第20話大根




ほったらかしにしていた畑を耕耘機こううんきで耕した。

面白過ぎてあっちこっちを耕した。


俺は素人だ。土壌のpHや栄養なんか知らん。

だけど緑の魔石があるから大丈夫だ。


だけど土を盛った方がいいのは知ってる。

だから軽く盛った。

買ってきた大根のタネを盛った土に埋めた。なんかいとおしい感じだ。

ザッと見渡した。なんとなく畑らしくなったなぁ。


畑の中央に緑の魔石を「すくすく育ちますように」と埋めた。

なんか水をくれって聞こえた気がした。


俺の勘が水をやれって言ってる。

如雨露じょうろに水を入れて、魔石を埋めた上に「シャー、シャー」と掛けた。

あれ!畑が淡く光ってる。ポワンポワンと畑のすみずみに広がっている。

そして埋めたばかりなのに、芽が土を押しのけて出た。

え!そんなバカな・・・あり得ない。


更に「水をくれ」とハッキリ聞こえた。

何度も往復して水をやった。


そしていっぱしの大根に育った。え!なんでって気分だ。

俺は、大根を抜いてかじってみた。


「あ、うまい。うま過ぎだ!!」


じいさんの軽トラに、出来立て大根を積んだ。

荷台カバーを掛けて、こぼれ落ちないように縛った。


そして農協へ行った。初めて農協だ。

誰に交渉すればいいか分からん・・・

誰か知ってる人はいないかな・・・あの人は知ってるがあまり親しくないし・・・


「なんだイサムか、何しに来た」


ちょっとテレながらしゃべった。


「大根を作ったんだ。買ってくれ」


「村は、お前の爺さんに恩があるから買ってもいいが、どんなもんかみないとな」


軽トラまで案内した。

軽トラの荷台を見て「中々なもんだな」そして触った。


「傷もないし、まっすぐで太いから買うよ」


「いやいや、その大根は特別なんだ。俺が魔法で精魂せいこん込めて作った大根だ。その辺の大根の味以上にうまい大根だから喰ってみてくれ」


「素人はそう言うが・・・じいさんの為に喰ってみるか・・・なんだ!この味は凄いぞ」




農協では騒ぎになった。


「絶対に名産として売るべきだ」


「いつもの販売ルートでいいか」


「なにを言ってる。ここは東京で勝負だ。わしのツテで直売所を確保するからそこで売るぞ」


「気合が入ってるね。いつもボケーッとしてるのに」


こりゃー神須の名産にするぞーーと、農協の役職が一丸となって即決で決まった。



すぐに東京へ運ばれて、ツテをたよって産物直売所で1本5千円で売り出した。


「大根を5千円で売るのは無理ですよ」


「わたしらは、この大根に賭けてます。必ず売れると信じてます」


「場所は提供しますが、どうなっても知りませんよ」


「あんた、そんな無謀な事をして何を考えてるんだ。名産にしたいのならコツコツとやる事だ」


「さっちゃん、あの作戦でゆくよ・・・」


「はい、準備は整ってます。わたしも頑張ります」


「ありがとう」


小さく切った大根を「はい、食べてから買うか決めて下さいね」と配った。


「この大根が5千円もするの・・・味見があるのね。話のタネに食べてみるわ・・・エーー!!凄い大根よ」


「こんな大根があったなんて・・・わたしは20本買うわ。クレジットで・・・」


「わたしは40本よ」


もう飛ぶように売れた。523本が1時間も経たずに完売した。



そして高級食材として世間で持てはやされた。

一般家庭に出回る事なくなり。

高級料亭で大根の刺身風にして出されるようになった。

歯応えのサクサク感と奥深いうまみで、1度は食したいものとなった。


高級レストランでは、高級サラダとして人気を集めていた。

もう、まぼろしの食材となって、見かける事もなくなった。



あの魔石を放って置くと、雑草がめちゃくちゃ育ちやがった。

なので又も耕耘機で耕した。

中には生き物みたい襲ってきた。

もちろん火球で焼き払った。


俺の植物魔法が、なんとなく原因らしき言葉を見付けた。

魔石による魔力に過重にさらされて雑草の進化だった。


鑑定でも、植物進化と出ていた。


だから収穫したら、魔石は取り出している。


それに俺も暇じゃーないので、週1の出荷と決めた。




「いさむ坊、大根があるかい。あったらばあさんが食べたいって」


渦から大根を取り出した。


「3本でいいかい」


「ありがとうな、いさむ坊」


手さげ袋に入れて帰る牧田のじいさんだった。



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