしいんだ。
これは俺の18年間生きていきた中での持論だ。
まぁ親父には『そんな馬鹿なこと言ってないでとっとと勉強しろ』ってキレられたけど。
しかしそんなの知らん。
俺は正常、至って普通な元貴族だ。
おかしいのは権力大好きの凝り固まった奴らだ。
俺は自分にそう言い聞かせながら洞窟へと戻る。
枝は毎度おなじみの空間魔法の中に入れており、既に1週間位分の物は採取しているので、これがなくなるまでは洞窟の中でダラダラ出来るだろう。
俺はこれからのぐーたら生活のことを考えてワクワクしながら帰ると、そこには2つの人影がいた。
それを見た俺はフードを被って急いで木の陰に隠れる。
しかしそんな俺の努力を他所に一瞬で気付かれた。
「――だれだッッ!! そこに居るのは分かっている。さっさと出てこい!!」
大柄の男がそう叫ぶ。
そして御大層に腰の綺羅びやかで如何にも強そうな剣の柄を握って戦闘態勢に入っている。
……はい、あっさりバレましたー。
いや気付くの早すぎではござらんかね。
それに今の言葉は完全に警告ですよね。
『痛い目見たくなかったら出てこいやゴラァ』って言うさ。
と言うか何かめちゃくちゃ聞いたことがある声なんだけど……主にお姫様の近くで。
どうせ何処ぞのムキムキモンスターだろきっと。
もし俺が思っている奴なら無視して去っても大丈夫かな?
俺は音を全く立てないように気配を出来るだけ消してその場を少しずつ離れようとしたのだが……
「――何処に行こうとしているのですか?」
「ッッ―――!?」
気付けば俺は後頭部に剣を突きつけられていた。
そしてそんな俺に向けて敵意の混じっているものの透き通った綺麗な声色でそう問うてきた。
いや幾ら何でも物騒すぎやしないかい?
でも多分この人も知っているんだよなぁ……あのムキムキモンスターと一緒で。
だから正直顔を見せたくない。
出来ればこのままトンズラしたい所だ。
俺は思いっきって逃げようとするが――
「動かないでください。動けば敵対とみなして斬ります」
「はい、動きません!! ―――あっ――」
「―――えっ……」
――なんてやっぱり無理ですよねぇ!?
それに思いっきりやらかしたァァァァァ!!
ついいつものカレンとのやり取りの癖で敬礼までしてしまったァァァァァァ!!
俺は顔から汗が吹き出してきたが、それを我慢し、心の中で絶叫する。
そして言い訳も。
ちょっと待ってくれ、これは俺のせいじゃないと思うんだ。
これは俺をこんな体にしたカレンが悪いと思うの。
だってカレンはああでもしないと睨んでくるんだもん……後普通に怖いし。
おっと臆病とか言うなよ。
美人が怒ると怖いというが……あれはマジだから。
カレンがキレたらドラゴンよりも怖いんだからな!!
だからこれはしょうがないことなんだよ。
「…………レオンハルトさん……?」
「………………一体それは誰でしょうかね……?」
「ああっ!! 国王陛下に舐めた口叩いたガキじゃないか!」
「五月蝿いよムキムキモンスター野郎!! お前はお呼びじゃないの!! …………」
「「…………」」
あっ、やべ、またやっちまったぁぁぁぁぁ!!
ついいつも通り返答してしまったんですけどおぉぉぉぉ!!
俺の全身から冷や汗が吹き出し、自分の表情が歪な笑みを浮かべているのが、見えていないはずの自分でも手にとるように分かる。
そのため見ている側は俺よりも分かるわけで……
「お前やっぱりレオンハ――」
「どうかこの事は他言無用でお願いしまぁぁぁぁぁす!!」
ここで俺は、最終手段の全力で土下座を開始した。
これで冒頭に戻る。
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