第80話雷




又も戻ってきた現代の神須村で、朝早いのに新人鍛冶工房から「カン、カン、カン」とハンマー音が響いた。

誰だこんな早くから・・・なんとサヤが黙々とハンマーを叩いている。

ここは邪魔したら悪いな・・・ゆっくりと引き返した。


そして我が神須鍛冶工房に入った。


「え!死体か・・・」


よく見るとTシャツ姿のハルが寝てた。


「こんな所で寝てたら風邪をひくぞ。起きろハル!」


ダメだ。ウンともスンともしないな~ぁ。

徹夜で打ち続けたのか、火床ほどの火も消えてないぞ。



俺は諦めた。そして俺の所の火床ほどを収納して、魔道火床を設置。

鉄を放り込んでボタンを押した途端に、熱く熱せられた。


「いい熱さだ」


ハンマーで叩く、叩く度に雷のルーン字が浮かびあがる。


「カン、カン、カン、カーン」


「こんな感じだな・・・いいな」


「ジャリ、ジャリ」と削って、砥石で研いだ。


グリップにはめ込んで、ちょっと微調整。中々な物が出来上がったぞ。


雷ナイフだ。


本当は剣か刀が良いのだが、ルーンを込めた物は刀渡りの長さに関係なく平等なのだ。

ならば材料が減らせて手間暇もはぶけるナイフが打って付けな武器なのだ。



更にもう1本。更にもう1本を作り終えた時に・・・


「師匠!わたしに黙って作るなんて、師匠失格です」


「俺はだな・・・ハルを起こしたぞ。起きなかったハルが悪いと思わないか・・・」


「てへ!」


おもむろにハルは、最初に作ったナイフを引き抜いた。


「バチ、バチ、バチ」と放電が放たれた。


「なんですか、これは・・」


そして「ブン、ブン、ブン」と振り回した。


「振り回すな!危ないから」


ピッタと止まって、放電し続ける雷刀は1.8メートも伸びている。


「なんでもいいから斬りたくなりますね」


「無闇に斬るな。それは雷のルーンで放たれた放電だ。スライム討伐に打って付けの武器だと思わないか」


「本当ですか・・・行ってきます」


え!何処へ行った。もしかしてスライム討伐に行ったのか・・・





ハルは、ギルド受付で赤っ恥をかいていた。


スライム討伐で見事討伐成功して、青い魔石をポケットに押し込んだ。

それで辞めておけば良かったのに、広い空間で狩り続けた。

気がついた時には遅かった。ポケットに入りきれない。

そのまま放置するのも・・・ハルの性格が許さなかった。

仕方なくTシャツを脱いで袋がらりにして魔石を持ち帰った。


ブラジャー姿をさらす羽目になった。

ちょうど大勢のスキル覚醒者が、ダンジョンへ潜る為にギルド支部に来てた。


それでもギルドカードに入金される金額を見て、ニヤッとしている。

見かねた牧田のおばさんが、いつの時代のTシャツだと変なTシャツを手渡す。


胸のロゴには【わたしをみて!】と書かれてた。

シブシブ着て脱兎だっとごとく村の中を走り抜けた。


目指すはハルの邸宅だ。




その情報を聞き知った佐々木の行動は早かった。


「誰か居ませんか・・・あ!そんな所で寝転がって、どうしたの・・・」


「雷ナイフを30本も作って、精魂尽きた感じかな・・・」


「それが・・・」


駆け寄って雷ナイフを、ハルと同じように引き抜いた。


「これは凄過ぎよ・・・これなら1日1万個は獲得できそうね・・・するとあそこにも提供できる」


「おいおい、なにを勝手な事を考えてるんだよ」


「どうかしら、全てギルドが買取るわ。勿論もちろん、あなたのいい値で」


「その積もりで作ったからな・・・いいだろう」


「田中!早く持って行きなさい」


素早い動きでバッグに詰め込んで、抱えて素早く立ち去る田中だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る