第8話 どうやら俺は無駄なことをしたみたいだ……

「あのぉ……シンシア様? それは非常にやめて頂けると私めといたしましては物凄く嬉しいのですが……」 


 と言うか言ってもらっては俺がめちゃくちゃ困る。

 俺の人生がかかっているんだよ……!

 ついでに母さんの世界最恐の説教とな!!


 母さんはカレンが子猫に見えてしまうほど怒ったら怖い。

 あの親父でさえ怒られているときは借りてきた猫よりも大人しくなるくらいだからな。

 あ、勿論俺も多分同じことになっていると思うぞ。

 だって母さんが怒っているときは使用人さえいなくなるからな。

 そういう風に契約書にも書いてあるし固く決められているんだ。

 その昔使用人が母さんの怒気の余波で気絶したという事件が発生してから。


 それを親父から聞いた時は『いや怖っ!? どういうことだよ……怒気の余波で気絶とか……』ってマジで意味不明だったよ。

 だって人生で初めて聞いたもん。

 はじめは嘘かと思ったけど、あの親父の地獄に落ちて絶望したような表情を見て悟ったね。

 これはガチだ……と。

 それから俺は極力母さんを怒らせないようにしていた。

 ただ今回は絶対キレてるから帰りたくない。

 だって死にたくないし。


 俺が此処にいない母さんに怯えていると、お姫様はそんな俺を見て意地悪げな笑みを引っ込めると、


「ふふっ、嘘ですよ。分かりました。同級生として一時的に見逃してあげましょう。ですが……ちゃんと帰るのですよ?」

「——はい勿論です! ありがとうございまぁぁす!!」

「……シンシア嬢……本当にコイツを見逃すのですか?」


 ブラウンが俺を睨みながらお姫様に言う。

 これは俺を突き出したいのだろうか?

 絶対そうだよな?

 だってアイツ俺にしか見えないところで笑みを浮かべてるもん!

 コイツ脳筋のくせに性格悪いとかダメじゃないか!

 精神のトレーニングがなってないぞ!


「ムキムキモンスターは黙っておれ! 今お姫様は俺と話してんの! お前みたいな脳筋はお呼びじゃないんだよ!」

「お前見逃してもらえると決まった途端にウザくなるのやめろ!! それにさっきからムキムキモンスター五月蝿いわ! 俺は騎士団の中ではそこまで筋肉がある方ではない!」

「えええぇぇぇぇぇッッ!?!? 嘘だぁぁああ!?」


 マジかよ…………そんな馬鹿な……。

 まさかの真実を知ってしまったよ。

 まぁ正直もっと前に行って欲しかったけど。

 でもコイツよりムキムキなモンスター共が沢山いるとか……騎士団に入らなくてよかったぁ……過去の俺ナイス判断! 

 よくぞ陛下の前で自分の意見を言った!

 まぁ親父にはボコボコにされそうになってけど。

 だがあれのお陰で今の俺は…………また違う意味で苦労してますよはい。

 でも絶対に筋トレさせられる騎士団よりはマジか。

 筋トレとか無理無理。

 そんなのやってたら碌に箸すら持てなくなるわ!

 引きこもりを舐めるなよッ!


 俺とブラウンが睨み合ってあると、『ふふっ』と声がしたのでそちらを向くと、お腹を抱えて笑っているお姫様がいた。


 ……そんなに笑うことか?


 俺はブラウンと目を合わせて頷き、どちらともなくお姫様と少し離れた場所に移動し、声を潜めながら会話する。


「(おい、お前んとこの団長大丈夫か? 今のやり取りに面白いところなんてあったか?)」

「(気にするな。シンシア嬢はゲラなだけだ。ほっとけばその内治る)」

「(…………お前も大変なんだな……絶対に何回か玉座の間とかで笑っているだろ? あのお姫様)」

「(ああ……シンシア嬢にはなんかと我慢してもらいたいんだが……そのせいで怒られるのは私なんだ)」

「(まぁ国王陛下は子供に激甘だからな。俺でさえあんな事言っても怒らなかったくらいだし)」

「(だが俺は別なんだよ。いつも国王陛下にシンシア嬢が笑うのを辞めさせろと鋭い眼光で俺を見つめるんだ)」

「(…………マジで騎士団入らなくてよかったぁ……そんなの毎日されたらハゲる自信があるよ)」

「(私も最近自分の頭が気になってしょうがない……そろそろ育毛剤を検討しようか迷っているところだ)」

「――何の話をされているのですか?」

「「―――ッッ!?」」


 いつの間にか笑いから脱出していたお姫様が、これまたいつの間にか俺たちのすぐ横まで来ていた。

 

 いや気配もなく近づかれたらめちゃくちゃ怖いよ!

