第14話風魔法




ダンジョンの中で質問攻めだ。

魔法が取得できると言われたら、誰でも驚くだろう。

俺も習得時は驚いた。


「神須さん、僕には無理ですか・・・」


「無理だな。魔法の魔も感じないな」


ガクッとうな垂れる鈴木だ。


「そんな事を言って、わたしをだますつもり・・・」


「だましても俺には得にならないよ。だけどそれだけの対価が欲しいな」


「いいわ。わたしの全財産をあげるわ。1億円以上あるから」


え!そんなにあるの・・・見た目は30代なのに・・・


「神須さん、部長は司法試験を最年少でトップ合格して、検事になられた方です。ダンジョン法にも関わった人なので凄い方ですよ」


「鈴木、余計な事まで言わないで」


「部長、ここは売り込む場面ですよ。せっかくのチャンスを無駄してはダメです」


「・・・・・・」


「1億か・・・やってみよう。俺も未経験だから失敗するかも知れないぜ。それでもやるか・・・」


「やるわ。失敗した時は払わないわ」


「確かに・・・失敗して払えって、俺も言わないよ。そうだな、あの真ん中で座ってくれ」


言われるまま大人しく、彼女は座った。

それを男女が見てた。この2人も興味がありありだ。


鈴木はスマホで動画を撮りだした。



彼女の後ろに回って、背中に手を付いた。


「何をするの・・・突然に」


「これも魔法習得のスタートだよ。君自身がまだ魔法を信じてないから、俺がリンクして魔力の存在を教える第一歩って訳だよ」


「分かったわ。やってちょうだい」


そして彼女の魔力を探った。


う、これか・・・感じるぞ。あ!しまった。

彼女の魔力を吸取ってしまった。あ、あ、気分が悪い。


「何か温かいものを感じたわ」


俺の体内では、彼女の魔力がうっすらと循環じゅんかんしてた。

あ!又も【風魔法取得】と表示された。


え!習得したの・・・なぜだ!


「つづきは、まだしないの。はやくやってよ」


せかしやがって・・・心の準備が・・・


背中に触れて、習得したての風魔法の魔力を彼女のぼやけた魔力に注ぎ込んだ。


「あ!う、う、う、うずくわ」


彼女の表情がトロンとして目はうつろだ。


魔力入れ過ぎた。しかし魔力の循環が始まった。

今は、魔力がグルグルと回って体を馴染ませている段階だ。

それが手に取るように感じた。


俺は手をそっと離した。


「どうだ魔力を感じるか」


「ええ、感じる・・・これが魔力なのね。なにか懐かしい感じだわ」


「立ってくれ」


彼女はすくっと立った。


「よく見てろ。これが風魔法だ」



俺は手を前に突き出した。

手の平で空気を凝縮しながら回転させるイメージをした。


マスターから聞いた初歩の風魔法だ。


小さな回転が野球ボールぐらいになった。

それは周りの土ぼこりが舞って、人が見える球体になった。


「凄い、これが風魔法なの・・・信じられない」


「部長、近づき過ぎです」


鈴木に抱かれ引き戻された。


「あ!ごめん」それは彼女の女性らしい言葉だった。


俺は、球体を壁に向かって放った。

真直ぐに飛んで壁に当たると「ギュンギュウ」とうなった。

そして消えた跡には、ぽっかりと穴が開いていた。


「壁をえぐるなんて・・・凄いです」


彼女は、「自分自身に出来るでしょうか」と呟いた。


「自分が自分を信じてなかったら、誰が自分を信じるんだ。信じる事から始めろ」


彼女は目をつむり集中していた。


時間が刻々と経過した。

彼女は、目を開いた。


目の前に風が舞っていた。


「風が舞ってる。部長、風が舞ってます」


更に強さを増して竜巻になっていた。


「部長、竜巻です」


「そうね、今はこれが限界だわ」


「訓練すれば必ず出来るだろう。時間があれば練習だ。地上よりダンジョンの方が練習になるだろう」


「それは何故ですか」


「今の君は魔力量が少ない。ダンジョンなら魔力を吸収しながら使えるからだ。ただし用量を超えると気絶するから気をつけろ。俺も気絶したからな」


「気絶ですか・・・分かりました」


ちょっとふらついた彼女を、鈴木が抱き止めた。


「大丈夫ですか部長」


「大丈夫よ、ちょっと気が抜けたみたいだわ」


「それでは地上に帰りましょう」


「え!なぜ」


「部長、値段交渉がまだです。上の連中もきっと連絡を待ってるはずです」


「あら!すっかり忘れてたわ。皆さん、帰る事にしましょう」


ツカツカと歩き出した。



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