第3話 宿を追い出されました
残念ながらハンナの抱擁から解放されてしまった俺は、渋々下に降りる。
ハンナが言うには既に朝食が完成しているらしい。
正直永遠にあの天国に顔を
はぁ……非常に残念だよ、カレン君。
君は素晴らしい人だと思っていたのに。
とか心の中で思っていたら、顔面にパンチが飛んできていた。
俺は優秀なので華麗に避けたら壁に後頭部を強打。
俺が痛みにのたうち回っている間に2人は下に降りてしまった。
下に降りるとパンの焼ける良い匂いがしてくる。
あんだけ下に降りたくないとか言った身であるが、普通にここの朝食は楽しみなのである。
特にクロワッサン。
この店のクロワッサンは、ここにきた冒険者達が店を出してくれと懇願するほどの美味さだ。
今もバターのいい匂いがしている。
「あら、やっと降りてきたのね。痛みから解放されたの?」
「お前のせいで天国からも解放されてしまったがな」
俺は話しかけてきたカレンにジト目で言う。
「あれはレオンが悪いわ。ハンナは
「いやカレンも看板娘じゃん。多少怒りっぽいがハンナに負けず劣らずの美少女が何を言っているのかね……」
「うぇっ!? ど、どうしたのよいきなり……」
カレンは顔を真っ赤にしてツインテールの髪をくるくる指でいじる。
何をそんなに恥ずかしがっているのかね?
「いやお前が美少女なのは周知の事実じゃん。なぁお前ら!」
俺は朝からビールを飲んでいる暇人冒険者たちに問いかける。
するとみんな口々に声を上げる。
「カレンちゃんは中々お目にかかれないほどの美人さんだ! 数多の街を回った俺が証明しようじゃないか!」
「確かにカレンちゃんは怒りっぽいがそこがいい! と言うかお前はずっとここに居座ってるじゃないか!」
「そうだそうだ! それに目当てはカレンちゃんだろうが!」
「なっ!? お前たち、それはバラさないお約束では!?」
「知らん!」
「同じく!」
「ひでぇ奴らだなオイ!」
「「お前もだろうがよ!」」
「「「ガハハハハ!!」」」
「……な? 言った通りだろ?」
俺は更に顔を真っ赤にして恥ずかしがっているカレンに言う。
まぁカレンは恥ずかしがっている顔が1番可愛いんだが。
今だって一階にいるほぼ全ての冒険者たちがカレン見てるし。
「も、もう分かったから……! これ以上はやめて……!」
カレンは手で顔を隠しながら俺に抗議してくる。
そう言うところが可愛いとさっき言ったばっかりじゃないか。
まぁこれ以上言ったらそろそろ金的攻撃が来そうだからやめとこ。
それに今ので今日の俺のコミュニケーション値をほぼ全て使ったから今日は引きこもるとしようかな。
「それで……何食べるの?」
照れから復活した……いやまだ少し照れが残っているカレンが聞いてきた。
なので俺はキメ顔で、
「……クロワッサンだ……!(会心のイケボ)」
「ハンナ! レオンはクロワッサン要らないらしいわよ!」
「何でそうなるの!? 俺今確かにいるって言ったよね!? めちゃくちゃかっこよく!」
「それが腹立つのよ。無駄にかっこいいんだから。それと褒められたいならニートと引き篭もりやめてから出直してきなさい」
「いや少し棘があり過ぎませんか!?」
俺がそう言っても『ふんっ!』と鼻を鳴らしてハンナの所に行ってしまった。
いやせめて答えてくれよ……と思わないこともないが、やっぱりいじり過ぎたのかもしれん。
俺は諦めてぐだぁーーとしながら朝食が来るのを待つ。
朝なのにもう沢山の冒険者が朝食を食べながら騒いでいる。
冒険者は引き篭もりとは正反対の職業だからなぁ……。
おっと、引き篭もりが職業じゃないとか言うなよ?
