第8話 魔法の里編
「きれい…」
そう呟いてからふと我に返った、火から距離を取るべく後ずさった瞬間それまで青白く周囲を照らしていた炎の球は一瞬で赤く温かい色合いに変化し、照明のように頭上に円を描いて停止した。
信じられない魔法の練度だった。あれから9年たった今でも私はあの時ラビがやっていた魔法を完璧に再現するのは不可能だ。
「サンゴちゃん、僕が魔法の練習をしているときは危ないから近づいちゃだめだよ。 もしサンゴちゃんが死んじゃうような眼にあったときは僕どうなっちゃうかわかんないから。」
「……」
私はラビの魔法のすさまじさに圧倒されていた。なにせ、私にとってラビの魔法とはあの事件のときの、他人を傷つけかねない恐ろしいものという認識だったから。
私がラビの言葉に答えないままその場には沈黙が漂っていた
ふとラビが後ろを振り返りお堂の階段を指さして、
「話したいことがたくさんあるんだ。座って話そう」
と言ってきた。
~~~~~~~~~~~~~
並んで境内に座ってから2、3分ほどラビは何も話さなかった、その間手をそわそわと動かしながら、意を決したように口を開くが何も発さずに口を閉じるという行為を幾度か繰り返し、ついに絞り出すように話し始めた。
ずっと会いたいと思ってた。でもあの日サンゴを怖がらしてしまった僕のままじゃ、またいつかサンゴを傷つける。そのために毎日毎日魔法を制御する練習をしたよ。
知ってた?僕の病気はマナの生成は制御できないけど、作られたマナを制御することは出来るんだ、だから僕はあきらめなかったよ。
小学校に上がったときにやっとの思いで自分の作ったマナを全て制御することができるようになったんだけど、しばらく会ってなかったから君と会うのが怖かったんだ。絶対に嫌われていると思っていたし、どうしたら君と仲直りができるのか寝ずに考えたんだけど、結局思いつかなかったよ。
君から話しかけてくれたときどれだけ僕がうれしかったことか…!。そして決心したんだ僕の人生サンゴに捧げようって。
「はあ?!」
ラビの話は飛んでもないところに着地した。
いくらなんでも急すぎるし、何より私はそこまでラビに好かれるようなことはしていないはずだ。
「急に話だし、びっくりするよね」
「確かに、びっくりしたけど…。ていうかさっきからなんかキャラ違わない?私のこと呼び捨てしてるし」
「うん、これが僕の素だよ。僕は周りのみんなにどう思われてもいいから、とりあえず愛想よくしてるんだ。でもサンゴだけは特別、ありのままの僕を見てほしいんだ」
「へ、へぇ。あっそうだ、ラビの魔法!どうやったらあんなことができるの?」
ラビの話がどうにも気まずく、私は必死に話を変えた
「別に特別なことはしていないよ、毎日マナ操作を限界までやり続けただけだよ」
「限界って?」
「倒れてまで。」
「はあ?!」
もしやさっきの練習も私が止めなければ倒れるまで続けていたのだろうか、危うく死にかけたが、止めに入ってよかったのかもしれない
「もう二度とサンゴを傷つけたくなかったからね」
「そこまでしなくても…」
「まあ、ほかにも目的があるから」
「ほかの目的って何?」
「神になる」
「は?」
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あれから9年、私たちは元通りとはいかないが前とは別の形で仲良くやっている。
もちろん今の話を誰かに話したことはない、私たちだけの秘密だ。
ここから先はラビにも話していないことだけれど。
私はあの日からラビと過ごしてきたことでラビを好きになってしまっている。いや、好きなんてもんじゃないと思う。
私はラビを愛しているのだ。
ラビはあれから9年間ずっと私にだけ心を開き、周囲の人間には作られた仮面を見せ続けてきた、実の両親にさえもだ。
そのことが私にはたまらなくうれしく、ラビの愛を一心に受けていることを実感する瞬間であった。
そう感じるたびに私の体は電撃のように快感が走り、思わず震えてしまう。
里のみんなはラビを天才だともてはやしているが、私に言わせればそんなものは過小評価としか言いようがない。
ラビをあそこまでの実力たらしめているのは才能という巨大な土台の上に立つ血を吐くほどの努力の結晶だ。
その努力こそが私への思い証だと私は胸を張って言うことができる。
だから私はラビを愛する、その莫大な愛に少しでも寄り添うために。
私のこと異常だと言う人はいるだろう、そんな人に私はこう言ってやりたい。
「自分のことが好きな人を好きになるのがそんなにおかしなことか」と。
~~~~~~~~~~
気づいたら服は全て畳み終わっていた。
それから、服を段ボールへ移す作業を行い、ほかのものを段ボールにしまう作業をおこなっている最中にラビが帰ってきた。気づけばもう11時だ
そろそろお昼を作り始めよう、冷蔵庫内の食材を使いきるためにも張り切らなくては
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