宝迫 美沙

 くはぁ………。眠い…。……ぼ、僕の本業は寝ることだから、し、仕方ない。そう。仕方ないの!

「あ……また負けちゃった……。」

 っ…?!……な、なんだ人間か…。気づかなかった…。………何、してるんだろう…?真っ黒な四角いもの握りしめて……?

「だめ、だな……。集中できてないや。。」

 女の子はため息をついて項垂れる。……どうしてベンチに座らないんだろう?すぐ近くなのに。わざわざ電話ボックスに寄りかかって三角座り。あ、お山さん座りだっけ?体育座りっていうのも聞いたことある気がする…。ど、どれが正解…?

「…………あ、充電…。」

 女の子はムッと口を尖らせる。

 あれ、そういえば……今日って休日だっけ…?火曜日?だった気がするんだけどな。ん……人間の生活ってやっぱりわかんないや。

「……………帰ろ…。」

 女の子は呟く。そう言いながらも立ち上がらないのはどうして?

 …………よしっ!話しかけてみよう!

「っと。」

 あ……。行っちゃった。………ま、いっか。


 はぁあう…。お久しぶりのお散歩。やっぱり楽しいなぁ。

「くぅ………。」

 あれ?今日もいるんだ。これでかれこれ四日目…。学校、行かなくていいのかな?ん…。

「勝ったぁ!!」

 突然の大声に僕はびっくりして飛び上がる。

「やったやった!勝てたよ!あ…。」

 女の子は恥ずかしそうに顔を赤らめてまたしゃがみ込む。ねえ、どうしてこんなところに毎日通ってるの?

「あれ?初めてみる顔。お散歩かな?いいねぇ。」

 女の子は僕の顔を見てフフッと笑う。あ、気づいた。昨日も一昨日も声かけても気づかなかったのに。

「………いいなぁ…。君は気楽で。私も自由に自分のいたいところにいたいよ。」

 君は自分のいたいところにいれないの?……もしかして、そのいたいところって……

「学校の友達がね、すぐ家に帰りたい〜!って言うの。今も……友達は涼しいところで、遊んだりしてるのかなぁって考えて嫌になっちゃう。…って言っても私が家にいれないのは、完全に自業自得なんだけどね?」

 やっぱり、君の言う君のいたいところって、家のことなんだね。……あ、そっか。わかった。今、人間は夏休みの真っ最中か。そりゃあ暑いわけだ。勉強に支障をきたすからって取られる長い休みの真っ只中なんだもん。

「……やっぱり外は暑いや…。明日からは図書館にでも行こうかなぁ…。ゲームできないけど。」

 どうして君は家にいれないの?……いたく、ないの…?って……聞いても届かないか。

「………君は、大事な人、亡くしたことある?」

 ……亡くした、ねぇ…。僕の場合、死んだかどうかもわからないから、どうなんだろう?

「……私は……あるの。ママが、ね。病気だったんだけどね、私たち気づいてあげられなくて。発見した時にはもう手遅れで。」

 そうだったんだ。それは辛かったね。亡くす辛さはわからないけれど、いなくなってしまう辛さなら僕もわかる。……僕の場合は捨てられた。が正しいかもしれないけどね。

「……そんなんだからパパ、小さい私でもわかるくらい自分を責めてた。何度も、何度も……何度も何度もっ!それでも、私のこと、ここまで育ててくれた。だから………パパが新しいお義母さんだって、知らない女の人を連れてきた時も、私、心から歓迎したんだよ?」

 女の子は深く息を吸って上を向く。

「やっぱり……贅沢、なのかな?私ね、最初は……今も、パパに幸せになって欲しいって思ってるの。ほんとだよ?嘘じゃないよ?だってお義母さんも、お義兄さんもほんと、優しくていい人だし。パパも楽しそうだし。別に不満もないつもりだったの。なのに………パパがお義母さんと仲良くしてるのを見て、全て壊してしまいたくなった。最低だよね、私。自分の都合でパパの幸せ怖そう。とか。パパだって、私の面倒をずっと一人で見てくなんて嫌だろうに。そんなことわかってるのに。でも、でもどうしても壊してしまいたくなっちゃった…。だって、こんなの浮気と何が違うの?ママがいないからって浮気していいの?私の中でママはまだ大きな存在なのに、パパの中にはもういないのかなって、気づいたら私もパパの視界からすぐ消えちゃうのかなって考えたら動けなくなっちゃった。わかんないの。私。答えはすぐそこにあって、手が届きそうで、でも私のところだけ真っ黒で何もなくて……。………ねぇ、ママ………会いたいよ……。」

 女の子は両膝に顔を埋める。鼻を啜る音。………おいで。会わせてはあげられないけど、声を聞かせてあげる。……あげるってなんか上から目線で嫌だね…。

「ごめんね、こんな話聞いても面白くも何もないよね。思わず話し過ぎちゃった。聞いてくれて………ありがと。」

 ズビッと女の子は鼻を啜る。ヒックとひゃっくりをする。……やっぱ伝わんないか…。

「………ふぅ…。…っし!私もしっかりしなくちゃね!」

 女の子はよっと立ち上がる。

「きっと君もこの街に住んでるんでしょう?じゃあまたどこかで、ック…。」

 途中でしてしまったひゃっくりに恥ずかしそうに笑う女の子。おいでよ。おいで?僕はだめもとで鳴いてみる。

「じゃあね。」

 駆け出して行く女の子の背中には、僕の声は届かなかったみたい。………明日からは図書館に行くのかな…?

 …………ま、自分で解決できるほどいいことはないんだけどね?僕は伸びをする。またお昼寝でもしようかなぁ。

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