俺にとっては大事な職業なんだ。
まぁ家がないから働いていないのも同じだが。
俺がそんなことを考えているとハンナが朝食を持ってこっちに向かってきた。
「レオンさーん、クロワッサン持ってきましたよー!」
「でかしたハンナちゃん! さすがこの宿の看板娘だ、何処かの暴力女とは違うなぁ……」
「あ、あはは……そう言ってくださるのは嬉しいのですが……後ろを何とかしないと食べれませんよ?」
「え? ………………や、やぁ、さっきぶりだな……」
後ろにはドラゴンのス◯ンドを出しているカレンが俺に笑いかけていた。
「誰が暴力女だって? ん?」
「そう言ったことをやるから暴力女だって言われ―――ぎゃあああ! やめて下さい! ヘッドロックはいけないのですよっ! 息が……」
「なら余計なことを言わなければいいのよ」
「その通りでございますねはい! ごめんなさいカレンさんっ!」
「ふんっ! 次行ったら許さないからね」
「………………うっす」
俺は深呼吸をする。
あー、空気が美味しいー。
カレンめ……お遊びが過ぎるよな全く。
そんなことを思っていたら物凄い速度でコチラを向いて睨んできた。
俺は何もしていないことを証明するために身振り手振りで表現する。
するとため息を吐かれてまた何処かに消えてしまった。
いやあの距離で分かるとか絶対魔法使ってるよな。
なんてことは取り敢えず頭の片隅に置いておいてクロワッサンを食べる。
バターの香りが鼻を抜け、食欲をそそる。
俺はクロワッサンにかぶりつく。
外はパリパリ、中はふわふわでめちゃくちゃ美味い。
思わず顔がニヤけてしまう。
「やっぱりここのクロワッサンは美味いなぁ……出来れば毎日食べたいよ」
あっという間に5個全部食べてしまった。
後最低でも5個はいけるな。
それと100個くらいお持ち帰りしたい。
空間魔法で全部入れれるからいつでも食べれるようにね。
俺は食べ終わったので部屋に戻り、荷物を整理する。
まぁ荷物と言っても昨日脱いだ服くらいしかないのですぐに終わるのだが。
よし、それじゃあ今日分のお金も払っておこうかな。
どうせいく場所なんて無いんだし。
金が無くなるまではここに泊まるのもいいな。
毎日クロワッサン食べれるし。
そんなことを考えながら受付の所に行くと、ハンナの母親とカレンの母親がいた。
この店はハンナとカレンの2家族で経営している。
俺は2人に話しかける。
「えっと……ハンナちゃんのお母様にカレンママ、今いいかな?」
「ええいいわよ。丁度レオンに話したいことがあったからね」
どうやらハンナちゃんのお母様――もう面倒だからお母様でいいか――も俺に用事があったようだ。
「ねぇねぇレオンちゃん、うちのカレンにさっき何かした? あの子ったらとても顔を赤くして照れてたのよ」
カレンママがニコニコしながら俺に聞いてくる。
「ああ、あれは俺のせいですね。まぁ、俺のコミュ力が有ればカレンを照れさせることくらい余裕ですよ!」
「貴方コミュ力ないでしょうが。それにカレンちゃんはチョロすぎなのよ」
「「それはよく分かる」」
俺とカレンママで思わずハモってしまった。
でも事実だから仕方ないと思う。
「それで俺への用事ってなんなんですか? 俺は早くお金払って部屋でゴロゴロしていたいのですが……」
「あ、そうそう、用事があったのよ」
いや忘れるなよ、とツッコミたくなるが、流石に他人の母親へそんなことが出来るほどのコミュ力が俺にはないのでスルーする。
「レオンには悪いけど、これからここにくるの禁止ね」
「…………………は? えっ、何故に?」
いやいきなりそれはないでしょうが。
ここから出て行けなんて言われたら帰る場所ないじゃないですか。
「貴方のお父さんとお母さんに言われたのよねぇ……。私たちは貴族じゃないから逆らえないしー」
「おおぅ、sitッッ!!」
まさかこんなに早く動くとは思っていなかったな。
これはマジでやばい。
主に俺の生命がね。
「は、ハンナお母様! 何とか―――」
「無理ね。諦めて帰りなさい」
「いや即答!? あっ……すいません……」
「いいのよ別に。貴方はこんなでもお貴族様なんだから」
こんなの言うなよな。
確かに俺は良くも悪くも貴族っぽくないって言われるけどさ。
勿論家族に。
だって友達なんて片手で数えるほどしかいないし。
だがこれは参ったな……まさかもうこんなに手を回すとは思っていなかったぞ。
しかしここに残ったら2人に迷惑かけるしなぁ……。
「分かりました。それでは取り敢えずここから出ていくことにします」
「帰りなよ~」
「お家が1番ですからねぇ~」
2人のママがそんなことを言って見送ってくれたが、
「家には帰りません! 何としても働かなくていいように誰かのお婿さんにしてもらうんです!」
俺はそれだけ言って宿を後にした。
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「あの子大丈夫かね……お婿さんなんて……」
「まぁ大丈夫なんじゃないかなぁ~。ほら、後少しで王国最強の騎士団の人が来てくれるじゃない?」
「ああ、元王女様のね。あそこにレオンを好きになってくれる人がいればいいのだけれど……」
「もしレオンちゃんが平民だったらカレンとハンナのお婿さんにしてあげたのにねぇ……」
「まぁそこはしょうがないとしか言えないわね。それにレオンなら大丈夫でしょ。ああ見えてめちゃくちゃ優秀だし」
「それもそうねぇ~。よし、なら早く戻りましょ~! 受付開けたままだわぁ」
2人はレオンのちゃんとした姿も知っているため、大丈夫だろうと考え、2人は仲良く戻って行った。
戻ったらハンナとカレンにめちゃくちゃ怒られたのは言うまでもない。
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