第41話ゾンビ③




ゾンビ防衛作戦本部で、撮影された動画確認が見終わった。


「本部長、やはりグールなる魔物は確認出来ませんでした」


「ならば今夜が危ないな・・・」


「本当にそんな魔物が居るのでしょうか」


「ゾンビが壁を壊せると思ってるのか」


「そんな・・・否定しているわけではありません」


「壊された壁の傷跡を見せてやれ・・・この爪跡が証拠だ。ゾンビに、このような爪があったか!」


俺は苛立っていた。当初のグールより強くなってるはずだ。

進化タイプだから人をゾンビにしてパワーアップしてもおかしくないなのだ。


「それで土になったゾンビの数はどれくらいだ」


「確認されたのが41035人です」


「思っていたより少ないな」


「更にライトの増設をしてるので、次回から充分な被害を与えると予想してます」


「ここ以外はどうなってる」


その時だ。


「ダンジョンを発見しました」


ここに居た者は立ち上がり、モニター前に集まった。

あ!本当にあった。


穴の周辺は、赤いままだ。


「暗い穴に何か光ったぞ」


それは気味悪い2つの眼だ。


「ブチュン」と画面が消えた。


なにをした。俺の勘は、あれが今回のボスだとにらんだ。



中国側からもちらほらゾンビ目撃が聞かれだした。

橋の爆破や壁の建設も急ピッチに進んでと報告も聞いた。


一部の外国記者がスクープとして流した。

夜に逃げて来た住民を、威嚇いかくして入国を禁止している動画だ。

しかたなく住民は、隠れて1夜を明かすしかなかった。

助かるケースもあれば、その後の消息が分からない場合もあった。


しかし今回は、各国の政府も文句を言う事もなかった。

明日は我が身だからだ。




更なる増設工事で、ライトがずらりと並んでいた。


「隊長、このAIによる自動照射って信用できると思いますか?」


「その為のテストだ。失敗した場合は、自動照射を切ってお前が手動操作するだけだ」


「分かってますよ」


「これが成功すれば、全てが切り替わる予定だ」



もう夕焼けが広がる安全地帯を赤く染めようとしていた。

壁の上に立つ軍人たちに緊張が走った。


「太陽が沈むのか・・・」


「気合を入れろーー」と指揮官の声が響いた。


ドローンで偵察しているチームから「ゾンビだ!ゾンビが来たぞ!」とスピーカから発せられた。


ライトを急いで照らす兵士の顔がこわばった。

用意していたペットボトルの水をごくごくと飲みだした。


「ゾンビが見えたぞ」


「効果がでる距離まで待て」と指示がでた。


もうライトを握る手は、汗がにじみ出ていた。


「今だクロス作戦だーー」


3人1組で作戦が実施された。

指示者が照射するポイントを指示して、2人はそのポイントを照らす作戦だ。


ライトがダブル照射されたゾンビは、もだえて後に倒れて崩れだした。


「ポイントB1だ」


ダブル照射されたポイントには、ゾンビがひしめいていた。

ダブル照射の効果はすぐに現れた。中にゾンビを盾にするがその盾も崩れてもらえだした。


AI照射も上手くいってるようだ。



俺はゾンビを鑑定し続けた。

あ!命令を発したグールが近くに居るぞ。

それも大勢だ。

今日を決戦と考えたのか・・・


俺は決断した。


自分自身に隠蔽魔法を発動。

そのまま大きくジャンプしながら、暗黒吸刀を振りながらゾンビ集団へ飛び込んだ。

何度も何度も斬った。


斬られたゾンビは、一瞬で土くれになった。

ゾンビの能力がうばわれたからだ。


【再生能力習得】と表示された。

思っていた通りだ。


行く場所はグールだ。

能力を習得したから容赦なく「光よ、照らせ」と唱えた。


パッと明るくなった。

10メートル内のゾンビは浄化されて消えた。

それ以上はもだえ苦しんでいる。


そんなゾンビをほったらかして、ひたすら走り続けて。

俺が行く前は、ゾンビが割れる形で道が開いた。




「とうとう見つけたぞ!」


え!なんだと・・・人間のなりをしてるが体がでかいな・・・それに男女の性別もはっきりと見分けられた。

あの口か見える尖った歯は、異様過ぎるぞ。

成る程な・・・あれな一噛みで人間を殺せるはずだ。


それに奴らは、ボンネットや板などで急ごしらえの盾を持っていやがった。

全身を隠せる程の大きさだ。

前夜の出来事で対策を考える知能が備わってる証拠だ。


グールが大きくジャンプしてきた。その数は20体だ。


雷魔法でまとった暗黒吸刀をグールに向かって振った。

1振りで12体を土くれにしてやった。

返す1振りで残りも始末だ。


力と素早さがアップした感覚が伝わってきたぞ。


なんだと!地面にも潜んでるのか・・・そんなのはお構いナシだ。

地面に向かって振った。雷刀が地面の中を一掃した。



もう斬って斬りまくった。残りは200体ぐらいだ。

なんだと逃げるのか・・・あれ!急に立ち止まったぞ。


その前には、黒い女が立ってた。髪もロングで黒髪だ。

目だけが赤く、ボッキュボンの女だ。


「逃げる事は許さない」


振返ってグールは襲ってきた。

俺の暗黒吸刀が無数に切裂いた。

伸びた雷刀が生きてるようにグールを斬っていた。


最後のグールを斬った。

そして、あの女を鑑定した。


【ヴァンパイア】


不死にてアンデット最強の存在



「あたしの名前はマリア、あなたの名前は・・・」


え!話す魔物なんて聞いてないよ。


ニタっと笑う口から牙が見えていた。


「名乗ったのに教えてくれないの」


「イサム、神須勇だ」


「そうなんだ・・・可愛い・・・」


口が動いた。


とっさに縮地を使っていた。

え!それでも俺の髪にかすっていた。


血の弾丸がかすったように見えた。

負けないぐらいに癒しの光を全包囲に放った。


「ギャー」と声がした。


女の両足が地面に落ちてた。

すらっとした足が、朽果くちはててゆく。


見上げた夜空に、マリアが飛んで浮かんでいる。


「今日は、負けを認めるわ。次回は負けないわ」


そして姿を消した。

マリアは、侵食する足を自ら切ったようだ。

そしてここには、2度と戻らないだろう。


ダンジョンから出たボス魔物でも、まれに1年後に討伐された事件はあった。

ダンジョンから離れ過ぎると、ダンジョンは急速に通常に戻る傾向があった。

今回もそれに当たるかも知れない。

ただし本人が自ら選んだ選択肢だ。あのマリアは、地上が気に入ったみたいだ。


この事は確りと報告する義務がありそうだ。

今回の事件で表立った行動は、危険だと感じたはずだ。

密かに着々と人間社会に入り込む気だ。


なぜって、鑑定した結果だ。逃げるまでにそんな事をマリアは考えてた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る