菅原 咲斗
んあ…………。降りれなくなったぁ〜〜。。。僕の馬鹿!無謀な賭けをするんじゃないっ!……って今言っても手遅れだけど…。僕は恐る恐る下を見る。ヒュッ……。高過ぎでしょぉ…!?
…………誰か…。助けて………。
「……………?」
薄らと開けた目に映る男の子……。助けてぇ……。
「……………?………………おいで。」
おいで。じゃないんだってぇ……。
「大丈夫。絶対受け止めるから。ね?」
そういう問題でもないんだってぇ……。
「絶対落とさない。約束する。もし、落としたら引っ掻いても、噛んでも、何してもいいから。」
人間がそんな簡単に言うんじゃなぁいっ!!僕、汚いからね?思ってるよりずっと汚いからね??
「いいからおいで。」
く……………。僕は口と目を強く瞑る。いけぇ…っ!
「っと……。いい子、いい子。よく降りてこれた。」
…………こいつ嫌いっ!僕は男の子を払い退けると近くの女の子に駆け寄る。はい。もう離すんじゃないよ?
「ふわぁ…。。ほんとにとってくれた…。ありがとう!!おかあさぁん!」
ふぅ。いいことした後って気持ちいいなぁ。………今時、ヘリウムの風船って珍しいなぁ。久しぶりに見た。
「あぁ、風船を取りに木を登ったんだね。優しいんだね。」
この男の子、うるさいなぁ…。プイっと顔を背ける。
「もしかして……僕のこと嫌いになっちゃった?ちゃんと受け止めてあげた恩人にひどいなぁ。」
ヘラヘラ笑っちゃって…。僕はそういう笑顔は大っ嫌いだ!
「……あ、そうだ。」
なにさ!慈悲の塊の僕は振り返ってあげる。ガサゴソと鞄を漁る男の子。
「……これ、いる?」
!?
「あからさまに目の色変えちゃって。」
僕はゆっくり男の子に近寄る。
「はいどうぞ。」
男の子に与えられたそれに、僕は飛びつく。
「撫でてもいい?」
どうぞご自由に〜。汚いけど。
「急に素直になっちゃって。」
クスクスと笑う男の子。べ、別に煮干しに釣られたわけじゃないんだからね!!
ところで……なんで煮干しなんて持ってたの?変なの〜。
「僕のおやつがこんなことに役立つなんてね。可愛い。」
お、おやつ…!?煮干しが?人間のくせに?変なの〜。
「あ、もう一匹いるかい?」
いる!!
食い気味の僕に男の子は笑う。い、いいじゃん。好きなんだもん。
「煮干しはね、必要な栄養分は取れるし、小腹も満たされるし。背を伸ばしたいならおやつにいいらしい。」
ふ〜ん。人間の事情とかどうでもいいや。美味しい〜…。
「………幸せそうに食べるなぁ…。表情豊かで可愛い。」
美味しいものを美味しく食べて何が悪いのさ!美味しいものを美味しく食べるからこそとっても美味しくなるんだぞ!
「………俺も、表情豊かだったら……何か、変わったかな?」
ん〜ん。確かに。さっきから可愛い連呼してるくせに表情変わんないんねぇ。
「俺も、表情が豊かだったら………梨沙もいつもみたいに、笑ってくれるのかな?」
梨沙?女の子かな?
「……梨沙はね、とても可愛い子で、いつも表情がコロコロ変わる子なんだ。……そう、いつもなら、ね。俺といる時は暗い顔してるんだけど、ね…。」
……惚気話?僕にしないで欲しいんだけど…。…っあ!
「どっ…ん?」
男の子の口を手で塞ぐ。汚いけど許してよね?首を傾げる男の子。ついておいで。惚気ならちゃんと本人に、ね。僕やっさしい〜。
「どうしたの?」
こっちこっち。服の裾を少し引っ張って僕は電話ボックスに向けて歩く。
「…………?」
男の子は首を傾げながらもゆっくりと、僕の後をついて来てくれる。なんで僕が案内人なんだろ?もっと適任がいると思うんだけどなぁ…。
「…?この音、って…?」
お、聞こえたみたい。君への電話だよ。
「あれ、でもこれって……電話ボックスなんじゃ…。電話ボックスって、相手にかけることはできても、かかってくることなんてあ、ちょっと…!」
するりと電話ボックス内に入る僕。今日は開いてて助かっちゃった。
「もう。ダメだろう?そんなところに入っちゃ。」
呆れて続いて入ってくる男の子。……あれ?変なの。リーンと大きな音が頭の中に響いた。
僕は一言鳴いてみる。梨沙って子のこと教えてよ。……伝わるかなぁ?
