⑤令嬢氷結のォ、すべらなァいラブコメ

佐々木鏡石@角川スニーカー文庫より発売中

第1話プロット

プロット



◯参考作品

なし


◯世界観

現代日本・北国の進学校。両親の再婚で義兄妹となった高校生二人がコンビを組み、退屈な連中に自分たちの笑い声を届けるため、お笑いで頂点を目指すすべらないラブコメ



◯主要キャラクター

・森崎剣介

うだつの上がらない陰キャ。ヒネた性格で世の中の全てを斜に見るようなところがあるが、それ故に天性のツッコミ能力を持ち、彼が吐き捨てる呪詛はセンスの塊。お笑いに興味がないものの、蓮美一穂はその天性のツッコミ能力を見抜いており、両親の再婚によって義妹となった蓮見一穂にツッコミとして強力にスカウトされる。アガリ症で、人前に出ると声が震えてしまう弱点がある。父とは幼い頃に死別しており、「人を笑わせることができる人になれ」という一言に強い罪悪感を覚えている。一穂の6日前に生まれたため、つまり144時間分、彼女の義兄である。


「美少女がウンコするな」

「高校生がウンコで笑う人を想定して生きるな」

「ウンコは中学二年の二学期には卒業せぇ」



・蓮美一穂

ヒロイン。他校にまで聞こえた美少女であるが、全く笑わないために『氷結の令嬢(仮)』などと呼ばれている。だが実際には異常なほどお笑いに厳しく、単に面白くないと思ったことには笑わない主義であるだけ。森崎剣介の隣の席であり、クラスの陽キャにボソボソと呪詛を吐いている剣介のツッコミ能力をかねてより高く評価しており、コンビを組むならコイツしかいないと考えていた。母親の不貞で生まれた子で、その結果両親が離婚、暗い出自をいつか笑い飛ばすために芸人を目指している。


「今ここでウンコします」

「私が人前でウンコして何が悪いんですか。誰に迷惑がかかりますか」

「私はウンコで笑わない人間を想定して生きて来てないんです」



・矢野陽気

カーストトップのリア充。森崎剣介が密かに宿敵と考えている男。自称・人を笑わせることが大好きな男。だが実際にはただ大声なだけで、言ってることもやってることも全く面白くない哀れな男。蓮見一穂に一度告白したが玉砕した過去を持ち、そのことを密かに根に持っている。蓮美は「つまんない癖に常にうるさいヤツ」として彼を軽蔑している。


「キッツ! うわー今のキッツ!」

「いやいやいやいやおかしいから!」

「変態な俺おもろいやろ?」




◯物語構成


・全5章構成


【プロローグ~1章】

剣介母と蓮見父が再婚、二人が義兄妹になる。一穂は剣介に馬乗りになって「お笑いのコンビ組もう」と迫る。嫌がるというか単に意味がわからなくてグズる剣介に、一穂は「嫌だと言うなら今ここでウンコする。圧力をかけてやる」と脅迫。剣介は泣きながらそれだけはどうかやめてくれ美少女がしかも氷結の令嬢と呼ばれた美少女がウンコするところなんてわしゃ見とうないグロすぎると床に額を擦り付けて懇願する。一穂は美少女でありながら今ここで脱糞するという覚悟を見せつけ、自分が本気であることを示そうとする。


一章ではダラダラと剣介と一穂の学校生活を描写。全く面白くないリア充・矢野陽気のつまらない大声にボソボソ呪詛を吐き続ける剣介と、それを隣の席で密かに聞き、「合格」のツッコミを専用ノートにビッシリ書き記す一穂の場面を描写。そのノートを見せられた剣介はその熱意に観念し、とりあえずコンビ結成に同意する。



【2章】

コンビ名で十三日間ぐらいモメる。一穂は「モロチンランド」とか「チンコロナイズドスイミング」とか「チンチンカブレラ」などとチン関係のシモい名前を推すが、剣介はツッコミつつ断固拒否。一穂は単なる美少女ではなかった。下ネタが好きな美少女であった。大モメにモメた挙げ句、一応のコンビ名が無難な「森崎兄妹」に決定、一応のデビュー戦を10月の学園祭の後夜祭と決定する。


