第4話 魔法の里編

 魔法の里を外界から遮断している結界は、里の中の気候を過ごしやすい状態に保つ機能があるが、ある程度は外の気候の影響を受ける仕様となっている。



 暦の上では3月となり、まだ冬の寒さを残しながらも道のわきに花が咲き始めたころ、ラビたちは魔法大学への入学日が迫ってきていた。


 入学と共に一人暮らしをするラビとサンゴは里の商店に一人暮らしに必要なものを買いに来ていた


 里には二つ商店があり、一つは食品を主に扱っていて店主のおばさんは良く村の子供たちに飴玉をくれる。常にニコニコしていて子供たちからは大変人気がある。


 もう一つの商店は洗剤やたわしなどの日用品を主に売っている。店主のおばあさんは飴玉とくれるおばさんとは正反対に子供たちに厳しく、子供たちを叱る声が時たま聞こえてくる。今回ラビたちが訪れたのはこちらの方で、引っ越しのための段ボールや荷物をまとめる紐なんかを買いに来たのだった


 ガラス戸を横へスライドさせると、来店を知らせる鈴の音が鳴る。


「いらっしゃい」


 店の奥、家とつながっているであろう奥の扉から店主のおばあさんが顔を出してくる


「こんにちは」


「こんにちは~」


「あんたらかい、今日は何を買いに来たんだい」


「私たち今年から魔法大学へ行くことになったので、一人暮らしのためにいろいろ買いに来ました。」


「へぇ、引っ越しはいつだい?」


「1週間後の20日です。」


「去年の入学式は4月の1日だったが、ずいぶんと急ぐんだねぇ里からあっちまで半日もあればつくだろう?」


「そうなんですけど、どうやら学長がラビに早く会いたいとおっしゃっているようで…」


「そんなことがあるのかい、小僧の魔法は外の世界でもよっぽど評価されているんだねぇ」


「そのようです」


 とサンゴが店主と世間話をしている間ラビは発売から一週間遅れて到着している漫画雑誌を立ち読みしていた。普段読むことのない漫画を前後の話を理解しないまま一話読み終わったときにサンゴと店主の会話をひと段落着いたらしい


「ラビ、私が商品持ってくるから、籠持ってて」


 ラビが雑誌から顔を上げて振り返ると、サンゴが黄色の買い物籠をこちらに向けて差し出していた


「うん」


 ラビが籠を受け取ると、サンゴが店内を物色し始めた、ラビはその後ろを金魚のフンのように付き従っていくだけだ


 サンゴが次々と日用品をラビの持つ籠へ放り込んでいく、そうしてラビが店主座っているところを横切ると、店主はラビをにらみつけ


「ラビ、あんた大学に行ってもサンゴちゃんを泣かせるようなことをするんじゃないよ。帰ってきたときにサンゴちゃんから話は聞かせてもらうからね。もしあんたがサンゴちゃんを悲しませていた時は…どうなるかわかっているだろうね?」


 と目じりを吊り上げてラビを脅してきた


「わ、わかってるよ。僕はサンゴがいないと生きていけないからね」


 そういえば昔からこの人はサンゴだけには甘かったなぁ、とラビは小学校のころを思い出しながら、ラビは答える


「大丈夫ですよ、おばあちゃん。ラビは魔法にしか興味がないんですから、間違いなんてめったに起こらないと思います」


 と横で店主とラビの話を聞いていたサンゴが左手にビニール紐を持ちながら振り返る


「だから心配なんだよ。昔っから趣味に生きる男が女を幸せにできたためしはないんだ。サンゴちゃんも大学でいい男がいたらラビなんかすぐに捨てちまった方がいいよ」


 そんな店主の表情は今ではなくどこか遠い昔を思うようであった

 人に歴史ありだなぁと自身のことであるのに他人事のようにラビは考えていた


「い、いや私たちそんな関係じゃないので、ほらっ姉みたいなものですよ」


「どこの世界に大学生の弟のために、わざわざ近くに引っ越す姉がいるんだい」


「い、いなくはないかと…ていうかなんでそのことを知ってるんですか」


「まさかとは思ったがほんとにそうなのかい?呆れたねぇ」


「~~~っ」


 かまをかけられたと気づいたサンゴは顔を真っ赤ににして、なにも言えなくなってしまった




 その後は買い物を終えた、ラビたちは店主から引っ越し用に段ボールをいくつか譲ってもらい、貸してもらった台車に商品と一緒にそれも載せて家へと帰るのであった



「じゃあ、私は荷物の準備を始めておくからラビは台車を店に返してきてくれる?」


 サンゴの家まで帰ってきたラビたちは、買ってきたものをリビングに広げ、引っ越しの準備を始めるところであった


「僕が荷物の準備するから、サンゴが返してくるってのは?」


「だめよ、そうやって見てない時間にさぼるつもりでしょ、さっさと行ってきて」


「はい…」


 ラビの提案は一瞬で却下され、ラビはおとなしく台車を押してもと来た道を窓るのであった。

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