いずれ炎神にたどり着く
@skri
第1話 魔法の里編
この世界のどこかに魔法の里と呼ばれる場所があるという
その里に住む者は全員が魔法使いで、魔法によって隠されたその里は外の世界から隔絶された環境で、その里では現代の魔法とはまったく別の魔法が根付いているんだとか
とまあ、そんな噂が囁かれていたのは100年ほど前までの話だ
確かに里の住民全員が魔法使いではあるし、魔法によって隠されているというのも事実ではあるが、里の外へ日用品の買い出しに月に数回は外のスーパーやホームセンターに行くことはあるし、里の子供たちはみんな〇wichで遊んでるし、まったく隔絶なんてされていない。
魔法の使い方なんかも外の人たちとは少し違うけど、結果的には同じような魔法だ、いわば外のとの違いなんて無いようなものだ。
上で言ったような噂をしている人なんてもういない
唯一この里が魔法の里だと胸を張って言える点といったらあいつがいることくらいだ
この里始まって以来の天才である彼は、基本的に里の修錬場が出てくることはない
こんな風に言うと、彼を知らない人は自分に厳しい、求道者然とした見た目を想像するかもしれない。しかし、まったく彼自身にそんな雰囲気は無い。むしろ軽薄な印象すら受けるはずだ。私は家が隣にあり、子供のころから一緒にいることが多かったから一つ年上の私はあいつの姉のように扱われるようになってしまった。あいつもあいつで生活力が皆無なもんだから、自分の両親が忙しくて家を空けることが多い今は生活のほとんどを私に頼りきりでいる。
今も修錬場にいるあいつのためにお弁当を持っていく最中だ
我ながら甘やかしている自覚はある…
修錬場があるのは里の外れの岩山の麓だ、領域を表すように周囲に岩が置かれていて、長年魔法に晒され続けた地面は中心に向かって少し窪んでいる
その中心に立つ男が立っている
「おーい、ラビーー!」
私はあいつに向かって大声で声を掛けた、があいつがこっちを向く様子は無い
まあ、わかっていたことだ。集中しているときのあいつは遠くから声を掛けた程度で修錬を止めることことはない。
しょうがないわね…
私は静かに佇むあいつに向かって手のひらをかざし
「ファイアボール」
と軽く魔法を放った
私の手のひらから飛び出した火球はラビに向かって飛んでいき彼の1m手前でかき消えた
「ん?あ!サンゴじゃん!おーーーい!」
振り向いたラビは私が魔法を放ったことには一切気にせず、私の方へ手を振りながら声を掛けてきた
修錬場の入り口にいた私の場所までラビが歩いてきた
「来てたなら声かけてよ、ファイアボールじゃなくてさ」
「声ならかけたわよ、気づかないからやったの」
「そっか、ごめんね」
「謝るくらいなら、声かけた段階で気づいてちょうだい」
そんなやりとりをしながら私は肩にかけていたバックをそばにあったベンチの上に置き、自身もその左隣に座った
「ほらラビも座って、お昼食べるわよ」
「うん、今日のお昼は何かな?」
ラビが聞きながら、ベンチに座ると、サンゴがバックの中から小包を取り出す
「昨日と同じ、おにぎりよ」
「やった、サンゴのおにぎりおいしいから大好きだよ」
「おにぎりなんて誰が作っても味に違いなんてないわよ」
おいしそうに私の作ったおにぎりを食べ始めるこいつを横目で眺める
燃えるような赤い髪は肩まで伸ばされ、年頃の癖に運動も特にしていないため女かと見まがうほどの細腕、いつもニコニコしている優男っぷりは結構里の女子たちからは人気があるらしい。
こんな生活力壊滅なやつと結婚したら一生こいつの世話をかいがいしくしなければならないというのに、何がそんなに良いのか。
と言うと、そういうところも母性を刺激されるのだとか、まったく意味が分からない
女子の集まりでそういう話になると必ずラビの話がでてくる。そのたびに私はラビが気になっている女子に一度でも世話をしてみればわかると何度も説得したものだ
「ふー、ご馳走様。おいしかった、ありがとうサンゴ」
私が苦い記憶を思い出していると、のんきにこの男は私のより一回りほど大きく握ったおにぎりを二つ完食して、満足げに御礼を言ってきた
「お粗末様、この後はどうするの?」
「もう少しここにいるよ、まだ新しい魔法の操作がうまくいっていないんだ」
新しい魔法というのは、先ほど火球を防いだあれのことだろう
私の魔力感知では何が行われているのかさえ分からなかったけど、こいつからしたらまだ未完成らしい
「相変わらずの魔法バカね、変態だわ」
「ひどいなぁ、言いすぎだよ。」
なんて言いながらもこいつはへらへら笑っている
こいつのこの顔が崩れるところが今日こそ見れるだろうかと思いながら
私はここに来たもう一つの目的をラビに伝えることにした
「ラビ、あなたはこの里から出ていくことになったわ。」
「へ?」
ラビの顔は私の想像の3倍は笑える顔をしていた
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