第96話物流




領主の執務室のドアを開けたのは、領地代行官のロロであった。

そして一緒に入って来たのが運送会社副社長ロベット。


「呼んでいると聞いて急いできました」


「急がしたようで悪いな・・・君に紹介したい人物がいてね。彼がその人物だよ」


「【なんでも屋商会】のミナイです。よろしくお願いしますね」


「ミナイも【なんでも屋商会】では君と同じ立場だが、表向きは店主で通す積もりだ」


「株式会社が理解出来ないからですか・・・」


「それもある。それに俺の存在を表に出し過ぎると貴族が変に反発する恐れもあるからね」


あ、ロベットが複雑な表情をしてるぞ。


「心配しなくていいぞ。ミナイもスラム育ちだから人間の差別をよく知っている」


「そうですよ・・・ロベットさんが亜人だからって差別はしませんよ」


「それならいいんだ」


この人間社会では、亜人達にとって厳しい社会なのだ。


だいぶ昔は、亜人の奴隷制度があったらしい。

ロベットらは、そんな人間から逃れるように山奥に住んだドワーフであった。

その奴隷制度を心優しい王が、廃止したのだ。


しかし、それが返って裏目に出てしまった。

奴隷解放で復讐を恐れた貴族や金持ちが、密かに殺したのだ。

元奴隷達は気ままに出て行ったと、証言されてお仕舞いだったらしい。

それ以上の追求もなしに終わってしまう時代だった。


今となっては、犯罪行為を実証する方法もないのが現状らしい。


だから俺の領主としての「ドワーフの人権は絶対に守る」の口約束で来てくれたことには感謝している。



「それで私を呼んだのは・・・」


「【なんでも屋商会】は、この国で1番の商会を目指す積もりだ。それには運送が重要になってくる。それで君に協力して欲しい・・・どうかな」


「領主様が命令すればいいのでは・・・命令すれば従います」


「いやいや・・・初めて会った時と違う印象だな。手広く商売したことで風当たりが強かったようだな。そんな時は俺の名を出していいんだぞ。あの時の君に戻って欲しいな」


「わかりました。協力します」


2人して握手して部屋から出ていった。

どうやら俺に聞かせたくない話があるようだ。

もう2人は商売人の顔をしてたから、俺もそれ以上話せないな・・・





ダンが作った道路下を、俺はトンネルを掘り続けている。


両手を突き出した状態で「くり抜け」と唱えた。


土魔法が「グルグルグルッ」と穴をくり抜いている。

吐き出された残土は、一瞬で回収。


「どうだ・・・見た感じで出来そうか・・・」


ダン「無理、無理、無理ですよ」


「そうかな・・・簡単だぞ」


「あの大量の残土は如何どうしたらいいのですか、それに固めるのも一瞬で固めてますよね。1人で出来ません」


「ああ、そうか・・・この亜空間袋を手渡すよ。この袋に結構な量まで入るはずだから。それにイライを呼び寄せているから大丈夫だよな」


「イライを呼ぶのですか・・・それなら出来そうです。それにしてもこの袋にですか・・・」


「今から残土を出してみるから必死に亜空間袋で受止めてみろ。念じるだけでいいから・・・」


「バババババ」と残土を出すと汗をかきながら袋をブルブル震わせて回収してるぞ。


俺がストップするとダンは地面にへたり込んだ。


「急に・・・ハア、ハア、・・・するのは止めて下さい。死ぬかと思いましたよ」



このトンネルを使って地下鉄を運行する積もりだ。

地上の道路は、新しい道路だ。

従来使っている道の拡張と整備は、貴族らにやんわりと断られた。

だから新しいコースの道路で、街からも離れている。それでも貴族や国王の了承を得て作った道路。



今後の道路のメンテなどをこっちが受け持つ条件で、永遠に土地を使う権利を得た。

地上がOKなら地下も勝手に使ってもいいはずだ。


そんな理屈で地下鉄計画を立てた。

宰相と国王には了解済みだ。



駅になる土地は、貴族に交渉中だ。宰相公認の土地交渉だから上手くいくだろう。

あえて領地の栄えている場所から外している。

値段のつり上げをさせない為だ。しかし、駅になった周辺は発展するだろう。

だから出来るだけ買占めを始めている。


駅とは別に貨物を引き込むトンネルも作る予定だ。

貨物を引き込んで、コンテナを掴んで地上に引き上げる。コンテナの両サイドは開く仕組みだ。

パレットに載せた荷物を、フォークリフトが載せて運び出す。


異世界での物流革命が行なわれようとしている。


もうフォークリフト開発は始まってる。

設計図も持って来たからドワーフがやいのやいのと作っているだろう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る