三戸部 拓実

「ぬぁあー!!どうしよどうしよ!!」

 ……ったく、。僕は重い体を起こす。

 どうしたの?何があったの?

「うわっ!?お、驚かすなよ……。」

 男の子は飛び上がって驚く。そんなに驚くことかなぁ?

「……友達だと思ったじゃねぇか…。」

 ………ふぅ〜ん?友達に聞かれたくない内容、って事で合ってる?是非僕に教えてよ。

「………おい。お前。これはナイショだぞ?」

 フフッ。これだから人間は可愛い。秘密は共有したいよね。

「……実は、あげるか迷ってるんだ。ほら、もうすぐバレンタインだろ?」

 ……あぁ、そんな行事あったねぇ。僕には無縁なものだけど。

「俺、ずっと好きなやつがいるんだけどさ。」

 うん。

「………男からチョコって…変?」

 いや別に?

「なんか女々しいかなぁとか。」

 いや全然。そんなことで悩んでる方がよっぽど女々しいって。そもそも女子からあげることを「逆チョコ」って言うんじゃなかった?

「俺なんかからもらっても嫌かなぁとか。」

 思春期…?でも小学校二、三年生くらいにみるけどなぁ…。

「でも、渡さないと……」

 渡さないと?

「後悔…する気がするんだ。」

 そうなんだ。なら悩む必要ないんじゃないかな?

「でもチョコ以外で伝える方法思いつかないし……。」

 ヘタレ…って言うんだっけ?こういうの。

「ねえ俺、どうすればいいかな?」

 知らないよっ!…と、言いたいところだけど。はいはい。電話ボックスに案内して差し上げますよ〜。

「あ、おいっ!どこに行くんだよ!」

 僕は振り返っておいでと叫ぶ男に向けてジェスチャーしてみる。男の子は僕のジェスチャーの意味に盛大に悩むと

「…ついて来いってことか…?」

 と弱々しく聞いてくる。そうだよ。この僕が君の悩みを解決してしんぜよ〜。

 男の子が無言で僕の元へ駆けてくる。僕はついてきたのを見て少し前に進んで、振り返る。男の子は嬉しそうに笑ってついてくる。……これ、面倒なんだけど…。

「こ、れ…?お前が見せたかったのって。」

 そう。そうなんだよ。ほら、扉の奥から音が聞こえるでしょ?プルルプルルって。君はこの音、知ってるんじゃない?

「電話…ってこと?俺、これ取っていいの?」

 もちろんだよ。君以外にこの電話を受けれる人はいないんだから。

 男の子はそっと扉を押す。キーッと寂れた音がして……。男の子は震える受話器を手に取った。

「もし、もし…?」

『あ!もしもし拓実たくみ?』

「ねっ…!?」

『拓実が電話出るなんて珍しいね?お母さん留守かな?』

 拓実くんはおろおろし出す。まぁ…こんなとこで寄り道してる、なんてバレたら怒られちゃうもんね?

『拓実…?』

「そ、そうだよ!ママは買い物中!俺一人で留守番してるんだっ!」

 ……それはそれでバレたら怒られそうだけど…?せ、せいぜいバレないように頑張るんだよ?

『そっかぁ。お母さんに用事があったんだけど……ま、いっか。大した用事でもないし。ところでさぁ〜?』

 お姉さんがいたずらに笑う。

『拓実、最近悩み事あるんでしょう?お母さんから聞いたよ。拓実がそわそわしてるって。』

「ぎくっ。」

 ギクッと……え…?今、自分で言った?ギクって自分で言ったよね今?

 え…?

『そのギクって自分で言うのいい加減やめたら?私、拓実以外で見たことないよ?』

 お姉さんは笑う。……無くて七癖…。

『で、何を悩んでるの?お姉ちゃんはなんでもお見通しだから言わないでもわかるけど…、ね?』

 拓実くんは口をパクパク。多分ハッタリだと思うけど……信じてるな?

「姉ちゃんはチョコもらったらうれしいですか!!」

『………ふぅ〜ん。小三で恋煩いですか。オマセさん。』

 クスクス笑うお姉さん。拓実くんは顔を真っ赤にする。

「おれは小四だ!!」

『あら、ごめんなさい。でもたった一年。それほど変わらないでしょう?』

「一年『も』ちがう!!」

 ムキになっちゃってかわいいなぁ。

「……で、どう思う…?」

『私はチョコ好きだし、貰ったら普通に嬉しいけど…。』

「けど…?」

『その子がチョコ好きとは限らないし、取り敢えずその子に聞いてみたら?』

「なっ…!?」

 聞いてみる、ねぇ…。……え、拓実くん。まさかその子と話したことすらない、とは言わないよね…?

「む、無理に決まってる…!」

『どうして決まってるの?』

「そっれ、は……。」

『自分で自分の限界決めちゃったらいつまで経っても成長しないよ?幼稚な男子はモテないよぉ?』

 拓実くんは黙ってしまう。

 僕の場合は過信しすぎて、突っ込むんで、後悔するのが鉄板ですね。……木から降りられなくなってないしっ!!

『当たって砕けろだ。拓実。』

「で、でも砕けちゃったらダメじゃん。」

『それ、よく言われてるよね〜。……でもね、私はそうは思わない。砕けちゃダメって誰が決めたの?砕けちゃいけない理由は?砕けるのを怖がっていたら、戸惑っていたら、どこにも進めないよ。限界もわからなくてどうやって頑張るの?頑張った〜なんて嘘を吐いてのらりくらり生きる。確かにその方が楽かもしれない。でも、そんなのもったいないよ。頑張らないと得られないものもたっくさんあるんだから。』

「でもっ…!」

『でもじゃない。砕けた先に待つのは死だとでも言うの?そんなわけないじゃない。砕けた先に待つのは死なんかじゃない。新しい命だよ。ただの綺麗な景色だよ。怖がる必要なんてない。…でも、もし本当に、拓実が砕けて起き上がれなくなったら…、歩けなくなったら。私が責任持ってちゃんと拾うよ。また歩けるようになるまで世話するから。約束。ね?』

 拓実くんは何も言えずに唇を噛む。……いいお姉さんじゃん。

『なんて。精神疾患とか色々問題になってるこの時代に言えることじゃない、か…。ごめんね。……私はいいと思うよ、チョコ。あげればいいじゃん。』

 お姉さんは柔らかな声で言う。どうするの?あとは拓実くん次第だよ。僕が拓実くんを見上げると、その目は心が決まったようだった。

「俺、聞いてみる!姉ちゃんアドバイスありがとうっ!」

 お姉さんは拓実くんの反応に驚いたようだった。言葉もなく息を呑む。

 と、その口からは柔らかな笑顔が飛び出した。

『それでこそ拓実だ。…いえいえ。どういたしまして。頑張ってね。』

「うん!」

 拓実くんは大きく頷く。

 いいなぁ…なんて。二人の優しい関係が羨ましくなった。

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