第40話ゾンビ②




せわしく駆け回る軍人を、俺は眺めていた。


モニターに映し出された建物に、爆撃機が爆弾を投下。

土煙を撒き散らしていた。


そうそう日光をさえぎる建物は、もっと壊せ!

「ボンボンバン」とビルが崩れ去ったぞ。


「日本政府から正式な条約が発効されたわ」


え!振返ると佐々木部長だ。それに条約って何・・・


「本日、神須勇はゾンビ防衛作戦本部長と運用責任者として兼任してもらいます。国際ギルドの承認も貰ってます」


なんだよその無茶振りな依頼は・・・


「責任者と突然言われても、そんな責任は取れないぞ」


「肩書きだけだから気にしないで、ここの主だった人たちを自由に扱き使ってかまわないから。それに報酬も期待して良いわよ」


そうなのだ。佐々木部長の後ろには、数十人の人たちがそれぞれの思惑で立っていた。

人種もバラバラだ。各国が支援する条件に現地調査人を送り込んだのだ。

俺は、なぜ来たのか鑑定で奥深く探った。


周浩然シュウハオラン43歳】


中国共産党中央軍事委員会

防衛前線視察およびゾンビ情報の収集


成る程、深刻な立場だ。



【アレン・ダレス 40歳】


アメリカ中央情報局(CIA)


現地であらゆる情報収集



【イ・ユナ 28歳】


国家情報院


情報収集





そんな各国の1人1人を見ながら、地図を広げた。


「ゾンビをいくら銃弾や爆発させてもじわじわと再生したのを見たな。だから強力なライトを壁向こうに対して設置するのが急務だ。誰が得意分野だ」


2人が手を上げた。


「全て2人に任せるから始めてくれ」


「了解しました」と言って何処かに連絡をしてる。


俺は地図に指差した。


「当面は、ここを防衛拠点としてドローンを飛ばしてダンジョンを探すのが先決だ。それをアレン・ダレスに任せたい」


「OK・・・ドローンスタッフも連れて来たから、期待に応えられるよ」とニヤリと笑った。


「イ・ユナは、38度線に異変がないか調べて欲しい。急ぐのはこの周辺からだ」


「了解」


「他のメンバーは、防衛ラインの再構築の取り掛かるから手伝ってくれ。以上だ!」




あれが壊れた壁か・・・見事に壊されたな。


近づいて見た。これはグールの爪跡だ。

なんてバカ力で硬い爪なんだ。


周りは重機によってきれいサッパリに瓦礫がれきは撤去されて、後は修復だけだ。


俺は、地面に手をついて土魔法をブツブルと唱えた。

土が盛り上がって開いた穴をふさいだ。更に唱えた。

土が凝縮ぎょうしゅくして、こり固まり強度は岩盤なみになった。


あれ!誰かに見られてる・・・まあ、いいや。


あ!しまった。

壁向こうに深い溝を作る予定だったのに・・・

壁を蹴って大きくジャンプした。そして壁の上にふわりと着地だ。


なんだこの風景は・・・

無数の爆発跡が広がっていた。


ピピピ、あった地雷だ。


やはりゾンビには恐怖が無いのだ。


くるっと回転しながら飛び降りた。

う!悪臭だ。


ゾンビになれなかった肉片が散らばって、悪臭を放っていた。

10%の確立でゾンビになれない人間がいるのだ。

原因は分からない。


そんな場合は、引きずられて喰われるだけだ。

ゾンビは栄養補給と勘違いしてるのだ。


俺は知っている。人間を殺した瞬間に、生命エナジーを吸収するのだ。

喰っても栄養補給にならない。


しかし、殺した瞬間の生命吸収が快楽となってる。

だから喰う事だけが、ゾンビの快楽を刺激するらしい。


ゾンビとリンクした時に、そんな感情を感じてしまった。

胸糞悪い瞬間を思い出すなんて、情けない。




そうだそうだ、溝を掘るんだ。

大地に手を当てて土魔法を唱えた。


大地が沈下して表面が硬くなった。

深さ5メートル幅も5メートルで長さは100メートルだ。


ちょっと魔力を使い過ぎた。

魔石で魔力回復だ。ああ力がみなぎってきた。


壁と溝の間の1メートル幅を走りながら、100メートル先まで来た。


又も大地に手を当てて土魔法を唱えた。


「ドドドド」と沈下して表面が硬くなった。


2キロも溝を作った。



あ!スマホが鳴った。佐々木さんだ。


「はいはい・・・え!壊れかけの壁があるって、何処どこに居るかって・・・ここは何処だ。修復した壁に戻るので、そこで」


俺はバランスを取ながら走った。


「あ!ヘリだ」


見つけたようで近づいてきた。

あ!フルハーネス型の安全ベストが降りてきた。

これを身に着けるのか、この足を入れてベルトをギュッとしてベストでカチカチと固定だ。


「え!なんて」


「ああOKだよ」


お、ふわりと浮いた。「スルスル」と引張り上げられた。


ヘリに入り込んだ。


「2ヶ所もあるので、そのままで」


え!締め付けられて股間が痛いのに・・・


どうにか2ヶ所の修復も終わった。


念の為に溝も掘ってやった。




もう夕暮れだ。


壁に設置された強力ライトが、1つ、2つと点灯して全てが点灯した。


「ゾンビだ!ゾンビが来たぞ!」


けたたましくサイレンが鳴り響いた。


前夜のゾンビよりはるかに大量なゾンビだ。

ライトを照らす兵士の顔もこわばった。


「あんなに居るぞ・・・今回も守れるのか」


「守るしかないんだ。しっかりしろ。ここが破られたら家族も助からないと思え!!」


「申し訳ありません」


「分かればいい」



「ライトをもっと照らせ!」


前回より強力なライトだ。

ゾンビが嫌がってる。しかし、死なないぞ。


「ライトをクロスさせて集中させるんだ」


クロスさせた途端の逃げ出した。

溝にはゾンビがうじゃうじゃ居やがった。


俺は、たまらず光魔法を唱えた。


「光よ、照らせ」


あ!一瞬で土くれとなった。そしてボロボロと崩れ去った。

めちゃくちゃ強力な光魔法だ。


だけど、ここでストップだ。

俺が居なくても防衛で防ぐ必要があった。


俺は、こんな所に長く居たくないのが本音だ。


追加のライトが運ばれて来た。


「早く設置を急げ!」


「こっちにも持って来い!」


夕暮れから始まった戦いが、朝日が昇る1時間前に終わった。

ゾンビが逃げた。


もう軍人たちが抱き合って泣いた。


「助かったんだ」


「あれだけのゾンビを・・・撃退したとは」


「そうだな」と言ったかった。俺の中には不安だけが残っていた。



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