第88話 欣之助の大器に躍らせてもらう知恵
果たして、知恵の謎かけに欣之助も快く乗ってくれた。
「まあ、ふつうに考えれば、事件の表に姿を見せぬ、舞台裏の第三者であろうのう」
「でございましょう? 過日はともかく、ただいま殿さまを巡る女子と申せば、於万ノ方さまと於縫ノ方さまお二方のみ。となれば敢えて指摘するまでもございませぬ」
しきりに顎を上下させる欣之助を確認した知恵は、ここ一番の駄目押しを試みる。
「親子ほど年上の殿さまの側室に納まり、厚かましくも子どもまで儲けようとの画策には、若輩なりに相当にしたたかな算盤を弾いておったはず。於万ノ方さまを退け、正室の座に納まろうと企んだとすれば、欲得絡みの人情として得心がまいります」
「ふむ、やさしげに見えて女子は恐ろしいわい」
欣之助の見解違いを、知恵は即座に訂正する。
「いえ、於縫ノ方さま単独の犯行ではありますまい。城内随所に同朋を配しておけば関係者の手から手へと渡されたお料理に毒を仕こむ機会はいくらでもありましょう」
*
あらためて当時の状況を
殿さまの信頼が厚い老厨房人の指図で調理した料理を御台所奉行が食見を行った。問題がなかったので御末頭(女中頭)が蠅帳で銘々の料理を覆い御次(奥方付女中)に渡し、御側(腰元)の中年寄が毒見をし、各々の姫君付老女が配膳を行った……。
「してみると、一年以上も前から
欣之助に手放しで絶賛された知恵は、初めて気がついたことに気がついた。(笑)
とっくにすべてを承知のうえで、わたくしに花を持たせてくださったのか。( ;∀;)
仲睦まじい飼い主たちの会話を、ぽんぽんと背中で弾ませながら、鉄扇と霧笛は、お互いに如何にも愉しげな眸を見合わせて、規則正しい歩みを江戸へと運んで行く。
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