第2話 魔法の里編

「へ?」


 ラビの表情はまさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔だった


 私はその顔に思わずニヤつきそうになるのを我慢して、ラビにさらに告げた


「この里の子供は16歳になると帝都の魔法大学に通う決まりなの知ってるでしょ、ラビ、あなた10歳のころから飛び級で入学する話が来てたのに断り続けてたでしょ、とうとう大学の方がしびれを切らして里長に直談判に来たんだって、それで里長もokしちゃって、あなたは入学決定ってわけ」


「あああああああああああああああ!」


「きゃあっ」


 突然雄たけびを上げ始めたラビに驚いてサンゴは悲鳴を上げる


「なによぉ、急にうるさいわね」


「いやだぁぁぁぁ」


 大声を上げたと思えば今度は泣き始めたラビにサンゴ先ほどまでのにやつきを忘れ


「落ち着きなさい、入学するといっても最低でも4年間よ、卒業したら里へも帰ってこれるし、長期休みにも里へ帰ることはできるわよ!」


「4年も…4年も学校に縛り付けられるなんて」


「おおげさね…学校の何がそんな嫌なのよ」


「だって学校って、自分より出来ない人に足並みを揃えて、さらには授業よりも進んだ内容やると怒られるっていう、地獄のような無駄な時間じゃないか」


「あなたの中の学校の認識偏っているわよ…というか素が出てるわよ」


 そう、こいつは周りからは人畜無害をと思われているが、それは相手がラビの一切興味のない相手だから、この里でラビがここまで感情を表に出すのは私と二人きりの時だけだ。


「まぁ、あなたの認識もまるっきり間違いってわけじゃないけど、里の授業は出来ない子を出来るようにするのが目的なんだからしょうがないでしょ」


 まあ、ラビにとって無駄な時間だったという認識になるのも分かる、事魔法に関してこいつは教師なしで一人で学び、実践し、成長していく。教師泣かせの人間だ

 すでに知っていることを教えられる時間はラビからしたら苦痛でしかなかったのだろう


「でも、魔法大学は別に勉強を強要する場じゃないから、あなたにぴったりだと思うわよ」


「そうなの?」


「本当に魔法以外興味ないのね…里の学校でも教わったでしょ、魔法大学は基礎的な学問を修めた者たちがさらに深い知識を学ぶためにある場所なの、基本的に勉強を強制されることはないし、逆に学ぼうと思えばいつまでもどこまでも学ぶことが可能なのよ」


 ただしお金があるものだけという言葉をサンゴは飲み込み、ラビの反応を伺った


「う~~~~~~ん」


 先ほどよりかは忌避感も無くなったようだが、いまだうなり続けるラビに、まだ足りないかと思い、サンゴは最後の切り札を切った


「ちなみに私も今年から魔法大学に入学するからもし行かないならあなたはこれから一人で生活することになるわよ」


「僕、大学へ行くよ」


 変化は劇的だった、さっきまで下を見ていた視線はまっすぐ前を見据え、背筋もしゃっきりとしている


「はぁ~」


 とどめとなったのが自分であることに、呆れ半分喜び半分の何とも言えない気持ちとなり、サンゴは思わずため息がこぼれた


「ほんとにしょうがない男よ、あんたは」


「?、それって褒めてる?」


「そんな訳ないでしょうが」


「だよねー」


 さっきまでの動揺はどこへやらラビの表情は先ほどまでののほほんとしたものにもどていた


「じゃあ、わたしは里長にこのことを伝えてくるから、あなたも少しは大学のこと調べておきなさい」


「はーーい」



 これは調べないだろうなと長年ラビと一緒にいたサンゴにはわかっていたがその場では何も言わず、修錬場から出ていった。ラビ相手に言葉でどうにかしようとしても無駄だということもまたサンゴだからこそ知っていることであった。


「夕飯までには戻るよー」


 のんきに手を振っているラビに、手を振り返しながら、サンゴは後で椅子に縛り付けてでも、大学について学ばせてやろうと考えていた。




 その日の夜


 二人はサンゴの家で夕飯を食べていた


 食材を買い、料理するのがサンゴなので必然的にそうなるのだ


「はあー、おなか一杯。今日もおいしかったよ。サンゴのシチューは世界一だね」


「あなたのその誉め言葉も聞き飽きたわね」


「とか言っちゃってー、言わなかった不機嫌になるくせに、前もそれで…っ痛」


「なに?」


「いえ、なんでもないです」


 テーブルの下で脛を蹴られたラビはサンゴの圧に何も言えなかった


「あなたが洗い物終わったら、大学のこと教えてあげるからね、逃がすつもりはないから、無駄な抵抗はしないように」


「え゙」



 淡々と告げられる言葉にラビが固まる


一瞬逃げ出そうかとも考えたが、衣食住の全てを握られているサンゴに逆らうことは死を意味するので、ラビはおとなしく洗い物を続けるのであった

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