第7話 魔法の里編
最初に班編成を見たときは驚いた
しかしすぐにこれは仲直りするチャンスだと思った
私はすでにあの誕生日の時の恐怖を乗り越えた気でいた、そしてあの日から距離を取ってしまったことを謝ろうと思っていた。おとなしいラビのことだきっと事件のことで気を病んでいるに違いないと思っていた。だからキャンプの計画を練るために初めて班で集まったときにラビの様子をみて衝撃を受けた
何事にも興味を示さず、天使のような純粋な瞳で虚空を見つめていたラビはそこにはおらず、頬は痩せこけ、眼には隈、瞳はうつろな少年が立っていた。
私は最初誰か知らない子がいると思い、ラビの姿を探していた、そしてその子が班員の前で「1年2組のラビです、よろしくお願いします」と自己紹介をするまで全く気付かなかった、いや自己紹介を聞いた後も数分間はそのことを信じられなかった。
確かに赤く燃えるような髪と、カチューシャ型の機器を身に着けているのは私が最後に見たラビの姿と一致する、がそれ以外がまるで違う
私は自分の自己紹介を短く終わらせると、ほかの子が自己紹介をしているときに隣に座るラビにこっそり話しかけた
「ねぇ、ラビ」
「あっサンゴちゃん久しぶり…、背、大きくなったね。一瞬誰かと思ったよ。」
それはこっちのセリフだと思った
「ラビ、どうして、そんなになっちゃったの?」
「そんなって?」
「すごいやつれてるじゃない!」
「まあ、ちょっと寝不足かも?」
私は変わり果てたラビにそれ以上かける言葉を見つけられなかった。
~~~~~~
「それじゃあ、班長の子は班の人数数えて先生の所に報告に来てくださーい」
ラビの変化に戸惑っているうちに時間は過ぎ去り、キャンプ当日になってしまった。おかげで私はキャンプの日程をほとんど把握できていなかった。
私はこの段階になってもこのラビを偽物なんじゃないかと疑っていた。
本当のラビはどこかにとらわれていて、ここにいるこいつはラビに成り代わってみんなをだまし、何か悪いことを企んでいるのではないかとさえ思っていた。
…どおやら私は妄想の激しい子供だったようだ。昔の自分を客観視してとても恥ずかしくなってきた…
私はこの妄想を半ば真実だと思い込み、キャンプ場へ行く道中で、ラビと同じ一年生の子に聞き込みを行っていた。ラビは入学した時からあのような見た目だったのか、いつからのあのような正確になったのか等々、多くの意見を集めた結果。どうやらあのラビは本物だということが分かった。
多くの同級生が授業参観にてラビの両親を見ているし、中にはラビの家に行って遊んだことがある子もいた、何よりあのカチューシャ型のマナ抑制装置だ、あれはマナ過剰生成症の人専用の機器で普通の人がつけると、頭がくらくらし、まっすぐ立つことさえできなくなってしまう代物だ。
キャンプ場について最初に行ったのはお昼ご飯を作ることだ
薪と新聞紙、そしてライターを使って火を起こし、その火でカレーを作った。
流石は天下のカレールー、まだ小学生の私たちが作っても十分においしいものが出来上がった。私は完成したカレーをおいしそうに食べるラビを見ながら、二人きりで話しかけるチャンスをうかがっていた。
その後は竹から箸を作ったり、近くにある遺跡を見に行ったりと、ラビに話しかけるチャンスは何度もあったのだが、そのたびにラビは私を避けるように、ほかの友人と話たり、先生に話しかけに行ったりと、もどかしい時間が続いた。
とうとう夜になってしまい、私たちは班ごとにそれぞれまとまってロッジで寝ることとなった。
夜中ふと目が覚めて、周囲を見回すとラビの寝袋が空になっていることに気づいた。
トイレにでも行っているのだろうと思ったが、これは二人きりで話し合うことができるチャンスなのではないかと思い、私はロッジを出てトイレの方向へ歩いて行った。
トイレへ向かう途中にふと魔法の気配を感じた。
私はその魔法の気配を頼りに横道へ進んだ。今考えると夜中の森で魔法の気配がするなんて尋常じゃない状況だ、そんなものに近づくなんて危険すぎる。それでも私が魔法の気配へ近づいて行ったのはその魔法になぜか安心するような温かいものを感じたからだ
最近使われていないことがわかる荒れ果てた小道を歩いていくと明かりに照らされた古びたお堂が見えてきた。
あのお堂を照らしているのが辿ってきた魔法だとわかった。魔法を使っている人が誰なのか私は何となくわかっていた、だがそんなはずがない、なぜならラビは魔法なんか使える状態じゃないはずだからだ。
しかし、私の予想は当たっていてお堂の陰で炎を生み出していたのはラビだった。
あのカチューシャはお堂の階段の上に無造作に置かれてあった。
その頃私は学校の授業で魔法を習い始めたばかりの時期で、ラビが発動しているのが炎魔法の基本である”ファイアボール”であることは分かった。しかしそれは私の知っているものとは別物であった。
私が作ることができた”ファイアボール”は赤い火の玉であったが、ラビのそれは青い球体の形をしていた。一目見たときはそれが炎魔法であることさえ分からなかった、水魔法かななんて考えもしたけど、光る水魔法なんて聞いたこともなかったし、なによりラビが扱うのは炎魔法であることはあの日の出来事からわかっていたので、それが炎であること明らかだった。
二人きりで話す千載一遇のチャンスであったが、私は声を上げるのを一瞬ためらった。なぜならラビの表情が驚くほど真剣で、その緊張感がこちらにも伝わってきたからだ。
だがここで話しかけなければ、次はいつになるかわからない。何より自身の好奇心をこれ以上抑えるのは不可能だった。
「おーい、ラビー!」
「……」
「ねぇ!ねぇったら!」
「……」
声を掛けても一向に返事を返さないラビに私は無視されてるんだと思い、少々苛立ちながらラビのもとへ歩いていき、ラビの肩に手を置いた。
「ラビ!」
「わあっ!」
やはり昔の私は擁護しきれないほどの馬鹿であったと思う。魔法を発動している人に近寄るなんて相手がラビでなくても危険な行為だ。もしこのとき怪我を負ったとしても100%自己責任である。
私が強引にこちらを振り向かせようと、ラビの肩を強めに掴んだ瞬間、それまでラビが極度に集中することで維持していた魔法がはじけたのだ。
後から聞けばその炎のかけら一つ一つが人一人を殺すには十分すぎる火力を持っていたらしい。
ラビの手元で綺麗な球体を保っていた”ファイアボール”はラビの制御を離れ四方にばらまかれた、もちろん近くにいた私にもその炎は当たると思われた、しかし私にあたるはずだった炎は私の顔の寸前で停止していた
「いやぁー危ない、危ない。サンゴちゃん目は閉じといた方がいいよ、失明しちゃうかもだから」
「う、うん」
目を瞑りながら、その場から2,3歩離れたところで目を開けるとそこにあったのは、爆発するように散らばった炎一つ一つが空中で停止している光景であった
その光景はまるで銀河に浮かぶ星々のようで、私は思わず
「きれい…」
とつぶやいたのだった
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