それから3ヶ月が過ぎたある日、警察署から連絡があった。落とし主は現れなかったらしい。


 僕はすっかりその箱のことを忘れていた。


 だけど受け取りに行かずに権利を放棄する気にはならなかった。


 僕は警察署で箱を受け取りその足で交番に向かった。もちろん、あのお巡りさんと箱を開けるためだ。3ヶ月振りに持ったその箱は少し重たく感じられた。


 交番に着くと、あの時とは別の若いお巡りさんが居た。僕は聞いた。


「以前ここに居たお巡りさんは?」


 若いお巡りさんは、僕の持つ黒い箱を眺めながら教えてくれた。その目は少し怯えているように見えた。


「3ヶ月前に失踪しました」


「失踪?」


「そうです。まるで神隠しにでもあったように忽然とここから姿を消したのです。その黒い箱を残して」


 僕はその箱を持って交番を出た。


 公園のベンチに座りその箱を眺めた。


 すべての光を吸い込んで一切の光を反射しないその箱は、僕から光を吸い込んで闇だけを残した。


 この箱は長い年月の間に僕の中に積もった後悔や、忘れるようにしていた慚愧そのものではないのだろうか。


 耐えられなくなって僕は箱を踏んで壊そうとした。

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