 お姫様は強いんだから音もなく近くに立たれたら、大抵の人なら幽霊を見たときみたく腰抜かすと俺は思うの。

 それに無駄に高等技術を使ってはいけません!

 こんな所で使わないでいいでしょうに。

 ほらムキムキモンスター(笑)もぎょっと……


「ぶふっ……」

「おい、何故笑う!! 笑うんじゃない!」


 おっとやべ、思わず笑ってしまったようだ。

 いやでもこれはしょうがないと思うの俺は。

 

「はははははっ! 悪い悪い……あまりにも顔が面白かったから……ぶふぅぅぅ……」

「だから笑うなと言っているだろうが! ――シンシア嬢も笑わないでください!」

「あははははは! ご、ごめんなさい……ふふっ……あ、あまりにもおかしな顔だったもので……ふふっ」


 とうとう俺だけじゃなくてゲラお姫も笑いだした。

 だがそれには全く文句を言わない。

 そのため俺は少し悪ノリをしてしまった。

 

「あれれぇ? 俺にはあんなに怒鳴ったのにお姫様には言わないのですかぁ?」

「……公爵閣下にお前の居場所を伝えるぞ。それが嫌なら口に気をつけろ」

「はいすいませんでしたッ!! つい楽しくなって悪ノリが過ぎましたッ!!」


 俺は迅速に頭を下げる。

 勿論90度を忘れずに。


 こうやって速攻で謝るのが許してもらう秘訣だ。

 プライドはないのかって?

 さっきも言ったがそんなのいらないし、あっても率先してゴミ箱に捨てるね。

 プライドあっても死んだら元も子もないんだよ!!


「…………はぁもういい。……シンシア嬢、そろそろ今回の調査を再開しましょう。コイツの相手は疲れました」

「そうですね。私は面白かったのでいいのですが、たしかに早く済ませてしまったほうがいいかもしれませんね」


 ……調査?


「なぁ……調査って一体なんだ? この森に調査するものなんて―――」


 ―――あったわ。

 俺めちゃくちゃ戦ったわ。

 てか絶対にそれじゃん。


「ど、どんなものを調査する予定なんだ?」

「私達はこの森にドラゴンの目撃情報があったため、私達で調査しようとなったのです」


 ………………。

 まじかよ……。


「も、もしかしてドラゴンってこいつのことですかね……?」

「―――え?」

「―――は?」


 俺が空間魔法から例の黒竜を取り出すと、2人は唖然とした声を漏らした。

 その反応を見て俺は確信してしまった。

 

 あ……これ……完全に余計なことしたパターンだな。

 えっ……あんなに頑張って倒したのに?

 ブランクの中何時間もかけて何度も怪我しながら倒しなのに?


「こ、これはどういうことですか……?」


 俺がめちゃくちゃ混乱していると、それは2人ものな時だったようで、お姫様が動揺しながらそう聞いてきた。

 俺は素直に吐く。


「えっとですね……2人も知っての通り家出したので、この洞窟で住もうと思いまして……そしたらそこにこいつがいたので何時間か掛けて倒したと言う訳ですねはい」

「そ、そうなのですか……」

「くっ……これが陛下直々に推薦された奴の力か……」


 何悔しがってんだよ。

 お前なら俺より早く勝てるだろうが。

 勿論人間だったら・・・・・・の話だが。


 だが今はそんなことどうでもいい。

 俺はどうしても聞きたいことがあるんだ。


「も、もしかして俺……めちゃくちゃ無駄で余計なことした……?」

「まぁ俺達が倒そうとしていたから……そうなるな」

「ま、まぁ2人なら絶対に勝てるのでどのみち倒されていたでしょうけど……」


 ……………………。


「…………要は、俺は戦わなくてよかったと……?」

「……ああ、そうだ……」

「は、はい、そうとも言えないこともありません……で、ですが、ほ、褒美が貰えますよ!」


 どこか気まずそうに目を逸らすブラウンと、必死に励まそうとしてくれるお姫様。

 ブラウンは俺をもっと慰めろよな。

 それに比べてお姫様はやっぱりいい人なんだなぁ……。


 ———だがそれでも、どうしても言いたいことがあるんだ。


「すぅぅぅぅぅぅ……」 

  

 俺は大きく大きく息をめい一杯吸って、あらん限りに叫ぶ。


「―――結局の所、俺必死こいてやったのに無駄だったのかよッッ!! 俺の頑張りを返せコンチクショウがあぁぁぁぁぁッッ!!」


 辺りに俺の絶叫が鳴り響いた。


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 おつかれレオン……お前は頑張った……。


 読者の皆様へ


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