第6話 魔法の里編

 ラビが台車を押して歩いていくのを見届けた後私はリビングへ戻り、引っ越しの荷づくりを開始した


「これは…いらいないかな。」


 まず最初に取り掛かったのは引っ越し先へ持っていく衣類の選別だ。

 私は周りの子たちと違ってあまり服を持たない方だけどそれでも段ボール3個を使ってなお、収まりきらない程度にはある


 段ボールに入れる前に持っていく服とそうでないものを分ける、それから持っていくものを丁寧にたたんでゆく。


 もくもくと服を畳んでいると思考が別の方へ逸れていく



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 私がラビに初めて会ったのは、13年前、私が物心ついて間もないころだった。赤ん坊のころのラビはそれはもう可愛くてもちもちして天使のようだった。

 まだ3歳だった私がそんなラビに対して初めて抱いた感情は私が守らなくちゃというものだった。

 そのころ私がはまっていた絵本の内容が悪い奴にさらわれたお姫様を王子様が助け出すという典型的な物語で、それに影響されたのだとおもう。

それはそれは可愛かったラビをお姫様に見立て、悪い奴にさらわれないように守ってあげなければと使命感に燃えていたことを今でも覚えている。


 二人の親同士が仲良かったこともあり、私たちは年に一回は一緒に旅行に行っていた。旅行先に行ってもボーっとしていてホテルの部屋から出ようとしないラビを引っ張ってホテルの中を探検したり、親と一緒に観光地を見て回ったりした

 思えばあの時、私は本気で将来ラビと結婚するんだと思っていた。


 私の中でラビの印象が変わる事件が起きるのは、ラビの4歳の誕生日だった





 ラビの4歳の誕生日、私たちはお互いの家族で盛大にお祝いをした。私はラビのために誕生日ケーキを母親と作った。ラビが誕生日ケーキに刺さった4本のろうそくの火を消そうとしたときにそれは起こった。



 ラビの口から出たのは子供特有の小さな吐息ではなく巨大な炎であった

 炎はろうそくは焼き尽くし、私の前髪を掠めながら突き進み先にあった壁を焦がしたところで消え去った


 その場でけが人が出なかったのは奇跡というほかない


 それは通常「芽生え」と呼ばれる現象で、幼子が人生で初めて魔法を発する瞬間であった。通常子供は大量のマナを扱うことは出来ないため、まさに芽生えのように小さなつぼみのような魔法が発せられるのが普通であった。



 すぐさま誕生日会はお開きになり、ラビは里の外にある大きな病院へ連れていかれた


 下された診断は”マナ過剰生成症”というものだった。


 世界でもいくつか例がみられる特殊体質で普段脳による指令によってマナを生成している魔臓だが、この症状を持つ人の場合は一度マナの生成が始まると脳が抑制の命令を出してもその命令が行われるのに常人の数倍の時間を要してしまう。

 これの何が問題かというとまず一つがラビのようにマナの操作に習熟していない場合魔法が暴発する危険があるということ。そしてもう一つの問題が、多量のマナが体内の機能に障害をもたらす可能性があるということだ



 症状は非常に深刻であるが、この体質のせいで死亡した例は以外にも少ない。ようは魔臓を働かなくすればよいのだから、外科手術で魔臓を取り除いてしまうことで症状は回復するのだ。

 それに最近では魔臓の働きを弱める薬も開発されたので、それを飲み続ければ通常通りの生活は送れるらしい。



 死の危険性が少ないと聞き、ラビの両親は大きく安堵した。そしてラビには応急措置として魔法の暴発を防ぐための機器を装着することになった。


 ラビの頭にはカチューシャ型の機器が装着され、それまでの生活に戻った。


 私たち家族も表面上はいつも通りの生活に戻った。


 しかし、それまで週に3回はお互いの家で夕食を食べていたが、事件以降は週に一回まで減り、会話の内容も明らかに無理したものになり、どこか冷たい空気が漂っていた。

 その原因は私たち家族のラビへの忌避感によるものだ。例え同じようなことが起こる可能性が無くなったとしても目の前を豪炎が掠めたのだ、両親が娘に近づかせたくない思ってしまったのも無理はない。



 そういった日々が2週間ほど続き、ついにラビの両親から直接謝罪をされ、無理しなくて良いと告げられ、私たち家族はラビの家族と関わるのをやめた。



 ラビと一緒にいるのをやめた私は同世代の女子たちとよく遊ぶようになった。そのときできた友達は今でも親友として仲良くしている。



 あの事件から2年が経ち私たちが小学生になったとき、全校生徒で行うキャンプが開催された。



 そこで私はラビと同じ班になり、3泊4日の共同生活を送ることになるのだった。

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