第2話 怠惰な君に地獄と天国を

 次の日の朝。


「おっはよーございますっ! レオンさん! 起こしに来まし———って起きてます!?」

「何よハンナ、騒がしいわね。ほら、レオンはさっさと起き———てる!?」


 ハンナちゃんとカレンが約束通り俺を起こしに来たらしい。

 そして俺の起きている姿を見て驚いている。


 失敬な、俺はもう大人になったんだから1人で起きられるんだぞ。

 と言いたいところだが今回は違う。


「や、やぁ、おはようハンナ、カレン……」


 俺は2人に向かって手を振る。


「きゃああああああ!! レオンさんの顔が死んでいますぅぅぅぅ!! それに私のことをちゃん呼びしません!」

「ど、どうしたのよレオン! 今まで1度もハンナをちゃん呼びしなかったことなんてなかったのに! 一体夜の間に何があったの!?」


 そんな俺の顔見て叫ばなくてもいいのにな。

 たかが頬が痩せこけて目の下にはクマがあり、皺が出てきたくらいで大袈裟だよ……。

 それに俺がハンナをちゃん付けしてないのがそんなに驚くことかな?

 

「ま、まぁ最悪なことが起きたんだよ……」


 そう、あれば昨日の夜のことだ———







~~~

(昨日の夜)






 俺は真っ暗な暗闇の中呟く。


「全然寝れない……」


 今俺のお目々はぱっちり開いており、眠気? なにそれ美味しいの? みたいな状態に陥っている。

 理由はちゃんと分かっているんだ。


『私とカレンちゃんとで起こすね!』


 これだ。この言葉で俺は寝れないんだ。

 普通なら2人の美少女に起こしてもらえるなんてウハウハな出来事のはずだもんな。


 俺も初めての時はそう思っていたんだよ。

 でも現実は非道だった……。


 ———……ちょっと回想に入らせてね。



 あれは学園で2人と仲良くなって1年が経とうとしていた時だった。

 すっかり仲良くなった俺たちは、他の親友達とも一緒にある時のクエストで野宿をすることになったんだ。

 勿論俺は大反対した。


 だって野宿ってめちゃくちゃ背中痛いんだもん。

 それに虫は沢山来るしモンスターが襲ってくるかもと思ったらちゃんと寝ることもできない。

 

 まさしく俺への最大級の嫌がらせだよ。

 引き篭もりに外で寝ろと言うのがまず間違いなんだ。

 勿論めちゃくちゃ抗議もした。


『ねぇ、俺はここで寝たくないんだけど!』

『はぁああ? 何? 文句があるわけ?』

『あるから言ってんじゃん!』

『文句なんて受け付けないわよ。とっとと準備する!』

『はい……』


 ……うん、改めて思い出すと全然抗議になってないな。

 めちゃくちゃ言いくるめられてるじゃん俺。

 ま、まぁそこはおいておこう。


 それで色々と面倒なことをしてやっと寝れる様になったんだ。

 

『はぁ……やっと寝られるわね……』

『夜中は強力な結界魔道具を使うから問題ないよ!』

『それ誰のなの? ハンナ?』

『ううん、違うよ。勿論レオンさんのだよ!』

『何で———ああ、虫除けと安眠のためね』

『レオンさんのお陰ですね! ありがとうございます、レオンさ——って寝てる!?』

『……相変わらず寝るのが早過ぎるわ。大して働いてもないのに。こうなったら明日はキツめに起こしてやるわ』


 俺が覚えているのはここまでだ。


 そして朝。

 俺はたまたま早く起きていたんだよ。

 でもやっぱりカレンは怒りっぽくても美少女。

 男としては起こしてもらいたいじゃないか。

 だから寝たふりしてたんだよ。

 そしたら遂にカレンが俺を起こしにきた。


『レオン、起きなさい! そしてこれは昨日殆ど何もしなかった罰よ! キャッ!?』


 そう言ってあの馬鹿は、あろうことか滑って俺の息子に踵落としを喰らわせやがったんだ。

 どうやったら滑って俺の息子に踵落としを喰らわせれるんだよ。奇跡か。無駄だな!

 まぁそんなわけで男の命と言ってもいい所に直撃した俺はあまりの痛さに泣き叫んでしまった。

 もうみっともないとか知るかってレベルで。