だがここで大きな問題が浮上する。『氷結の令嬢』と呼ばれる美少女である一穂が今更ボケたとしても誰も笑わない。笑っていいのかわからない。何しろ、美少女なのである。一穂はボケに回るにはあまりに美少女すぎた。壁が高すぎた。ヒラヤマよりも高すぎた。一周周りすぎた。しかもこの顔で下ネタ大好きとか。この顔でウンコチンコとレンコするとか洒落にもならなかった。「なら授業中に脱糞すれば面白くなる」と主張する一穂の提案を一蹴し、森崎兄妹は「ボケが美少女すぎる」という困難に裸一貫のフルチンで立ち向かってゆく。



【3章】

相変わらず矢野陽気とその取り巻きの面白くないボケとツッコミが渦巻く休み時間。剣介と一穂は必死になって「ボケが美少女すぎる」という問題を解決するために作戦会議を開いていた。「なら授業中じゃなくホームルーム中に脱糞すれば」と主張する一穂に「場面じゃない。ウンコが場面を選んだことは歴史上ない」と却下。一穂は大変不満そうだった。彼女の中でウンコは全てを解決する魔法の汚物だったのだ。


そこに矢野が絡んでくる。要するに「なんでお前が蓮見さんと絡んでいるんだ。ここはスクールカーストの園だヒンズー教のキングダムなのだスクールカースト下位のシュードラはシュードラらしくわきまえ軽挙妄動に走らぬよう云々」と剣介がスクールカースト底辺であることを論い鬱陶しく騒ぎ立てる。


ウザ絡みに剣介がじっと耐えていたその瞬間、一穂がブチギレる。「お前のボケもツッコミも皆目面白くない、剣介の方がよっぽど面白いぞ」と。あまりの剣幕に仰天する矢野。しかし一穂は止まらない。前々から言いたかったのだがお前のバカみたいな大声は一体誰を笑わせようとしているのかあれで誰かが笑うと思っているのか俺おもろいやろなんてお前関西人じゃなくて東北人なのになんで大阪弁で訊ねるんだ鬱陶しい気持ち悪いキショいウザイうるさいくさいお前みたいなつまんない男なんかと誰が付き合うもんかアホみたいな顔でラブレター渡してきやがってとビシビシと詰りまくる一穂の剣幕に励まされ、剣介も一緒になって矢野が如何につまらなくて声がうるさいだけの男であるのかを天性のツッコミ力でツッコミまくる。レトリックの限りを尽くした罵倒に周りから爆笑が上がり、半泣きになる矢野。


全ての罵倒が終わった瞬間、クラスは万雷の拍手に包まれた。矢野は「全く面白くない、単なるうるさい男」であるとのクラス閣議決定がなされ、矢野はカーストトップから転落、一穂は美少女でありながら「おもしれーウンコ女」として受け入れられる。



【4章】

決戦の十月が近づき、いよいよネタづくりの段に入ってきていた。一穂はウンコネタで行きたいと強力に主張するが、剣介はウンコと口にすることが面白いのであってウンコそのものをネタにするのはお笑いとして原始的すぎると難色を示す。彼女は非常に不満そうだった。彼女にとってウンコとは「おウンコさん」と敬称付きで呼びたいほど、お笑いをする上で心強い存在だったのだ。


 まぁここで、いろいろ、ほら、なんやかんやあって、一穂が矢野とその取り巻き連中に襲われる。矢野は真実のウンコ男だった。カーストトップから転落し、汚物を見るような目で見られる自分に耐えられず、その原因を作った一穂をなんやかんやで辱めようとする。そこに剣介が駆けつけ、傘の柄とかモンスターエナジーの缶の底とか靴の裏とかスクールバッグとか三角コーンの先っぽとかメリケンサックとかでボコボコに殴られながらも、からくも一穂を防衛する。矢野は逃げる途中で犬のウンコの上に倒れ込み、ウンコまみれで逃げてゆく途中、傷害の現行犯で警察に逮捕される。


