第72話神須鍛冶工房




楽しくて、楽しくてハンマーでナイフを打っているのに・・・


「×××やめて!×××やめて!××」


顔を上げると佐々木部長の怒鳴ってる顔があった。

それでも声が聞き難いぞ。

となりでもハルが一心不乱でハンマーを叩き付けているのが原因だ。


「ハル、打つのは止めろ!」


「カン、カン、カン」ハルがハンマーでナイフを打っている。


そして、なにって顔でこっちを見た。


「部長が来て、なにか話がありそうだぞ。ハルもこっちに来いって」


「えーーーぇ・・・仕方ありませんね」


何の事はない。

ハルも俺が打っている姿を見続けて、付与魔法を習得してしまったのだ。

製作数がドンと上がって、ギルド職員が日に4回も来るようになった。



「なんの用ですか・・・」


「ハルさんの事もあるので、弟子の受け入れをお願いしたいのよ。言ってる意味、分かるわね」


「弟子を増やして、付与魔法士を増やして、さっさとスライム討伐に行きなさいって、言ってるのかな」


「なら話が早いわ。あなたもする事が山ほどあるはずよ・・・弟子1人に月1千万円の補助金を出します。見事付与魔法士になった時は10億円をボーナスとして支給します」


いい条件を出し過ぎだな、政治家どもに言われたのか・・・


「鑑定しないで!そうよ政治家がああだこうだと言って来てるのよ。わたしも言い返したい気持ちは分かる積りよ」


「分かったよ!ハルが責任もって弟子を取って育てるから大丈夫だと思うぞ」


「え!師匠、なにを勝手な事を言うのですか・・・」


「弟子は、黙って言う事を聞く。それが俺の教えだったよな・・・忘れたとは言わせないぞ」


「分かりました。弟子に二言はありません。しかし、補助金とボーナスはこっちがもらいますよ」


「やる気満々だな。いいだろう・・・ハルに任せたぞ」


ハルも満更ではない事は分かっていた。新しい家もここ神須に建築中だ。

神田じいさんが建てた豪邸の2番目の豪邸だと評判にもなっている。

庭にプールがあったのだ。プール付きの家が夢だったらしい。


「じゃーぁハルさん、行きましょうか」


「え!」


「もう弟子候補は、学園に集合してますよ」


「えーーー、心の準備が・・・」


手を引張られて行ってしまったぞ。

まあ、いいか・・・


「カン、カン、カン」と打ち始めた。




「なんだ、ハルか早かったな。え!」


なぜか10代や20代の女性8人が居るんだ。


「師匠、グラマー代表のミちゃんです」


「ボンキュッボンのミッチと呼んで下さい。歳は18歳でーす」


なんだその紹介は・・・分かったぞ。ハルが言わしてるに違いない。

俺の反応を見て楽しいのか・・・


「はい、次も自己紹介」


「はい、ハル師匠と同じ北海道出身のサヤです。16歳になり立てです。ここに就職が決まったので高校は中退します。親も了承してるので大丈夫です」


なにを、明るい声で言ってるの・・・


「ちょっと待て、男性は居なかったのか・・・」


「居たけど・・・私の好みに到達する男性は居なかったの・・・だから有望な人材を優先に選んだらこうなったのよ」


「しかし、全員女性で8人は多過ぎじゃーないかな。この工房の中に8人となると・・・」


「それは、ギルドから提案があります」


あれ!佐々木部長が居たのかよ。


「どうでしょう近場の土地に、無料で新人鍛冶工房をギルドが責任持って建てます。将来を担う鍛冶職人を育てるのですから、それだけの支援はします。勿論もちろん、住む家は学園の寮を使って下さってもかまいません」


もう、いたれりつくせりだな・・・



「ハル、自己紹介は最近できた居酒屋で親睦会でもして、親睦を図るってのはどうだ。勿論、酒抜きで・・・」


「師匠の師匠、それって強制参加ですか・・・強制でないなら辞退します」


「わたしも」


「右に同じく」


「まあ、強制でもないな・・・なんとなくやってみたいなーーて思って。テレビドラマでもよく見るから、やらないとダメな奴とか思われたくなかったから・・・」


「師匠、そんなにねなくていいですよ。わたしがスルメを買ってきてウーロン茶で付き合いますよ」


「そうか・・・なんかハルの愚痴ぐちを聞くような気がするが・・・」




なんかハルは、木札を作って名を書き出した。

やっぱり達筆な字だ。


「明日かた出勤したら、この赤の名札から黒の名札に変えてね。分かった」


「はい」と8人の息が合ってるぞ。


「今日は、もう帰っていいわ」


「お疲れさまです」


「失礼します」


7人は帰ったが1人残ったサヤが「終わるまで見ていていいですか」


「好きにしていいわよ。邪魔だけはしないでね」


そう言って、ハルは打ちだした。


「カン、カン、カン、カン、カン、カン」とリズムにのって、ハンマーの音が響いた。


あ、俺も自分の仕事をするか・・・後1本でノルマ達成だから頑張るぞ。

達成しなくてもギルドから賠償責任はないのだが、心の持ちようで未達成は嫌だから・・・


なんだよ、心配そうにギルド職員が外から覗き込んで・・・仕方ない奴らだ。



よそ見したせいで、ハンマーがすっぽ抜けた。

後ろを見ると「ガラ、ガチャン」と鍛冶道具の棚に当たってめちゃくちゃだよ。


気を利かしたサヤが駆け寄って「手伝います」と言ってきた。


「いいよ、ここは俺がするから。君は、ハルが打つ仕草をしっかりと見て自分の物にするといいから」



整理していると「あれ!なんだこれは」


壊れた木箱の中に本があるぞ。

こんな物があったとは、全然気づかなかったぞ。


本をペラペラとめくって読み取った。

え!これってルーン文字が発掘されたいにしえの魔法国家の遺跡記録だ。


師匠から聞き逃した、ルーンの秘密だ。

色々と師匠の書き込みもあるぞ。

遺跡場所は・・・



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