『ぎぃぃぃぃぃや”や”や”や”や”や”や”ぁぁぁぁぁぁぁ!! いだだだだだだだ!!』

『ご、ごごごめんなさいぃぃぃぃぃ!! こんなつもりじゃなかったの!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……』 


 俺もヤバかったけど、カレンもこんなことにはなると思っていなかったのだろう。

 めちゃくちゃ取り乱して謝り倒していた。


 結局あの後もしものために持ってきていた高級回復ポーションを使って何とかなったが、一時期は夜も眠れず、カレンが近づいたら発作を起こすほど酷かった。

 まぁ2ヶ月もすれば特に気にならなくなったけど。

 そのトラウマが今日のあの言葉で蘇ったと言うわけだ。


 しかしまだそれだけなら良かった。

 そう、これだけなら何とかなったんだよ。

 問題は次に起こったことだった。

 

 俺は何とか色々と手段を使って気分を落ち着かせて寝たんだ。

 しかし問題は夢の中だった。


『おい馬鹿息子、お前には当主をしてもらう。そして一緒に秘書もしてもらおうか。後は結婚相手は私が決めた。お相手はブスリーナだ。今から行くとしよう』

『はははは! お兄様、良かったですねぇ! 僕はお兄様に変わってダラダラ過ごさせてもらいます』

『お兄ちゃん! 私がお兄ちゃんの身の回りの事をしてあげますからね? そう、#何もかも__・__#……。ふふっ、お兄ちゃんは私の物……。婚約者? 殺してお兄ちゃんと一緒に食べます』



「ヒィィィィィィィィヤァああああああああ!!?? はぁはぁはぁはぁはぁ!! ヒィィィィィ……」


 俺は全身に水を被ったかのような汗をかきながら飛び起きる。

 さ、最悪な……この世の地獄を詰め込んだ様な悪夢だった……。


 因みにブスリーナとは、顔もブサイクなのだが、それだけならまだいいんだ。

 でも性格もブサイク。

 金は無駄に使うわ、暴力は働くわ、文句は言いまくるわで、貴族の中でも1番嫌われている。


 まぁそりゃそうだわな。顔はしょうがないとしても性格まで最悪だったら誰も好きにならんわな。

 ……ん? 

 わりかし俺にも当てはまる気が……ないか。

 ないと思うことにしておこう。

 しかしそんな存在ブスな奴と結婚? 無理無理無理。

 当主と秘書を兼任? もっと無理無理無理。


 それに何故が妹がヤンデレ化している件について。

 うーむ……確かにたまに束縛強いなとは思っていたが……まさかそんな事ないよね?

 今度会うときは注意しておこう。

 それに最後の食べるってなんだよ。怖すぎだろ。

 夢の中で1番怖かったぞ。


 そんな感じで寝ても悪夢、起きたらひたすらにそうならないために色々と頭を使うと言うのを繰り返していたら気付けば朝でした。


「ああ……神よ……この世界は俺の敵しか居ないのでしょうか……」

「カ、カレン! レオンさんが壊れましたっ! ど、どどうしましょう!?」

「ちょっと待ちなさい! 今考えているんだから。……よし。ハンナ、レオンに抱きつきなさい」

「え? 私がですか? わ、分かりました。何故だかよく分からないけど……」


 ハンナはゆっくりと躊躇いがちに俺を包む様に抱きついてきた。

 俺の顔はハンナの豊満な胸にダイブ。

 ツルツルすべすべの腕が俺の体を包み込む。

 頭の上にはハンナの吐息がかかり暖かい。


「大丈夫ですよ……。ここにはあなたの味方である私とカレンがいます。レオンさんは安心してお休みください」


「あっ……」


 俺の心は一瞬で浄化された。

 むしろ元気がオーバーヒートしそうだ。

 主に3大欲求の1つが。


 ハンナの後ろに少し離れて立っているカレンは、俺と目が合うと俺にサムズアップしてきた。


 うむ、よくやったぞカレン。

 今人生で一番幸せな時間だ。


 俺はカレンにお礼も込めてサムズアップをし返す。


 そのあと結局十数分の間、ハンナに抱きしめてもらった。

 大変素晴らしかったです。

 朝から地獄と天国を見た気分でした。


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