結婚しよう
第1話 学生時代の思い出の場所に行こう
「……さて、家を出たのは良いがこれからどうしようか」
俺は街の広場のベンチに腰掛け、先程屋台で買った串焼きを食べながら考える。
正直今後どうするか全く考えていなかった。
まだ1人も俺を養ってくれそうなお嫁さん候補は居ないし、更には寝床となる宿泊施設の部屋も決めていない。
要するに何もしていないということだ。
いやこれはしょうがないんだよ。
物凄い深い訳があってだな……。
ほ、ほら俺って引きこもりだからコミュニケーション能力ゴミなわけよ。
だからまともに話せるのはコミュ強の我が
あとは知り合いの冒険者くらいか。
そんな俺に初対面の人と話せると思うか? 無理だよ普通に!
じゃあ何で婿さんになろうと言ったのかって?
そんなの養ってもらいたい一心だよ!
ま、まぁ今はお嫁さんのことは置いておこう。
取り敢えず泊まる所を探さないとな。
うん、そうしないとニートは死んでしまうからな。
取り敢えず今日の寝泊まりについてどうにかしよう。
今の時間は午後8時。
まだまだ全然夜とは言えないくらいの時間だが、これくらいになると人が増えてくるので急ぐことにしよう。
俺はベンチから立ち上がり、とある場所に向かった。
~~~
俺が串焼きを買い直して向かったのは、街の中心部にある『極楽亭』と呼ばれる冒険者御用達の宿だ。
ここは俺が学生の時に——と言ってもほんの数ヶ月前のことなのだが——よく親友達と寝泊まりしていた場所で、親しみ深いところでもある。
俺は入り口の前で残りの串焼きを全部食べてから扉を開ける。
中には何人もの武器を持った冒険者達が酒を飲んだりしていた。
俺はその中から見知った人物を見つけたため、大声で呼ぶ。
「ハンナちゃァァァん! 俺が来たぞぉぉぉ!!」
「あ、レオンさん! お久しぶりで——」
「五月蝿いわよ馬鹿レオン!」
「いだっ!?」
この店の看板娘であり学生時代の親友の1人であるハンナちゃんが俺に気付いて近づいてきてくれたのだが、その前に後ろから誰かに叩かれた。
俺は頭を押さえて振り返りながら文句を言う。
「ちょっと! いきなりぶっ叩くのはなしだと思うの、お兄さんは!」
「あんたが大声出すからでしょうが!」
「だってハンナちゃんに会えて嬉しかったんだもん!」
「えっ? そ、そうなんですか、レオンさん?」
「もち———ぐはっ!?」
「だから五月蝿い! ハンナも今は黙ってて! それに私には会いたくなかったわけ!?」
そう言って俺を殴りながら怒るのは、ハンナと同じくこの宿の看板娘兼親友のカレン。
天使の様なハンナとは正反対で、うるさくて怒りっぽい。
全く同じ環境で育ったのにどうしてこんなにも変わってしまったのか……って、痛い痛い!
「カレン! 何で耳を引っ張るのさ!」
「レオン……絶対失礼なことを考えていたでしょう?」
「…………」
いや何で分かるんだよ。
もしかしてエスパーでも使っていますか?
