初日の投球練習
「今から投手と捕手はブルペンに向かってくれ。内野手は二人一組で打撃練習、外野手は飛んだ打球の守備練を頼む」
「「「はい!」」」
浅野の後ろについてくようにブルペン向かう。
星奈と麗菜、七夕ちゃんとは別に二人の女子もついてく。
一人はこの中で一番背が低く、黒髪の三つ編みのおさげで文学少女を連想させる。
もう一人は、高身長のモデル体型で黒髪のショート。釣り目でクール女子の印象。
「彩希は水瀬にキャッチャープロテクターとミットがある場所に案内してくれ」
「分かったわ。行きましょ水瀬さん」
「はい」
「残りは投手だ。投球練習するまで、キャッチボールで肩を作るか」
「「「はい」」」
星奈とおさげ先輩、七夕ちゃんと浅野で間隔を空けてキャッチボールを行う。
「おさげ先輩、行きますよ!」
「おさげ先輩じゃなくて中野華恋です……」
「すみません、中野先輩」
中野は、左手でボールを投げる。
しかも、ミットを構えたところにボールが飛んでくる。
どうやら、中野は左投手で制球力が高い投手の様だ。
「中野先輩、凄いコントロールですねっ!尊敬しちゃいます!」
「えへへ……、人に褒められるの嬉しいな。ありがとうね、綺羅さん」
「本心ですからっ!」
「綺羅さんの球、……力強く感じます」
「強かったですか? すみません、硬式のボールを初めて投げるので、まだ感覚が掴めてません」
「そうだよね、軟式よりも少し重いからコントロール鈍るよね」
たまにミットを弾くボールを嫌な顔せずに取りに行っていることに、なつき度が上がるイメージをしてしまった。
中野と楽しくキャッチボールやってたら、捕手の二人が戻ってきた。
「お持たしてすみません」
「大丈夫だ水瀬。今まで肩を作ってたから、気にしていないぞ」
「レイちゃんと中野先輩、一緒に行こ」
「ええ」
「はい」
「浅野先輩、奥のレーン使わせていただきます」
「ああ」
二人の空いている手を握り、2レーンあるうちの奥のレーンまで引っ張る。
それを受け入れる二人。
「先に中野先輩がどうぞ」
「うん。 水瀬さんよろしくね」
「分かりました、先輩。では、先輩の球種を教えてくれませんか」
「えっと、カーブとスライダーが投げられます」
「分かりました、まずは直球からお願いします。その後は、球種を指示しますので」
中野は頷き、プレートに向かう。
水瀬が真ん中に構えると、中野先輩はボールを投げる。
そのボールは構えたところに命中する。
ボール速度はそこそこの速さでおそらく100キロは出てる感じに見える。
それからアウトコース、インコースに構えて投球練習を行う。
「投手としては平均速度の直球で、どのコースで変化球も精確で制球力が高い。先輩すごいですね……」
「ありがとうございます。高校生になってから球速が伸びなくなったから、コントロールを良くしようと思って」
「コースギリギリに決まる球って怖いからね。先輩強いよ、本当に……。すみません、上から目線で……」
「ここまで褒めてくれるの嬉しかったです。自信がつきます!」
「セイちゃんも見習わないとね」
「うぅっ、痛いところを……」
「次はセイちゃんの番ね」
「はーい」
ホームベースの後ろに中腰の体勢で麗菜が構えて、サインを行う。
まずはフォーシーム。
ストライクゾーンを9分割をする意識をもって、レイちゃんがミットをランダムに構えたところを投げ込む。
「セイちゃん、いいストレートだったよ!硬球でもさほど変わらい球速だったよ!」
「本当っ!?」
「うん、ただ構えたところの誤差15㎝以内には入れようね」
「う、うん。 頑張るっ!」
「セイちゃんのためなら投球練習はいつでも付き合うからね!(球速124キロぐらいかな?スピードガンあれば計れるのだけれど、強豪校じゃない感じだし……。)」
次にツーシームのサインを受け取り、投げていく。
「わぁー、は、はやいです!」
「……ほう。一年生でこの球速とは、凄まじいなぁ。今年も凄い投手が入ってきてくれたな。次のエースが楽しみだね」
「ありがとうございます!でも、浅野先輩がいても私がエースを狙ってるので、油断しないでくださいね」
「お、恐ろしいな……」
浅野は投球練習が終わったのか、星奈の投球を見ていた。
普通のことを言ったのに、浅野に引かれたような気がする。
「きらきら星が浅野先輩からエースを奪うなんて、ありえねーし。 調子に乗るなっつーの」
「調子に乗ってないもーん。 これは向上心というか目標みたいなヤツだよ!」
「セイちゃんは常に闘志が燃えてるからね」
「ふんっ、まぁいいや、ウチは投球練習に戻るわ。 芝井先輩お願いします」
「了解」
二人はまた投球練習を始める。
「セイちゃん続きしよ。もっと投げないと」
「うん」
次のサインはチェンジアップ。
腕の振りをストレート意識して投げる。
ボールが右下方向に沈んでいく。
「あの球速でチェンジアップは打てる気がしません……」
「さっきのストレートとの球速差が凡そ20キロぐらいか……。緩急使い分ける投手とか、私たちのチームの投手層が厚いな」
「ですね。浅野先輩は速さで勝負ですもんね」
「悪いか……?」
「いえ、そうではなく。 先輩もチェンジアップ使えば誰も打てなくなるのでは、と思っただけです……」
「速さで攻めるほうがカッコイイだろ?」
「カッコイイ……ですか?」
「ああ。 相手を捻じ伏せるのがたまらん」
浅野は両手を体に巻き付けて震える。
「(浅野先輩ってセイちゃんと似たようなタイプの投手な感じする……。セイちゃんって明るい笑顔で投球するからなぁ……)」
麗菜は最後のサインしながら、先ほどの会話を聞きそう思っていた。
決め球にして、今一番練習している球種。
◇
「何なのあの球……。去年より凶悪になってるじゃない……」
ボールを強く握り、七草は隣で投げてる綺羅に対して劣等感を抱いていた。
去年の夏、中学生県大会で松原中に当たった試合。
6回裏、9番の打席に立ち、綺羅との対決。
一球目のストレートを何とか見えて、打ったがファウル。
二球目はチェンジアップは、空振り。
三、四球目はゾーンを外してボール。
五球目にあの球が来た。
最初はストレートとほぼ同じ球速かつ軌道だったので、捉えたと思いバットを振ったが、ボールが掠らなかった。
ミットを見ると、下のほうにボールを取っていた。
「凄いわね。綺羅さん」
「くっ、……そうですね」
「あれはフォークとは別だけど、フォークのように落ちるわね。えぐいスプリットだね」
「綺羅は本当にすごい投手です。間違いなく全国に通用する投手だと思います」
「そうね。でも、私はあなたも凄いと感じたわよ。あなたも全国に通用すると私は思うわ」
「……芝井先輩」
「あなたにはあなたの武器がある。高身長から畳みかけるスライダーとストレートは、なかなか打てないわよ」
「……はい」
「さぁ、次いくよ」
芝井は、震えている七草に軽く肩を叩き勇気づけた。
「次!縦スライダーをアウトコースの下」
「……はいっ!」
それから休憩を混ぜながら投手を交代していき、投球練習が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます