第3-3便:活路を切り拓け!
……いや、落ち着け。異常が発生しているということは、必ず何か原因があるはずだ。
私は深呼吸をして冷静になると、動力ハンドルを操作して魔導エンジンの出力を下げることにした。低出力状態にしておけば、少しは動作が安定すると考えたから。
その予測は当たり、エンジンの不調は続いているものの船の前後への揺れはかなり収まる。当然、出力を下げたのでスピードは大きく下がってしまったけど。
しかも船は川の流れに逆らって進んでいるので、いずれは下流側へ押し流されてしまうかもしれない。
ただ、現時点で船は進行方向へ慣性の力が働いているし、低出力ながら前へ進んでいるのでしばらくは流されることはないと思う。
「よし、今のうちに原因を調べなきゃ……」
私は操舵輪を握ったまま、船全体に
今回はもし船体や魔導エンジンなどに破損があると判明しても、魔法力回復薬を大量に持ってきているから整備魔法で対処できる。
備えあれば憂いなし! 準備してきて良かった……。
「不具合があるとしたら、可能性が一番高いのは魔導エンジン。あるいは駆動系かな。――
意識を集中させると、直後に私の頭の中には魔導エンジンに関する情報が流れてくる。
それによると、やはり出力が不安定になっているのはデータ上でも明らかだ。でも不思議なことに異常があるのはそれだけで、ほかのどの部分にも大きな破損はない。
「どういうことなの……これ……!?」
私は事ここに至って再び戸惑ってしまった。
どこかが破損して出力が下がるのなら理解しやすいし、対処だって慣れたもの。だけど今は魔導エンジンそのものには問題がないのに、なぜか出力だけが下がっている。
ということは、動力伝達や駆動部品に異常があるということなのか?
――ううん、整備師としての経験と勘によると、それはにわかには同意しがたい。
だってそれらに原因がある場合、スクリュープロペラなどが止まってしまうはずだから。でも実際には低出力ながら確実に動作している。
「で、でもちゃんと確認してみないと!」
憶測で判断するのは危険だ。ゆえに私は不具合の原因と思われる可能性が高い部分から順番に調べていった。見落としがないよう注意しながら、一つひとつ確実に。魔法力を多く消費したとしても、今は回復が出来るのだから。
でもその作業が終わると、私の頭の中は完全に真っ白になって呆然としてしまう。
なぜなら――
「原因が……分からない……」
船体や魔導エンジンなどを念入りに調べたにも関わらず、不調の原因が不明のままだった。
出力だけがなぜか下がっている。こんな状況に遭遇するのは初めて。未知の不具合がこんな大事な時に発生するなんて……。
完全にお手上げ状態で、私は軽く震えていた。操舵輪を握る手には自然と力が入り、呼吸も乱れていく。
「シルフィ、どうした?」
背後から声をかけられ、私は大きく息を呑んだ。
振り向いてみると、そこにあったのは心配そうな顔でこちらを見つめている社長の姿。どうやら彼も船の異変に気付いて様子を見に来たらしい。
気付けば私は額にびっしょりと冷や汗をかいていて、全身にも鳥肌が立っている。
「あ……あの……船が……出力がなぜか下がって……。
「落ち着いて、シルフィ。大丈夫……大丈夫だから……」
私の両肩を軽く掴み、優しく声をかけてくる社長。
すると不思議と私の不安はスーッと抜けていって、少しだけ冷静さを取り戻せたような気分になる。
そうだ、私は私の役割を忘れてはいけない。ボーッとしている場合じゃない!
私は両手で自分の両頬を叩いて気合いを入れ直すと、社長に対して状況を事細かに説明する。
「――というわけなんです。社長はどう判断しますか? アドバイスをください」
「ふむ……」
それに対して社長はアゴに手を当てて軽く考え込んだ。彼ほどの豊富な知識と頭の回転の速さを持ってしても、即座に答えは出ないようだ。
もっとも、その沈黙もほんの数秒のことで、すぐに私へ反応を示す。
「シルフィ、異常は魔導エンジンの出力が下がっているということだけなんだね? ほかには何も問題がなく、各パーツにも破損や不具合は見られない、と」
「おっしゃる通りです。だから原因が分からず、対処に困ってしまいまして」
「じゃ、シルフィは魔導エンジンに
「っ!? なるほどですね! それなら途中で別の異常が発生してもすぐに分かりますし、この位置からならリバーポリスまで魔導エンジンも耐えられそうですしね!」
思わず私は感嘆の声を上げて脱帽した。あのわずかな時間で、最適だと思われる対処法を導き出すなんてさすが社長だ。
(つづく……)
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