第5話 魔法の里編
ラビが鼻歌を歌いながら先ほどの商店までの道のりを歩いていく
交差点に差し掛かるとちょうど信号が赤に変わってしまい足止めを食らってしまった
ラビがぼーっと信号が変わるのを待っていると声を掛けられた
「よお、ラビ。」
「…カイト」
ラビに声を掛けてきたのは、いかにも半グレといった風体の青年だった
カイトはラビの同級生で小学生からの知り合いだった。というか学校が一つしかないこの里では子供たち全員が同じ学校に通うため、必然里の子供は全員顔見知りである
「久しぶりだなぁ。」
カイトはずいぶんと親し気にラビに話しかけきた。
「俺は学校卒業してから朝から晩まで自警団でしごかれててよお、なかなか会う機会が無かったな」
「へえ自警団に入ったんだ、だから髪も坊主にしてあるの?」
「そうなんだよ、入った初日バリカンでやられたぜ、ひでぇよな。でもな、最近は上の連中もボコせるようになってきたんだぜ、この調子で来年には団長になってるかもな!」
小学校低学年の頃から体格に恵まれていたカイトは喧嘩において負け知らずであり、喧嘩に負けた相手を子分としてこき使っていた。もちろんラビも喧嘩を売られたことはあったが、反撃もせずなすがままにされていラビは、カイトの目には不気味に覚えたらしくそれからあからさまに喧嘩を売られることはなくなった。
カイトのガキ大将っぷりは中学校になっても収まるところを知らず、最初は授業のさぼり程度のものだったがどんどんエスカレートしていき、万引きを手始めに、里の外へ無断で出てその先でもめ事を起こすなどひどいものになっていったが、どうやら見かねた親が自警団へ入れて性格を矯正しようとしたらしい。
効果はあまりなかったようだが。
「そういえば、お前は魔法大学に行くんだってな、まだ16じゃねぇってのに」
「うん」
「あ~あ、俺にもお前みたいな魔法の才能がありゃなぁ。」
「才能があったら…」
「あん?」
「僕みたいな才能があったならどうしたんだい?」
「そりゃあ、決まってるだろ。魔法大学に入学して、卒業したら軍の幹部としてエリートコースだ。そうなったら、サンゴもお前じゃなく俺についてくるだろうなぁ」
実は、というほどでもないが、サンゴは里の男たちから結構人気がある、同年代とは思えないほどの大人びた美貌とラビのような相手にもかいがいしく世話を焼くあの性格の良さだ。カイトも中学校に上るとほかの男子と同じようにサンゴに惚れ、何度もデートに誘ったようだが失敗に終わっている。
そしてサンゴに振られると今度はラビにその怒りをぶつけてきた。
最初は小さな嫌がらせだったのだが、そのたびにサンゴがラビのフォローをするためにカイトの怒りは増すばかりであった。しかし、この小さな里で刃傷沙汰など起こせば、瞬く間に居場所を失うことは明白だ。里の外で事件を起こしてもまだ許されたが身内が相手となったら、里の全員がカイトの敵になるだろう。そこでカイトは中学にあがって解禁された魔法を使った模擬戦闘を利用することにした。
不慮の事故を装ってラビに怪我を負わそうとしたが、ラビ相手に魔法で勝てるわけもなく、不正を行う暇もなく一瞬で負けるのだった。
幾度もの模擬戦闘の果てにいつの間にかサンゴのことなどどうでもよくなっていることに気づき、ある日割に合わないと言って魔法の授業を欠席して以来、ラビに突っかかってくることはなくなった。
それから1年ほど経ち、自分達への興味は完全になくなったものと思っていた
だがどうやら、ラビが1年早く魔法大学に行くことになったと知ってラビに対する敵愾心が再燃したようだ。カイトはサンゴがカイトに世話を焼いているのはラビの才能があるからだと思っているらしく、挑発しているつもりなのか執拗にサンゴの名前を出してくる。
「サンゴもかわいそうだよなあ、こんな魔法しか能の無い奴の世話をさせられてよう」
ふと見上げると、赤だった信号が青に変わっていた。ラビはなおもしゃべり続けているカイトを背に横断歩道を歩き始めた。
ラビはカイトに向かっていったのは一言だけ
「たった数回負けた程度で、魔法の道を諦めるような人間が、いくら才能があったって、僕に勝てるはずないでしょ」
背後でこれを聞いたカイトはその瞬間固まっていた
あまりにも単純明快な言葉の羅列に、脳が理解を拒んでいた。だが1秒後にはラビの言葉を飲み込み、カイトの頭は沸騰したように熱くなった
反射的に固く握られた拳は、ラビの後頭部に向かって振り下ろされた
はずであった
カイトが最初に覚えた感覚は拳が硬い頭蓋骨にあたる感触ではなく、頭痛そして吐き気であった。
は?なんだこれ?
そのすぐ後に体が硬いアスファルトに打ち付けられる
自身に何が起きたか理解する暇もなく、カイトは気を失なった。
カイトが道路の真ん中で倒れ伏したところで、ラビは振り向いた
「熱中症程度で気絶するなんて、自警団の訓練ってあんまり厳しくないのかな?」
ラビは意識を失ったカイトの体を車で轢かれる前に台車で押して、歩道に収めると信号が赤に変わる前にそそくさと台車を押してその場を離れるのであった
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