第5話 野宿の始まりと騎士団到着

 途中から三人称です。

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 夜明けを告げるかのように森が木々の間の溢れ日に照らされて辺りが明るくなり、鳥や動物たちの鳴き声が響き始める。

 俺はその光と小鳥のさえずりで目を覚ました。


「…………最悪の目覚めだよコンチクショウ……」


 俺は自身の服と寝ていた所をを見てそう呟く。

 服は血でカピカピになっており、俺が寝ていた所は洞窟から少し離れた硬い地面の上だ。

 そのため体は臭いし痛い。

 俺は取り敢えず服を脱いで水魔法で水を生み出して体を綺麗に洗う。

 そしてそこから生活魔法の《クリーン》を使って体の臭いや何から何まで全てを綺麗にする。

 服にも同じようにかけて再び着る。

 そして思う。


 まだ1日も経ってないけど帰りたくなってる俺がいる。

 家で当主の仕事やってたほうが楽かもって。

 ねぇだってさ、おかしくない?

 俺さ……楽したいから家で出たの。

 それなのに何?

 初っ端からドラゴンとか考える中で最悪なパターンなんですけど。

 現実は小説より奇なりって言うけどさ、それは今じゃなくても良かったよなコンチクショウ。

 お陰でこの半年くらいと同じくらい動いたよ!

 ……はぁ……早くお婿さんに行かないとな……。


 俺は大きなため息を吐く。 

 俺の近くには既に何の痕跡もない。

 まるで何事もなかったかのように。

 まぁ全部俺がやったんだけどさ。

 

 ……取り敢えず洞窟を住めるように改造していきますかね。

 今のままだったら多分まだ血とかついてるだろうし。

 ……何で俺無給で働いてるんだろうか。

 俺は楽して生きたいだけなのに……。

 くそッ……これも全部あの頑固親父のせいだ……!

 いつか絶対痛い目に合わせてやる……!

 母さんに『親父が母さんの化粧水捨ててたよ』って言ってな!

 そして俺はそんな親父を見ながら言うんだ。

 『無様ですね乙っ!』ってなぁ!?


 親父のことを想像し、クスクスと笑う。

 きっと今の俺の顔は小悪党がよくやる表情だと思う。

 昔カレンから何度も言われたからな。

 『あんたのその笑い方雑魚に見えるから嫌いだし気持ち悪い』と真顔で。


 ちょっと酷くない?

 あそこまで言う必要ないよね?

 ってカレンに言ったら、『ならその笑みを一年間一度も出さないようにしてから出直してきなさい』とお説教を食らった。

 理不尽だ……。


 俺は若干過去のことを思い出してテンションを下げる。

 しかしいつまでもそんなこと考えていたら寝床すら出来ないので、俺は自分の快適な住処とするために洞窟へと再び足を運んだ———


「―――超くせぇぇぇぇぇぇぇぇ!! まずは換気しないといけないのかよ!? 洞窟には窓なんてないんだぞ!?

あああああああ最悪だよコンチクショウがぁぁぁぁぁ!!」

 

 あまりの臭さと今までのストレスで、思いっきり叫んでしまった。


 因みにどうやら洞窟の外にまでこの声は届いていたらしく、俺が洞窟から出てきた時に、近くで低級モンスターが耳塞いで死んでた。

 どれだけストレス溜まってたんだよ俺……と思わないこともないが、でも叫ぶのはちょっと気持ちよかった。

 定期的に苛ついたら洞窟で叫ぶことにしよう。

 