なんて言う疑問は置いておいて本題に入る。
俺は受付の机に1日分のお金を置く。
「じ、じゃあハンナとカレン、ここで一泊したいんだけどいいかな?」
「勿論ですよ、レオンさん!」
笑顔で言ってくるハンナ。
その笑顔と言ったら……可愛いすぎる。
うん、ハンナは俺のお嫁さん候補に入れるとしよう。
「まぁ客なら仕方ないわね。泊まることを許可するわ」
何で仕方がないなみたいな顔をしているんだよ。
俺は客だぞ。別に物を壊したり出禁になったりしてないんだから許可は要らんだろうが。
これだから天使と悪魔って常連に言われるん———
「だから痛いって! 何で何回も耳を引っ張るのさ! 俺何もしてないぞ!?」
「ふんっ! どうせ私に聞かれたらまずいことを心の中で言っていたんでしょ!」
……もうカレンの前で悪口を考えるのはやめよう……。
そう心に決めた。
周りの冒険者達も俺と思っていることは同じようで、しきりに頷いている。
ああ……あんた達も同じ目に遭ったんだな……。カレンの耳引っ張りは痛いよな。
俺が他の客と心を通わせていたら、先程まで何処かに消えていたハンナが近づいてきた。
「レオンさん! 部屋の準備ができたのでご案内します!」
「おお、ありがとうハンナちゃん!」
俺はハンナちゃんに連れられて部屋に行く。
「ここがレオンさんのお部屋です! どうしますか? 学生の時みたいに起こしてあげましょうか?」
「是非お願いしま——ひッッッ!?」
俺は背中に悪寒が走り振り返るとこちらに向かってカレンが歩いてきていた。
「あんたまた起こしてもらおうとしているの……? 大人にもなって……?」
「も、勿論1人で起きられます! ハンナちゃん、やっぱり辞めとくよ!」
「むぅ……久しぶりに起こしたいと思ったのに……」
「くっ……で、でも……」
天使ハンナのふくれっ面に苦虫を噛み潰したような表情になるカレン。
おっ? これはもしかして押したらいける奴ですか?
よし、加勢しよう!
「ほ、ほら、ハンナちゃんもそう言ってくれているんだから……」
「あんたは取り敢えず黙ってなさい」
「えぇぇぇぇ……」
何で俺にはそんなに当たり強いのさ……。
俺が落ち込んでいる間に2人はボソボソと話し合いをしていた。
終始ハンナちゃんのふくれっ面にたじたじなカレンだったが、途中からハンナもニコニコし出す。
そして2人の話し合いが終わったのか、こちらを向いてきた。
ハンナはニコニコしており、カレンはしてやったりみたいな表情をしている。
「レオンさん!」
「な、何だねハンナちゃん」
「2人で話し合って決めたのですが、明日は2人で起こしてあげることにします!」
「すいませんやっぱり大丈夫ですと言うか俺はもう大人なので1人で起きれるのです!!」
俺は即座に断る。
いやダメだよそれは。
そんなことしたら起きるんじゃなくて永眠に入ってしまうよ。
学生の時に一度カレンに起こしてもらったのだが、うん、もう2度と起こしてもらいたくないと思ったね。
「ちょっと! 何で私が入ったらそんなにすぐに断るのよ!」
「いやカレン、自分がしたこと覚えてないのか!?」
「そ、それは……」
カレンはふいっと目を逸らす。
「おい、お前絶対分かってるだろ」
「い、いやあれは仕方がなかったのよ!」
「あれが仕方がなかったら俺の命は一体幾つあったら足りるんだ!」
「う、五月蝿いわね! 兎に角2人で起こしにくるからそれが嫌なら早く起きてなさい!」
そう言ってカレンはハンナちゃんを連れて何処かに行ってしまった。
そのため俺は1人取り残されてしまった。
「…………よし、取り敢えず早く寝るか……」
俺は部屋に入って風呂に入り、ベッドに寝転ぶ。
そして今日1日を振り返る。
「はぁ……俺が生きていた中で1番刺激的な日だったな……」
当主になれだ、秘書になれだ言われたことから始まった。
まぁ半分ノリで婿として結婚してくれる嫁さん探しに出たが……。
これからどうしようかな……。
金も無限じゃないし。
でも働きたくはないから減る一方だ。
早くお嫁さんを見つけないと。
よし、明日ハンナちゃんにダメ元で聞いてみるか!
俺は明日やることを決めて眠りについた。
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読者の皆様へ
面白かったと思ってくださった人は、☆☆☆→★★★にしてくださると嬉しいです。
人気が出れば続けます。
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