第42話ゾンビ④




これが今回の事件のダンジョンなのか、ヴァンパイアのマリアは遠くへ逃げたと思うが・・・逃げ込んでないか確認の為に来てみた。

ダンジョンの赤いぼやけた光は、すでに消えた状態だ。



「やはり遠くへ逃げたか、せっかく来たから中に入るか」


光で照らしながら入った。

静か過ぎる。それにゴブリンをまったく見えないぞ。


やはりグールによって何度も何度も捕食されたようだ。

ダンジョンから出た魔物は自我が生まれるようだ。

鑑定して分かった事だ。


ダンジョンの束縛そくばくから解放されて、よりよく強くなる為の手段に魔物が捕食された。


だからゴブリンを見る事がなかった。


あ!階段だ。


ゆっくりと下りた。


「あ!スライムいたぞ!」


グールもスライム相手だと分が悪いようだ。


そして暗黒吸刀の雷刀でスライムを斬った。

「ジュン」と鳴って消えてゆく。


もう俺の体は、普通のナイフでは切れない体となった。


又もスライムを斬っていた。



スライムの棲家だが、ゾクゾクと感じるものがあるぞ。


「バリ、バリ、バリ、バリ」と雷撃を放った。

これでもかと放った。


程なくして揺れだした。


これは・・・やっぱり・・・石柱がせり出した。


え!石柱の上に剣が輝きながら浮いていた。

まさに十字架のような剣だ。


【ヴァンパイアに罰を与えるべし】と脳内に話しかけられた。


誰か居るのか、見渡しても誰も居ない。

ダンジョン自身の言葉なのか・・・


あ!ゆっくりと俺の前に剣が来たぞ。


もう手に取るしかない。


握った瞬間に・・・


【ヴァンパイアを討て】と響いた。


俺は、ダンジョンから啓示けいじを受けた。


アンデットの恐れる絶対武器を手に入れた。

これはダンジョンの報復か・・・



帰り道にスライムを斬っても、空気を斬るようにする抜けた。

え!斬れないの・・・スライムは、そのままだ。



そしてダンジョンを出た。


あ!ゾンビだ。目的もなくたださ迷ってる。

グールの支配から開放されたから、目的もなくたださ迷っていた。


十字剣から光りが放たれた。

なんだこれは・・・勝手な事するな。


あれ!あんなに沢山のゾンビが居なくなってぞ。


「お前がやったのか」


『そうだ我がやった』


「お前!がしゃべったのか?」


『なにを驚いている』


「普通に驚くぞ」


『ふん』


「お前、ふんと言ったな。あやまれ!」


なんでだ・・・もうだんまりか・・・


黒い渦を出して収納だ。


え!奴の笑う声が聞こえたような・・・気のせいなのか・・・





朝日が昇る頃には、防衛本部へようやく戻って来た。


「本部長!何処へ行ってたのですか」


一連の出来事を洗いざらい話した。グールを倒した話までは良かった。


ヴァンパイアのマリアが逃げた話になった途端に、ああだこうだと文句を言って来た。

取り逃がした事が我慢出来なかったようだ。


「グールは全て倒したぞ。それでも文句を言うのか・・・もうゾンビに命令する者が居ないから自由に討伐してくれ。俺は帰る」


「え!もう帰るのですか・・・」


「俺の目でダンジョンを確認した。通常のダンジョンだと確認したからには、もうそっちの仕事だ。俺の知った事ではないはずだ。日本ギルドも帰って来いって言ってるし」


そうなのだ。ここへ来る前にすでに佐々木には話した。


もう各国の代表は、ヴァンパイアの報告で忙しいのだ。

特に日本と中国は真剣だ。


佐々木部長の書類手続きも済んだようで、別れの挨拶も終わってヘリに乗り込んでいた。


「何してるの・・・まだここに居たいのなら構わないけど・・・」


それは嘘だ。こんな時に限って嫌味を言うのか・・・


「もうここには未練はないよ」



2500万人以上のゾンビが夜な夜な徘徊するのだ。

牛や犬のゾンビもいるらしい。


夜の間は、38度線を必死に守り続けるしかないのだ。


後は、昼間に建物の中を強襲するしかない。

危険と隣り合わせだ。

国の為に戦って死ぬならいいが、戦ってゾンビになるなんて誰も考えたくないはずだ。


そんな連中をおいてヘリに乗り込んだ。


「やっと帰れるわ」





何度か乗換えをして、ようやく神須村のヘリポートへ着陸した。

佐々木は、さっさと天然温泉へ行くようだ。


俺は、タブレットで提出した内容に質問があったらしく、部屋へ案内された。


「マリアの顔は、まったく覚えてないのですか?」


「なんだか赤い目が印象的で具体的には覚えてない。自分自身でも不思議に思ってるよ。もしかしたら奴の能力かも知れないね」


「そうですか・・・こちらの方は、警視庁の似顔絵担当の宮田で、似顔絵は無理ですか・・・」


「無理だな」


「中国方面で高速飛行の目撃証言もあるのですが、中国へ行った可能性はありますか?」


「可能性はありますね・・・だけど最終目的は俺のようです「今度は負けない」って本人が言ったので」


「分かりました。何か思い出したら連絡を下さい」


「え!帰っていいの」


「はい、無茶な仕事を見事に達成した神須さんには、感謝してます。それ相当の対価は、後ほどに書面にして弁護士に渡しますので・・・」


対面した2人は、深々と頭を下げた。

なんか気が抜けた感じだ。そのまま部屋を出た。


「師匠、どうしておいて行ったのですか」


あ!ハルだ・・・


「強引に連れて行かれたから、どうしようもなかったよ」


「あの時は、何事かと師匠の家まで行きましたよ」


「もっと早く来たら間に合ったかも知れないな。それに火ならゾンビも焼き殺せた可能性もあったな」


「そうですよ・・・それにしてもゾンビはテレビやネットで流れっぱなしでしたよ」


「そうなのか・・・お前の感想はどうだ」


「もっと肉がただれたむごい姿のゾンビを想像してました。現実は普通の人間の姿でより恐怖を感じました」


「そうだろうな・・・もう疲れた。だから帰るよ」



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