 ここでもなんやかんやあって、公園のベンチ的なところで身の上話が始まる。一穂は母親の不貞で生まれた子であった。つまり父とは血が繋がっていなかった。托卵だったのだ。自分はツグミの巣に産み落とされたカッコウだったのだ。それが発覚して一穂が生まれてすぐに両親が離婚、母親には以来一度も会わず、一穂は本当の家族を誰一人知らずに生きてきた。彼女はその境遇を笑い飛ばすためにお笑い芸人を目指していたのだ。


 そう言われて、森崎も死別した父を思い出す。何のいい目も見ずに事故で他界してしまった父は常に「人を笑わせられる人になれ」と言っていた。しかし彼は寂しかった。人前に出るとアガってしまう自分になど人を笑わせる力は無いと思っていた。だから陰キャになった。彼は明確に父の教えに背いて生きてきていた。


 だから――剣介はツッコミとして、彼女の人生をギャグにしなくてはならなかった。

剣介は突如大笑いする。「お前の人生めっちゃ面白いな」と。びっくりする一穂。剣介は天性のツッコミ力で彼女の出自と人生とにツッコミまくり、彼女の人生をッどう考えても無理やりなコントに仕立て上げる。最初は戸惑っていた一穂も、そう言えばなんだか自分の人生が壮大なコントであったように思い直し、自分を笑う。


彼らは悟った。今まで彼らは人生は悲劇だと思っていた。だが違う。人生とは己で喜劇にしてゆくものなのだと。それがボケとツッコミ、分かたれてはならぬパートナーの存在がそれなのだと。既にすべり倒している自分の人生は、自分の力ですべらない話にしてゆくものなのだと。


 その日の夜、警官に二度職務質問され、近くのコンビニから買った肉まんとカレーまんを二つずつ食べ、缶コーヒーを四本飲み、文化祭で演るネタが完成した。


出来た漫才のネタは「家族」だった。



【5章】

矢野陽気の無期限自宅謹慎が申し渡された一ヶ月後の文化祭当日。剣介は舞台袖でめちゃくちゃアガっていた。矢野転落事件からある程度話しかけてくれる人間は増えていたが、長すぎる陰キャ生活は彼から度胸を奪っていた。


 軽音部の屁のようなカバー曲が終わり、一切笑いの聞こえない落語同好会の『酢豆腐』が終わった次が「森崎兄妹」の出番だった。緊張が極地に達する剣介。だがそのとき、一穂が耳打ちする。「三分の一終わった辺りでウンコネタ挟んでいいか」と。剣介はそのシマらない相談に若干の冷静さを取り戻し、首を振る。「挟むなら冒頭でやってくれ」と。


 出囃子が鳴り、拍手が聞こえる。一歩踏み出そうとするが、足が固まってしまう剣介。その瞬間、一穂が剣介の手を取り、光り輝くスポットライトの中へ駆け出してゆく。


 瞬間、剣介の中で何かが覚醒し、剣介の声から震えが消える。今自分はこの会場全体の空気を支配する権利がある。それができると悟った剣介は、一穂の怒涛のボケを完璧に捌き切り、大爆笑を誘う。剣介の耳に父の声がこだまする。「人を笑わせられる人になれ」と。


熱が入りすぎ、思わず予定にないツッコミをしてしまう剣介。その瞬間、一穂が笑ってしまう。その笑顔にハッと胸を衝かれたように感じたまま、剣介は夢見心地の高揚の中で舞台を終える。

軽音部は唖然とし、落語同好会は悔しそうな顔でそれを見ている。

しばらく、拍手は鳴り止むことがなかった。



【エピローグ】

 後夜祭の構内アンケートで、一番面白かった催し物に「森崎兄妹」が選ばれる。陰キャから一転、面白い男として校内に名を轟かせた剣介は、相変わらず一穂のウンコネタに付き合いながら帰り道を歩いていた。


 今後の見通しとして、まずは素人漫才の大会に出場しよう、いやもう何もかもスッ飛ばしてM-1に出ようなどと壮大すぎる夢を語る一穂に律儀にツッコミながらも、剣介はあの日の舞台上で見た一穂の笑顔を思い出していた。

 自分はこれから、このすべり切った人生をどうエピソードトークに仕立て上げてゆこうか。そんな事を考えながら、剣介と一穂は我が家への道を帰っていた。


 氷結令嬢のォ、すべらないラブコメ――それはようやく始まりを迎えていた。



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