第37話 食べ物が生る木と銀華

『レイラ、起きなさい! もうっ、いつまで寝てるの?』

『おーい、生きてるかー?』

『大丈夫〜?』

「うぅ……なに、?」


 寝ぼけながら体を起き上がらせて目を開くと、目の前にはカラフルな精霊たちがいた。そういえば、精霊界にいたんだった。


「ごめん、ぐっすり寝てたみたい」

『もう、大丈夫? 遊べる?』

「うん。大丈夫だよ。今度は百味山だったよね」

『そうだよ〜。僕はここが大好きなの〜』

「ここには何があるの?」


 ベッドから降りて外に出て辺りを見回すと、いろんな色合いの植物がたくさん生えていて、更にそこに生っている実が……何故かスイーツだった。

 いや、スイーツ以外もある。串焼きとかパンとか……


『ここは下界の食べ物がたくさん生る森なんだよ〜』


 不思議だ……精霊界、不思議すぎる。どういう原理なのか全く分からないけど、考えないほうが良いんだろうな。


『せっかく来たんだから、たくさん食べましょうか』

『そうだな! 俺はしょっぱいやつがいいぜ』

『僕は甘いもの〜』


 私はどれにしようかな……あっ、クッキーがたくさん生ってる! 持ち帰ったらフェリスが喜ぶよね。

 こっちの串焼きはヴァレリアさんかな……このステーキはノエルさんが喜ぶかも。ノエルさんって意外と重いお肉が好きなんだよね。


 そんなことを考えながら皆のお土産を考えてたくさんの食べ物を採取し、それから自分が食べたいものをいくつか選んだ。


 私は甘くて美味しそうなクレープとハンバーグのサンドパン、それから果物がたくさん入ったしっかり目のパンだ。さらに飲み物もフルーツジュースをいくつか手に入れておいた。


 ちなみに飲み物やスープなどは、果物の皮……みたいなやつに入っている。


『レイラ〜何を選んだ?』

「私はこれだよ」


 鞄を開いて中を見せると、ランセは頬を赤くして嬉しそうに笑ってくれた。


『いっぱいだね! 僕はね、ケーキとクッキーとクレープと〜』


 ランセはたくさんの採取したデザートを、氷魔法で作った箱から取り出して見せてくれた。


 それからアンシュとロデアも十分に採取を終えたところで、私たちは最後の目的地である銀華の丘に向かうことになった。丘はここから数時間で着くらしい。


 完全に慣れてきた氷の球体による高速移動を終えて降り立ったのは、一面に銀色に輝く花が咲いている花畑だ。


「うわぁ……綺麗だね。ここ、凄く好きかも」

『ふふっ、そうでしょう? 私のお気に入りの場所なのよ』

『確かに綺麗だな!』

『甘いものを食べるのにぴったりだね〜』


 皆で花畑の中心に向かって腰を下ろし、さっそく採取してきたものを食べることになった。まずはハンバーグのサンドパンからだ。


 いつも食べてるものと味が違ったらどうしようと緊張しつつ小さめに食べてみると、口の中に広がったのはガツンとくる肉の旨味だ。そしてそのすぐ後に、芳醇な香りと甘めなソースを感じることができる。


 美味しくないどころか、今まで食べてきたハンバーグサンドの中で一番美味しいかも。


「美味しい」


 素直にその言葉が溢れると、ランセが嬉しそうに微笑んで私の目の前にふわっと浮いた。


『美味しい?』

「うん、すっごく。あの森は凄いね」

『でしょ〜。僕はあそこが大好きなんだ』


 ランセはそう言いつつ、両手で抱え持ったケーキにぱくっとかぶりついた。なんだかランセって少しだけフェリスと似てる部分があるよね。フェリス、元気にしてるかな。


『レイラ、今食べてるものは下界の食べ物と比べてどうなの?』

『ちょっと味が違ったりするのか?』

「うーん、全く同じだと思う。というよりも、下界にあるものの中でも上位に位置するほどに美味しいよ」


 アンシュとロデアの言葉にそう返すと、二人は興味深そうに瞳を輝かせた。


『そうなんだな!』

『下界にも百味山があるの?』

「ううん、あんなに凄い山はないよ。そもそも下界では、こういう完成された料理は木から採れないからね」

『……え、じゃあどうやって手に入れるの?』


 料理をするという発想がない精霊三人に、思わず苦笑を浮かべてしまう。まあ、木に生ってる料理がある場所でずっと育ってきたなら、料理のことなんて知りようがないよね。


 そう考えると、フェリスって精霊にしては下界に関する知識が豊富だったな。私と出会った時からたくさんの知識を持ってたから、もしかしたらフェリスはかなり歳を重ねた精霊なのかもしれない。


 そんなことを考えながら、下界での料理に関する説明をするために、手に持つハンバーグサンドを皆の前に掲げて見せた。

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