「もしかして………梨沙のこと聞いてるのかい?」
伝わった!?
「いいよ。喜んで話そう。」
すっごい話したがり屋…。
「……俺が惹かれたんだ。梨沙に。最初に見たのは、高一の春。友達できるかなぁとか、そんなこと考えながら入った教室の中心に彼女はいた。友達と楽しそうに話しててね。……綺麗だった。とても。一回、彼女の友達が陰口を言った時があってね。みんなが笑う中、彼女は一人だけ笑ってなくて。……諌めたんだ。一人で多数に向かって行ったんだよ。それがまたかっこよくて…。気づいたら目で追うようになっていた。告白は俺からした。恥ずかしそうに頷いてくれた時すっごく嬉しくて、その夜はよく眠れなかった。でも………彼女は笑ってくれなくなった。俺といる時いつも居辛そうにコップを握りしめてる。笑いが乾いていて、表情がコロコロ変わることもない。俺といるのが辛いんだろうなって。梨沙を傷つけ続けていると分かっていても、………それでも、自分から別れを告げるのはとてもじゃないけど無理で。どうすればいいのかわからない。」
うわぁ…。とてもよく喋るね。
「……どうしようもなく、彼女の……梨沙のことが好きなんだ。好きで、好きでたまらなくて……だから、だから……。」
男の子は俯いて唇を強く噛む。あぁあ、そんなことしたら唇、切れちゃうよ?
「………今度会ったら、」
……ええい。聞いてるだけなの焦ったい!
「ちゃんと」
こうしてやる!
「別れよあぁちょっ、ちょっと…。」
男の子が僕を持ち上げる。
「ダメだろう?そんな悪戯をしちゃ。」
だめ〜?必殺上目遣い〜。……苦しんでる苦しんでる。悶え苦しんでるw
「だ、ダメなものはダメだよ。公共のもので遊んじゃいけません。」
男の子は空いた片手を伸ばして受話器を取る。
『今の………ほんと…?』
男の子の体が一瞬跳ねて、停止する。僕はするりと腕から逃げる。
『
咲斗くんは口を何度も開閉する。声が出てこないみたい。耳を赤くしちゃって。梨沙ちゃんにも見せてあげたい。
「あ、え、えっと……。」
『あ、えっと……私……咲斗くんのこと、嫌いじゃ、ないよ?』
「え…?で、でも…!」
『誤解、与えてたなら…ごめんね。あの、私……恥ずかしくて…。』
梨沙ちゃんの声、とっても可愛い。きっと、いい子なんだろうな、僕も会ってみたい。
『咲斗くん、かっこいいから…、私なんかでいいのかなぁ、とか…あ、私、緊張しいで…。』
「俺、は……」
『わ、私も……咲斗くんのこと、大好き、だよ?』
あらら。顔まで赤くなっちゃった。
無言を貫く二人。少々痛々しい、それでいて柔らかな雰囲気。フフッ。もう大丈夫そうだ。
「『あの…!」』
『さ、先にどうぞっ。』
「こ、こちらこそ。」
束の間の空白。咲斗くんと梨沙ちゃんは笑い出す。
『これからも、よろしくお願いします。』
「もちろんよろしくね、梨沙。」
二人は恥ずかしそうに笑った。
「ありがとう。とっても楽しかった。」
ふんっだ。ただ君の惚気話なんざ聞きたくなかっただけさ。
「俺は君の恩人だ。なんて言っちゃったけど…何倍にもして返された気分だよ。」
恩返しのつもりじゃ全くないしっ!
「じゃあまたね。今日はありがとう。」
僕はプイッと顔を背ける。もう二度とこんなとこに来るんじゃないよぉ〜っだ!………そう、こんなとこに二度とこなくていいように、二人が末永く幸せであれるように。そう願ったのは僕だけの秘密。
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