 俺は面倒な事に巻き込まれた代わりに新たなストレス発散方法を見つけた。


 ―――……割に合わねぇなぁ……クソッタレが……。





<><><>






 レオンハルトがブツブツ文句を言いながら洞窟をリフォームしていた頃、ドラゴンロード家では使用人から当主に至るまで、全ての人間があたふたしていた。

 その原因は明白である。

 レオンハルトの父、バージルは貧乏ゆすりをしながら秘書の報告を聞いていた。


「――報告は以上です」

「……まだ見つからんのか……!」


 バージルは怒り心頭と言った感じでセドリックに聞く。

 セドリックはため息を吐きながら首を縦に振る。


「未だ見つかっていません。1日目は極楽亭にいたと思われますが、その施設の従業員は来ていないの一点張りです」

「…………あそこはあのバカ息子の同級生がいたな……?」

「はい、どちらも学生時代にレオンハルト様が親しくしていた人物です」

「……はぁ……なら彼処にいたのは確実だろうな……。余計な人望がありやがってあのバカ息子が……!」


 本当なら喜ぶ所だが、こう言う時には厄介でしかない。


「あんな引き篭もりニートのどこがいいんだ……? それにあんな癖して強いのが腹立つ」

「確かに強さだけで言えばですけどね……」


 2人してレオンハルトの無鉄砲さにため息を吐く。

 そんな2人の元に1人の衛兵が慌ただしく入ってきた。


「———公爵閣下! 大変なことが起こりました!」

「……‥…なんだ?」


 先程から怒っていたため少し疲れたバージルは少し気怠げに聞いた。

 しかし次の瞬間にその表情と態度を変えることとなる。


「じ、実はこの街に既に騎士団が来まして……」

「「何ぃ!?」」


 バージルとセドリックは突然大声を上げる。

 しかしそれもしょうがないことだろう。

 実は———


「セドリック!! 騎士団が来るのは1週間後のはずじゃないのか!?」

「そ、のはずなのですが……」


 バージルがセドリックに聞くと、セドリックは困惑気味にそう答える。

 その返答に頭を抱えるバージル。

 なぜそこまで公爵ともあろうものがキョドッているかと言うと……


「最悪だ……あのバカ息子ばかりに気を取られていたせいで全く準備していない……今回は王女殿下も来ると言うのに……」


 これに尽きる。

 今の騎士団の団長はシンシアと言い、この国の元第3王女である。

 一般的には第3王女ならば政略結婚で他国に嫁ぐのだが、彼女には戦闘の天才だった。

 僅か18歳にも関わらずこの国最強の騎士団を率いる団長となっているのが何よりの証拠だ。

 そんな彼女が来るのに何もしていないとなれば国王が何を言うか……。


「あの親バカ国王のことだ……粗末をしたら絶対に許さないだろうな……。——くそッ……あのバカ息子のせいで……。絶対に痛い目見せてやるぞレオンハルトッッ!!」


 奇しくも親子揃って考えていることは同じだった。

 もしそれを言ったらお互いは絶対に否定するだろうが。


 バージルは頭をかきむしりながら『あのクソバカ息子めぇぇぇぇ!!』と近くのソファーに当たって、その数時間後にレオンハルトの母でありバージルの妻である、フィオナにブチギレられた。

 この家の序列がはっきりと分かる出来事だった。






<><><>





 時間は少し戻ってバージルがキレる数時間前。

 ドラゴンロード領に男女2人の鎧を纏った者が馬に乗って向かっていた。


「団長、もうすぐドラゴンロード領です」


 がっしりとしたムキムキの体育会系イケメンが自身よりも何十cmも低い少女に言う。


 彼の名はブラウン。

 ボーデン王国の騎士団である『一騎当千』の副団長である。

 『一騎当千』は、この国にある5つの騎士団で最強を誇っている名前の通り一騎当千の者たちが集まった騎士団であり、彼はそんな団の副団長に任命されるほどの強さを持っている。

 しかしそんな彼が敬語を使う相手は、まだまだその顔には少女っぽさが抜けきれていない美少女だ。

 普通は逆ではと誰しもが思うだろうが、彼女は若くしてこの化け物集団の団長へとなった。


 彼女の名前はシンシア。

 この国の元第3王女であり、現一騎当千団長である。


「分かっているわ。———それで、今回の仕事は? 私はおかしなことを聞いているのだけれど」

「はい、それで間違いないかと。今回はドラゴンロード領のはずれにある森に黒龍が出たとの情報があるため、調査に向かいます」

「……そう……。ねぇ、もう演技辞めていいかしら?」


 シンシアはブラウンの方を向いてそう問う。

 それにブラウンは笑顔で頷くと、先程とは一変して2人の雰囲気が変わった。


「はぁ……あの口調は疲れます。どうしてあの傲慢そうな口調にしないといけないのですか?」

「我慢してくださいよシンシア嬢。あんたはこの団の団長なんですから。舐められたら終わりですよ」

「今は舐められる相手もいませんよ? それにブラウンさんもいつも通りの口調でいいですよ?」

「はっはっはっ、それは無理ですなシンシア嬢。そんなことをしては陛下にキレられてしまいます。陛下の前であんなことができるのはドラゴンロード家の長男くらいでしょう」


 ブラウンは馬に乗って豪快に笑いながらそう言う。

 それに対してシンシアは苦笑い。


「まぁ彼は確かに特異かもしれませんね……。お父様の前であの様な言葉が吐けるのは彼だけでしょうし」


 シンシアがそう言って思い出すのはほんの数ヶ月前のこと。

 彼はシンシアと同じく卒業と同時に一騎当千に陛下自ら勧誘されていた。

 それにシンシアは首を縦に振ったが、レオンハルトは横に振った。


 その時に理由を国王が聞くとレオンハルトはたくさんの貴族がいる前で、


『私は騎士団では働きません。普通に面倒なので。後将来は楽して自由に生きたいですね。なのでその夢には騎士団入団は邪魔なのです』


 言葉は敬語ながら結構舐めたことを抜かしていた。

 その返答には流石にその場にいた全員が驚いてしまう。

 勿論それはドラゴンロード公爵も同様で、その後にレオンハルトにキレ散らかしていた。

 まぁその時に乱闘騒ぎになりそうだったのは一部の貴族だけの内緒だ。


「———レオンハルトさんに会えるでしょうか?」

「さぁ、勘当されていなければいるでしょうな。だがあの時は面白かった! いつも冷静な公爵閣下があの時ばかりは大暴れしていたからな!」

「ふふっ、確かにあの時は修羅場でしたね」


 2人は笑いながら進む。

 その数時間後に2人はレオンハルトが家出したことを知り更に驚くこととなるが、そんなことを2人が知る由もなかった。



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