第66話バルザックじいさん




もう物珍しいそうにドワーフが、俺を見る為に集まったぞ。

そんなドワーフに引けを取らないで向き合ってるのがロンベルだ。


「これはこれは、前に助けてくれたオーガではないか、皆も覚えているだろう」


「ああ、あの時のオーガが何用に・・・」


え!ロンベルよ・・・なんで黙り込んでるんだ。


「ロンベル、はやく俺を紹介しろよ」


「ドワーフが話してる言葉なんか知らないよ」


「え!嘘ーーマジかよ」


仕方ないな・・・


「えーと・・・オーガの知り合いのイサムです。このルーンブレイドについて教えて欲しいのです」


「なんとルーン文字の付与技術ふよぎじゅつを知りたいと言うのか、それなりの対価が必要じゃな」


「それはどんな物ですか、できるだけの事はしますよ。それだけの価値がある技術だとこっちも思ってます」


「長年の間に自生じせいしていた山ぶどうが、呪いに掛かってしまい絶滅の危機なのじゃ。あんたは人間族と見受けられるから治す術を持っておらんか」


鑑定でドワーフのキーワードで思いついたのが酒だ。

ウイスキーを樽ごと買って来たのに、ワインだったか・・・


「治す術ならあるぞ」


「え!それは本当か・・・それが本当なら付与技術を教えるぞ」




「こっちだ、こっちだ」


もう遠くからでも黒っぽく広がる光景だった。

これはひどいな。葉は枯れかけて小さな果実は黒く変色してもうダメだ。


鑑定結果は、黒とう病。

病原菌が新しい枝や葉に胞子を作り、感染して発病するものだ。

たぶん、オーガがここへ持ち込んだみたいだ。


ここは黙っておいた方が得だな。


「それじゃ治すよ」


「え!もう治せるのですか・・・こんなくちた状態で」


「心配しなくて大丈夫です。これでも植物魔法を使う魔法士です」


「オー!」とドワーフらが、どよめいたぞ。

大勢のドワーフの目が、キラキラと希望に輝いてるかな・・・そんな風にみえる。


俺は、山ぶどうに優しく触れて植物魔法を発動。それと一緒に光魔法も同時に発動。

ここまでひどいと植物魔法では、手に負えないからだ。


みるみる山ぶどうが回復してゆくぞ。

大地から水を吸って、新しい葉が生えだしている。

そして、新しい実を付けてドンドン成長が増してるぞ。

もうそこには、みずみずしい果実に成長した山ぶどうが実っているぞ。


「なんと奇跡だ。もう枯れるだけの山ぶどうが、こんなに実ってるなんて」


ドワーフの1人が1粒を食べた。


「なんて甘酸っぱい山ぶどうだ。これなら最高のワインが作れるぞ」


なんだなんだ、総出でぶどうを狩り取り出したぞ。


活気に満ちたドワーフが「大きく育って感謝、感謝。甘酢っぱくなって感謝、感謝」


リズムに乗って歌ってる。それも楽しそうに山ぶどうを取ってる。


収穫した山ぶどうを大カゴで背負って運んで行ったぞ。


なんとロンベルも手伝ってるではないか・・・




ここでワインを作るのか、大きな建物で年季が入ったつくりだな。


今度は山ぶどうを1粒1粒取って、カゴへ入れてるぞ。

一杯になったカゴを大きなおけに「パラパラパラ」と放り込んだ。


「さあ!踊って歌え!ぶどうの歌を」


な、な、なんと桶の上で歌って踊ってるぞ。


「おいしいワインは何処じゃ。ここじゃ、あっちもじゃ、ホウホイ!」


なんて変な歌だ。俺は付いて行けないぞ。


そんな潰された山ぶどうを大樽に入れたぞ。


「この大樽に入れてどうするだよ」


「10日もしたらいい頃合になるだろうて」


急に後ろから声を掛けられた。


「あんたがルーン付与を知りたい変わり者か・・・」


「この者が、この村で唯一のルーン付与を取得したバルザックじいさんだ」


「お前にじいさん呼ばわりされたくないわ」


「ハハハハ、言い忘れていた。この村の村長でハルザックで、こいつの兄ですじゃ」




ここが鍛冶工房らしいぞ。


「ここに座りな、上手く説明できないから見て学べ。昔からの伝統だ。ワシの頃は理解できないと鉄拳が飛んで来たもんだ。心配するなお前には、そんなむごい事はしない。ワシはそう誓ったからな」


なんだよ・・・その伝統の重い話は・・・俺もついて行けなさそうな話だな。


「今からルーン斬と強を付与するぞ。叩くのは斧だ」


足踏みのふいごらしい。踏む度に風が送り込まれて火力が上がってるぞ。


真っ赤に燃えた鉄の塊を取り出した。


なんとブツブルと唱えてる。


これがルーン語なのか、唱えながら魔力と一緒に叩き付けてる。

1打1打でルーン文字が正確に打ち込まれるのが見えてるぞ。


これがルーン付与の正体だ。


あ!久し振りに【ルーン付与魔法習得】と表示されたぞ。


「お!なんて奴だ。この技術を習得したようだな。ドワーフ族より才能があふれてるようだ。これでいつでも・・・くたばれる」


「それってどう言う意味ですか師匠」


「師匠か・・・いい響きだ。ワシの寿命が短くなったって事だ。ワシらドワーフは長寿だが、このように工房でのこもりっきりの作業は体を悪くしたようだ。良いか、ワシは斬と強しか習得できなかった。まだまだルーンは散らばっているはずだ。どうか解明を・・・」


「師匠!師匠!!」


脈がないぞ。



俺は走って兄のハルザックに知らせた。


「そうか・・・ったか」


「え!知っていたのですか」


「ああ、知っていた。いい弟子で良かった。そうだ、あの工房はお前の物だ。好きなように使用するといい」



バルザックじいさんの葬儀そうぎは、山奥で見晴らしがいい場所だった。

そこで全てを燃やして終わりだ。


あの変な歌はないらしい。

それでは寂しいので、ハーモニカを取り出した。


炎が消えるまで故郷ふるさとをしめやかに吹いた。


うさぎおひしかの山

こぶな釣りしかの川

夢は今もめぐりて

忘れがたき故郷



如何いかにいます、父母

つつがなしや、友がき

雨に風につけても

思ひいづる故郷



こころざしをはたして

いつの日にかかえらん

山はあをき故郷

水は清き故郷



なんかドワーフの連中は大変喜んだようで、ハーモニカを欲しいとねだられてしまい。

こころよく手渡したよ。


なんか数分の練習でハルザックさんは、マスターしてしまったよ。

俺なんか、幼い頃・・・1週間も掛かったのに・・・


帰りの道は、故郷のハーモニカを何度も何度も聞かされたよ。



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