公式戦前日の練習
入学日から3日経ち、本格的に授業が始まる。
それにより、授業よりも練習したいという気持ちが溢れ、授業に集中できない。
隣の小夜香は真面目に受けてて、麗菜の方を見ると目が合った。
星奈は先生に気づかないように小さく手を振ると、ウインクで返してきた。
これがバッテリーの意思疎通なのかと、思ってしまった。
昼休みになると、星奈、麗菜と小夜香の三人で食事タイムに入る。
「はい、セイちゃん」
「いつもありがとうね、レイちゃん」
麗菜はカバンから弁当箱を二つ取り出し、一つを星奈に渡してくれた。
「ねぇ、前から思ってたけど、中学でもお弁当を作って渡してるの?」
「う、うん。中学では給食だったから高校に入ってからだよ」
「セイちゃんっていつも美味しそうに食べてるから、嬉しくて。いつも作っちゃうんだよ」
「レイちゃんの料理ってすっごく美味しいんだよ! こんなにレイちゃんから貰ってるのにお礼できないの……」
「別にお礼なんていいよ、私の方こそいつも貰ってるからねぇ」
「……???」
「二人とも、お熱いねぇ~」
麗菜に何を上げてるか分からないけど、精一杯感謝しなければならない。
「地区予選がこのまま勝ち進めれば、4月の下旬から春季県大会が来るけど、一年生がどのくらい試合に出れるのかな」
「元々三、二年生で11人だったし、一年生は私たち入れて9人も入ったからメンバー入りも限られてるしね」
「私は試合に出れないと思うけどね、正捕手がいるもの」
「芝井先輩だよね」
「うん。一回だけ受けてもらったことあるけど、ミットに投げやすいし褒めてくれるからいい人だよ」
「一回だけなの?」
「うん。レイちゃんが芝井先輩に向けて凄く睨むし、不機嫌になるからね。それに私はレイちゃんじゃないと全力投球できないから」
「セイちゃん……」
芝井の話をすると、うるうるとしてた麗菜は今ではうっとりとした笑顔を見せている。
4月の一週目の休日に春季県大会の地区予選の地区代表戦が始まる。
入学式組の野球経験者たちは、とっくにベンチ入りが確定していた。
「一年生でも試合出れそうなのは、投手の二人か高橋さんだと思うけどね」
「ヴィクトリアさんだっけ?」
「うん。守備も今の二年外野手よりも上手いし、いいスイングもする。やっぱガールズ出身は違うね」
「そうなんだ!でも、レイちゃんなら代打で交代するかもね」
「それは難しいかもよ。芝井先輩も打者としても上位だし」
「そっかぁ……」
「代打はないかもだけど、7回になったら代走になりそうな一年生いるよね。夏になったら化けるかも」
「桑原 陸さん、だよね?」
「そう、元の陸上部の子。 ベースランナーの時に目立ってたよね」
「あの足の速さだと守備も上手くなれば、敵なしだね」
「この前桑原さんに聞いたけど、陸上部では100m走と砲丸投げをやってたらしいよ。肩も強そうだよね」
「期待の初心者かぁー!さよちゃんも頑張らないと、もしかしたらセカンド獲られるかもね」
「打撃練習頑張る!」
「じゃあ私が球を投げるよ!私の練習になるし」
「セイちゃんが投げるなら私が取るね」
「自主練の時にお願いしてもいい」
「うん!」
「大丈夫だよ」
野球話であっという間に昼休みが終わりに近づく。
「レイちゃんご馳走様。すっっごく美味しかったよ!」
「お粗末様でした。セイちゃんの笑顔見るだけで作った甲斐があったよ」
◇
放課後。
練習着に着替えると、ウォーミングアップということでグランドを10周に体が温まったところでストレッチ、最後は二人一組でキャッチボール。
その後はポジションごとの練習が始まる。
この野球部には、監督がいなく顧問の先生も野球に詳しくないので一年生の未経験者たちは浅野と芝井が付きっきりで練習が始まる。
投手と捕手はブルペンに行き、捕手である麗菜は一人しかいないので一人だけが投球練習でき、他は二人でキャッチボールを行う。
まずは麗菜と中野で投球練習を行い、星奈は七草とキャッチボールをして身体を温める。
「ねぇ、誰が春大で先発をやるんだろう、ね!」
「エースである浅野先輩じゃないか、な!」
「私と七夕ちゃんのどちらが先に先発を任せられるか勝負しない?」
「ふーん、面白いじゃない。もし負けたらどうする、の!」
「えっとー、負けたら手作りお菓子を作らせるっていうのはどうかな?」
「な、なんで……?」
「七夕ちゃんの手作りお菓子が食べたいからか、な!」
「っ!? 何でもう勝った気になってるの、よぉ!」
「いったいっ、急に強く投げないでよ」
「その自己中を直した、ら!」
「ナナちゃんと仲良くなりたいのはダメ?」
「ダメじゃないけど……、急に言われるとはずいなぁ―。別に勝ち負けじゃなくてもいいよ」
「えー、勝負した方が燃えてやる気があるのにっ!」
「じゃあ褒美なしで勝負ね。終わったらお互いに作るってことで」
「うんっ!心込めて作るねっ!」
ライバルで先発争いが出来る投手がいることは凄く嬉しいけど、目が会うたびに喧嘩腰になってしまえば、友達になれないと思い強引でも無理のない勝負を仕掛けたが、奈菜側も歩み寄ってくれたので、「少しは打ち解けてくれたかな?」と心の中で思ってしまう。
会話しながらキャッチボールをしていると、中野の投球練習が終わったので、ローテーションで星奈の後に奈菜の投球練習を行った。
◇
綺羅達が投球練習をしていたころ、グランドでは内野手のポジションごとに捕球練習を行っていた。
打球が強いヴィクトリアが、三塁手、遊撃手、二塁手の順に球を打ち、一塁手に送球する。
その練習をある程度やると、一塁手のノックが始まる。
一塁手が打球を捕球して二塁にいる二塁手に送球して一塁にいる一塁手に送球する。
「高橋さん、打球強すぎるよ~」
「泣き言はダメデース、私より強い打者を想定してゴロを打っているのデスよ!」
この高校の野球部の評判はほぼ浅野と芝井バッテリーのワンマンチーム。
特に目立っている二人の影には、どこの高校行ってもレギュラーが獲れるほどの選手がいる。
3年三塁手、市森 夏美。
赤茶髪で後ろに束ねているツインツール。
守備と打撃をある程度こなせて、欠点という欠点がない。
二年遊撃手、草野 晴菜。
緑色のミディアムヘアーで身長はそこそこ。
彼女は捕球が上手く、送球もあまり外れない。
全体的に動きがいいけど浅野や芝井がいない時、たまに練習をサボるのがネック。
二年一塁手、神園 渚沙。
黒髪でハーフアップをしている。
言動はおっとりしているが、打撃が得意で去年の秋大では打率は6割いっている。
「明日、明後日から春季地区大会の地区代表決定戦デスよ」
「だったら軽いノックにしてよ~」
「うぐっ……。さすがにちょっとやり過ぎたデス。ごめんなさい……デス」
軽い?内野ノックが終わり、軽い内野フライの後に外野フライの練習があった。
その後、明日の公式戦用にミーティングが始まる。
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