第3話 魔法の里編
サンゴがラビに魔法大学への入学を告げてから数か月がたった
その間サンゴはラビに大学について単位という制度があることや覚えておくべき教授や人物をピックアップして教え、その他大学周辺の地理や大学卒業後の進路等を教えた後は、この際だからと、大学では必要ないがこの先生きていくうえで必要になるであろう常識を少々スパルタ気味に次々に叩き込んでいた
「はあ~疲れた~」
ラビはもはや定番となってしまった、夕食後の講義が終わり、疲れ切った様子で自分の家へ戻ってきた
「あんなの授業の域を超えてるよ~」
自室に入ったラビはその勢いのままベットへ倒れこんだ
ラビはサンゴから恨まれている自覚がある
なにせ生活力0の自分が今まで生きてこれたのはサンゴのおかげといっても過言じゃない、おまけに自分では気づけないのだが、たまにひどく人の神経を逆なでする言動することがあるらしく、それによる人間関係のトラブルが年に1度ほどある
そういったときに間に入ってくれるのはいつもサンゴだ
こういった事情から公私にわたってサンゴに頼っているラビは、サンゴから受けるたいていのことはそのまま受け入れるつもりであるが、ここ最近のスパルタ授業はなかなか堪えていた
「あんな情報、いったいなんの役に立つんだか」
あんな情報、とは男女のあれやこれやのことである
女子からの人気を予想して、サンゴはあらかじめ手を打っておくことにしたのである
およそ異性と付き合ったことのないサンゴがなぜあんなにも具体的に知っているのか
と一瞬疑問が浮かび上がったが、どうせ女子たちの集まりだろうなとすぐに疑問は消え去った。
ベットから立ち上がったラビは服を着替え、家を出た
そのまま、歩いて修錬場へ向かう
季節は冬、あまり季節による変化が見られない魔法の里でもさすがに防寒服を着こまないとつらい時期だ
しかしラビはいつものように薄手のローブを羽織り、寒がる様子は一切なく、鼻歌交じりで修錬場までの道のりを歩いていく。
修錬場についてラビは、いつものように中心部へ行き座り込んだ。
ラビの魔法の修錬は99%が基礎的なトレーニングだけで戦闘向きの魔法を練習することはない
それはラビの「膨大な量のマナを数ミリ単位で思い通りに操ることができれば、技を練習せずとも、やりたいことをやりたいように出来るはず」という理論によるものだ
要は最高の肉体があれば全てのスポーツで優勝できるといっているようなものだ、度を超えた脳筋と言ってもいい。まあそもそもラビは戦闘のために魔法の修錬をしているわけではないが
大気中の魔素を口から取り込み、体内の魔臓へ持っていきマナへ加工する。加工したマナを体内で高速で回転させながら途中で急停止させたり、時には捻りながらそれを行う、そうしたマナを体外へ放出し、火球を作り上げる。
その火球を維持しながら同じ作業を繰り返す。
ラビの周囲に浮かぶ火球が100を超えたころで、マナ操作を止め、火球の操作に移る
火球を縦横無尽に動かし、そのまま温度を上げていき、炎を青く変化させると100以上の火球を一つにまとめ直径2mほどにもなる火球を作り上げた。
作り上げた青炎の特大火球を何事も無かったように消し去ると、もう一度火球を位置から作り上げる作業を始めた
これらの作業はスポーツで言うところの筋トレにあたるものだ、ラビはこの作業を手を変え品を変え、5歳のころから毎日行ってきた
2時間後、基礎錬を終えると、ラビは立ち上がり、懐からノートを取り出した
ノートを開き、少し読んだらまたノートを閉じて側に置く
目を閉じて、集中に入るラビは一見立ち尽くしているようにしか見えない
しかし、魔法使いならば見えるはずだ、ラビの体を覆うように、マナが竜巻のように高速で渦を巻いている光景が。マナを正確に視認できる力量のあるものならばラビの体が見えないほどの高密度に圧縮されたマナに驚愕するだろう。
もはや魔法とは言えない力業で、理論上すべての魔法をかき消すことのできる魔法だが、大量のマナを使用する且つマナの操作に集中する必要があるためラビであったとしても現段階では体から数㎝の距離でしか展開することができない。
10分ほどマナの竜巻を維持し続けたラビは解除した瞬間にその場に座り込んでしまった。荒い呼吸を繰り返し、額には冷汗が滲んでいる。
「はぁっ、はぁっ、ふーーまだまだだなぁ」
ラビは汗を袖で拭い、一息つく。額に張り付いた前髪を書き上げるようにしてどかすと側に置いてあったノートをパラパラとめくり、何もないページを開くと懐から出したボールペンで文字を書き出す。
一心不乱にノートに書きなぐるラビは鬼気迫ったものであった。
数分後ノートから顔を上げたラビはスマホで時間を確認すると
「そろそろ帰るか」
とノートとボールペンを仕舞い、帰り支度をし始めた。
修錬場から帰途につくラビはポケットから飴玉を取り出し、口へ放り込む
「あま~~」
と疲労した脳に染み渡るような甘味に酔いしれるのであった
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