第36話 不思議な川

 着陸の衝撃がなくなってから恐る恐る目を開けると……そこは森の中だった。しかし全ての木が空のような鮮やかな水色で、私の目には不思議に映る森だ。


『レイラ〜着いたよ〜』

『開けるわね』

『ここが白水の川だ!』


 球体から地面に降り立つと、ここの地面は茶色で比較的普通に近いものだった。ふわふわして歩きにくい地面じゃないことに安堵しつつ目の前に視線を向けると、そこには真っ白な水が流れる綺麗な川がある。


『ここで遊ぶぞー!』

『遊ぼ〜』

「ここはどういう場所なの?」

『うーん、楽しい場所だぜ!』


 ロデアの返答に思わず苦笑が浮かんでしまう。要するに、分からないってことだね。


「何して遊ぶ?」


 難しいことは考えずに遊び兼休憩を満喫しようと思ってそう聞くと、ロデアが『白水アート選手権!』と叫んだ。


 どういう遊びかを聞いてみると、この白水は衝撃を受けると一時的に固まる水らしく、その固まってる時間内にお洒落なものを作ることができた人が勝ちなんだそうだ。


「面白い水なんだね」


 普通に触れてみるとただのサラサラと流れる水だけど……手のひらでバシンっと叩いてみると、確かにゴムのようなものを叩いたような感触に変わった。


「どのぐらいの時間固まってるの?」

『形を保つのは三十秒ぐらいだな。崩れそうになったらまた叩けば時間は延長できる。じゃあいくぞ!』


 よく分からないけどとりあえず皆のことを見ながらやってみようと思い、ロデアの掛け声に頷いた。


 まずは白水を叩いて叩いて、固まった部分を川から引き上げる。

 うっ、これかなり難しいかも。まず叩きながら形を作るのが難しい。もたもたしていると、すぐに形が崩れてしまう。


 私が球体を一つ作るのにも苦戦していると、皆がいる場所からドガンッという衝撃音が響いて来た。そちらに視線を向けると……皆は氷魔法や土魔法、さらには風魔法を駆使して巨大な建造物を作り上げている。


 繊細な魔法発動で全方向からの衝撃を休まず与えつつ、しっかりと綺麗な形も維持しているようだ。


「……凄すぎるでしょ」


 いや、私に勝ち目なくない? 絶対に私は審査員が良かったって。


『レイラは作らないのか?』

「うっ……今作ってる!」


 何も作れないというのはさすがに悔しくて、私はひたすら白水をバシバシ殴った。作ろうと思ったのはシンプルな椅子だ。


「あっ、こっちが崩れた。――ああ! 今度はそっち!」


 それからなんとか奮闘して、私は椅子を作り上げた。しかし背もたれも手すりもない、座面だけの椅子だ。


「できたよ! 早く見て!」


 完成品が崩れる前にと三人に声をかけると、こちらに視線を向けた三人は微妙そうな表情を浮かべて私の作品をじっと見つめた。


『それは……テーブル、か?』

「椅子だよ!」

『椅子……なのね。うん、確かに見えなくもないわ』

『座れれば椅子だよね〜』


 三人のそんな感想を聞いてガッカリしたところで、私の作品はドロっと崩れて水に戻った。この遊び、あまりにも虚しすぎるよ……


「というか皆、凄すぎない?」


 皆の作品を見上げると、なんだかよく分からないお城みたいなやつとか、でかい魔物とか、大きな木とか、凄く繊細な作品が作られている。

 しかも崩れないように、現在も上手く衝撃を与え続けているようだ。


『これぐらい普通だけどな。人間って不器用なんだな?』

『本当ね。魔法は使わないの?』

「人間は普通、生活魔法ぐらいしか使えないんだよ……」


 それも個人差があるし。私は魔法が苦手で、使うことはほとんどない。


『そうだったのね。驚きだわ』

『人間は怖いって聞いてたから、俺たちの何倍も魔法が上手いのかと思ってたぜ』

『大きいのにね〜』

「皆は人間の暮らしを見ることはないの?」

『下界を見るのにも許可が必要なのよ』


 そうなんだ……人間との交流を断ってから生まれた精霊が人間の正確な情報も持ってないとなると、交流をお願いする身としてはハードルが一段階上がった気がする。


「人間は皆が思ってるよりも弱くて脆いんだよ」

『そうなんだな』

「うん。だから人間と会ったら優しくしてあげてね」

『おうっ、任せとけ!』

『分かったわ』

『優しくするよ〜』


 うぅ、皆が素直な良い子だ。この三人を見てると、仲良く交流できそうなんだけどな……


『そんな話よりレイラ、誰の作品が一番凄いか決めてくれないかしら?』

『確かにそうだな!』

『一番を決めて〜』


 皆のその言葉で話はまたゲームに戻り、私は皆の作品に視線を戻した。一番を決めてって言われても……難しいな。どれも種類が違う美しさだ。


「全員が一番じゃダメ?」

『それはダメよ』

「え〜、じゃあ、アンシュのお城かな」

『本当!? やったわ!』

「全員凄く上手いんだけどね。私の好みとすると、お城が一番目を惹くかなって」


 その言葉にアンシュは飛び上がって喜び、ロデアとランセは悔しそうな表情を浮かべた。


 そしてそれから私は審査員となり、何度も三人が凄い芸術品を作り出し、皆が満足したところで遊びは終わりとなった。


『そろそろ次に行きましょうか』

『次は百味山だね。レイラ、乗ってくれる〜?』

「うん。またよろしくね」

『任せて〜』


 次の百味山まではかなり距離があるようで、半日ほどかかるらしい。


 ということで、私は球体の中にベッドを作ってもらってそこに寝ていくことになった。飛んでいる中で寝られるかな……という心配をする暇もなく、横になるのとほぼ同時に眠りに落ちた。

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